二話 恍惚
行為の後、私は夏紀と別れ、ある人に会いに行った。
何段あるか分からない長い階段を上り、息を切らしながらその人を呼んだ。
「アキハルさーん!」
しばらくすると、カジュアルな服の男が現れた。
「よう。なんか用か?」
アキハルさんはこの神社の神主だ。秋田春雄と言う名で、みんなはアキハルさんと呼ぶ。
「今日も、お願いしていいですか?」
「ん、ああいいよ。じゃあ、中入って」
私はいつも通りアキハルさんについて、その部屋に向かった。
「さて、じゃあ服脱いで」
「はい」
そしていつも通りアキハルさんがそう言う。私は服を脱いだ。もちろん全て。
「うん。それじゃあ始めるよ」
「はい」
アキハルさんの手によって、私の身体が拘束されていく。職人のような手馴れた感じで縛られていく。
「はい、完成」
気が付いたら、はあはあと、私の息が荒くなっていた。
「何から始めようか?」
すごく冷たい声でそう言った。それを聞いて、背中がゾクゾクした。
「今日は目隠ししてみようか」
奥の箱から、黒い厚い布を取り出した。
「顔上げて」
「はい」
逆らえない。まるで、神様の言葉みたい。アキハルさんは、その布で私の目を覆った。
「見える?」
私は首を振った。
「そう」
カチリ。と、金属の音がした。
「見えないって怖いよね」
耳元でそう囁かれた。また息が荒くなった。
「このカチカチ鳴ってる物ってなんだと思う?」
「え、えーと、何かの金属?」
「そう、ナイフ」
下の方が熱くなっていくのを感じる。
「ふふっ、冗談だよ。これはただのスプーン」
ほら、とアキハルさんは目隠しを少し上げてそれを見せてくれた。銀色のスプーン。目隠しを元に戻し、そのスプーンを口の中に入れられた。奥まで差し込まれた。
「苦しい?」
苦しかった。私の身体が、スプーンを外に出そうとして、えっ、えっ、と痙攣したようになる。
「うーん、やっぱりスプーンじゃ危ないかな」
そう言ってスプーンを抜き取られた。その代わりに今度は指を入れられた。口の中をかき混ぜられる。嗚咽のような声が響いた。
しばらくそれが続いていたが、急に指を抜かれた。
「もう終わりですか?」
「ああ、今度は別の事をしようか」
私の中に何かが差し込まれる。私の息が乱れる。
私はアキハルさんとの行為が、私の中で一番の幸せだと感じている。恍惚。こんなに冷たいのに、すごく丁寧で、美しい。私はアキハルさんのやることならなんでも受け入れられる。そんな気さえする。私にとって、アキハルさんは神に近しい存在なのかもしれない。崇拝しているのだろう。だから私、アキハルさんにもっと近づきたい。でもできない。いくら夏紀を縛っても、アキハルさんには到底及ばない。アキハルさんはどこか、とっても不思議な雰囲気を持っている。
アキハルさんが私の拘束を解いた。
「お疲れ様」
そう言って、私を抱き寄せ、キスをした。それが、私たちの行為の全て。
危うく書きすぎて18禁になるところだったぜこの話で読者の想像に任せるということを覚えた。