八話 呪縛
出会った日は雨が降っていた。コンビニの前に彼女はいた。長い黒髪の、どちらかといえばかわいいよりもキレイといった、目鼻立ちのすっきりした顔。その時にはもう晶を思い出していた。彼女は誰かを待っている風ではない。ただ、雨が落ちるのを眺めているようだった。
「よう。雨宿りか?」
俺は夢中で声をかけた。近くで見るとより一層美しく見えた。さらさらした黒髪。大きな目。高くて細い鼻。薄い唇。やはり晶を思わせるような雰囲気があった。これはきっと晶の仕返しなのだろう。胸が締め付けられるような痛みを発した。
俺は傘を貸した。後日彼女はちゃんと返しに来た。
俺は彼女に自分が神社の神主であると伝えた。ちなみに普段はコンビニでアルバイトをしている。
俺は彼女に名乗った。アキハルと。嘘を交えて言った。戒めのために。決して忘れることのないように。彼女が俺をアキハルと呼ぶ度に、自分を呪って生きていこう。そう決意した。
「付き合わないか?」
そう言ったのも俺からだった。美雪は快く承諾してくれた。嬉しいはずの出来事が、なぜか痛い。痛みを伴って頭の中をぐるぐると回っている。
美雪は俺に何も求めなかった。ただ一つだけ、時々縛って欲しいということ以外は。
縛る度にあの日の出来事が蘇る。強く縛りすぎてはいないだろうか。どこかやりすぎてはいないだろうか。怪我をさせないように、慎重に。そしておのずと丁寧になっていった。いや、臆病なのだろう。だって、怖い。苦しい。しかしこれもまた、晶からの罰に思えて仕方がなかった。