六話 故意
晶と初めて出会ったのはこの神社だった。当時、お参りに来ていた晶に声をかけた。美しい人だったから。ついナンパしてしまったのだ。思えばそこで運命が決まってしまったのかもしれない。
晶とお茶を飲みながら話していた。晶は美容師を目指しているのだと言った。昔は事務員だったそうだが、職場での人間関係に疲れ、離職。よくある話といえばよくある話だろう。
その後、晶は美容師を目指した。その理由は結局教えてくれなかったが、美容師を目指す彼女の瞳には、なにか強い意志を感じていたのだった。
なんだかんだで晶と付き合うことになった。詳しい訳は忘れてしまった。きっとウマが合うとかそんな理由だろう。告白は俺からだった。
毎日が色鮮やかに輝いているようだった。光がいつもより眩しかった。吹きすさぶ風が妙に心地よかった。雨音が心を落ち着かせた。隣には椿のごとく美しい人。
周りの友人達は、俺たちのことを合わせてアキハルと呼んだ。晶のアキと春雄のハルを取ったのだという。良い響きだと思った。初めて二人で共有するものができて嬉しかった。
ある晩、俺は刺激を欲した。晶は快く受け入れてくれた。俺は心を踊らせながら晶を縛った。出来上がった作品はとても言葉では言い表せないほどの美しさがあった。気持ちが高ぶる。吐息が心を揺さぶった。晶の顔は真っ赤に紅潮していた。まるで宝石のようだった。
その後も何度か晶を縛る夜があった。あの日もそんな日常となにも変わらなかった。
「ほら!いってごらん?なにがして欲しい?ほら!早く」
いや、一つだけ、その日は手をきつく縛っていたのだ。鬱血するくらいに。その上、かなりキツい体制もとらせていた。
「痛い。流石に痛いよ。もうやめて」
「おいおい。そんな冷めるようなこと言うなよ。そんな悪い子にはお仕置きだ」
縛っていたロープが、もっとキツくなるように動かした。その時だった。ポキンと音がして、晶の腕が折れた。晶が痛みに堪えかねて叫んだ。俺はどうすれば良いのかわからなくなった。
「早く!早く解いて!痛い!痛い!」
はっとしてロープを解いた。俺は泣いてしまった晶を置いて救急車を呼んだ。しばらくして聞こえてきたサイレンの音は、俺を厳しく責め立てるように鳴り響いた。
晶の腕はもうまともには動かせないと診断された。それを聞いたときの晶の顔が、瞼に焼き付いて離れない。俺を責めるような、諦めたような、そんなではない。ただただ、美容師を諦めることが残念でならない。そんな顔だった。いつの間にか、目から涙が零れ落ちて、ピシャリとはじけた。