七話 落花
病室で俺達は向かい合った。
「すまない晶。俺…恨まれても仕方のないことをした」
晶は俯いていた顔を上げた。
「恨んだりなんかしないわ。私があんなことさせなきゃ良かったのよ」
その言葉はまるで槍のように俺の心を突いた。
どうして?どうして恨んでくれないんだ?悪いのは俺だろう?なのに一体どうして、どうして泣いているのは俺だけなんだ?辛いのは晶だろう?
晶はそんな俺から目を離し、窓の外を見ながら言った。
「ごめんなさい。一人にさせて」
晶の声は、俺を突き放すというより、慰めているように聞こえた。
俺は逃げ出した。病院から。現実から。晶から。情けなくて涙が溢れた。なにもかもから逃げ出した。臆病者。誰か俺をそう呼んでくれ。
しばらくして、晶が退院したという話を聞いた。俺は迎えに行った。が、どんな顔で会えば良いのかわからない。臆病者には相応しい、深い深い無力感が波となって押し寄せた。
晶の後を付けた。晶はまっすぐ家に向かっているようだった。横断歩道を渡る。その時晶は荷物を落とした。それを拾おうと屈み込む。後ろから来た人がぶつかって、晶が倒れた。
「おっとごめんよ」
そう言って去っていった。晶は起き上がろうと必死になっていたが腕に力が入らないらしく、なかなか起き上がれなかった。俺は手を差し伸べようと歩き出した。瞬間、トラックが突っ込んで来た。晶の細い身体が飛んでいった。居眠り運転だった。晶は即死だそうだ。
目の前で亡くしたというのに、しばらくは実感がわかなかったのを覚えている。だが時間が経つにつれて、後悔の念が押し寄せる。後一分遅くあそこを歩いていたら晶は死ななかった。俺がちゃんと迎えに行っていれば死なずにすんだ。ちゃんと話せていれば、もっと話せていれば…どうして俺はこうなんだ。臆病者!何度も自分をそう怒鳴りつけた。しばらくはなにもやる気が起きなかった。
今でも思い出す度に苦しくなる。自分を責めずにはいられない。自分を痛めつけた。何度も何度も。それはしばらくすると、他人に向くようになっていた。