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五話 苦悩
俺は昔、一人の女を殺してしまったことがある。あれは五年前の冬のことだった。
当時付き合っていた彼女。田中晶さん。俺より三歳年上の美しい人だった。サラサラとした髪が風になびく度にいい匂いが運ばれてきた。美容師を目指していると言っていた。
いまでも彼女の何もかもを思い出せる。そう、思い出す度に苦しくなる。なんであんなことをしてしまったのだろうかと、いつも自分を責め続けている。もはや取り返しのつかないことをした。許されないことだ。
それなのに俺は新しい彼女を作っている。愛する事などできないのに、井上美雪という存在に縋っている。それどころか、過ちをもう一度繰り返そうとしている。俺は俺自身の欲望からは逃れられないのか。誰か俺を縛ってくれ。どうかどうかお願いだ。誰も傷つけないように、きつく縛ってくれ。
そんな願いは虚しく空に溶けていった。心に空いた穴は今なお口を開け俺を飲み込もうと画策している。俺は逃れる術を持たないか弱き罪の奴隷なのだ。
今回ちょっと短めだけど久しぶりの更新。