十二話 財布
田中駿、彼のことを意識している自分がいる。それはたぶんこの間可愛いなんて言われたから。しかし、それ以来もう一週間以上何もない。
なによ、その気もないのに気安く可愛いなんて言わないでよ。
なんて思ってたら告白されていた。なんだか好きなような気がして、付き合うことになった。
それからしばらくは楽しかった。駿の話は面白かった。
しかし、ある時から違和感を感じるようになった。出掛ける時、何かと都合をつけて、私に金を払わせるのだ。
初めはあまり気にならなかった。家庭が大変なのだと聞かされていた。だがある日、私は1人で歩く駿を見かけた。
どこへ行くんだろう?なんだか私と居るときよりも服装に気を使ってるけど。
好奇心があった。私は駿の後をつけた。
しばらく歩いた。突然駿が走り出した。その先には女の子がいた。
なにやら楽しげに話している。するとキスをした。
はっとして近づいていった。もう3メートルも無い。しかし気づいていなかった。こんなに近くにいるのに、駿は私の知らない女の子とのお話に忙しいようだ。
会話が聞こえてくる。まず女の子が言った。
「そういえば、最近新しい財布手に入れたんだって?」
「そうなんだよ。でもさあいつあんまり金持ってねぇの!今度バイト行かせるわ」
「ははっ!駿サイテー」
「騙されんのが悪いんだよ。簡単だったぜ。独り寂しくって奴はよ、ちょっと優しくしてやったらすぐ落ちちまう。他人に対して全く警戒しないんだよ。いつも独りぼっちのクセしてよ」
それを聞いたとき、私は何も感じなかった。ああ、そう。それだけだった。
私、好きじゃなかったんだ、こいつのこと。
本来酷い言葉だったはずなのに、まるで心は動じなかった。ただ、良いように金を取られたので、そのうち仕返ししてやろうと思っただけだった。
やっぱり私は美雪先輩が好きなんだ。こんな、信用できない奴なんか好きになれない。でも、私は女で美雪先輩もそう。女の子が好きな私ってやっぱりおかしいのかな。
とにかく、美雪先輩に電話をした。自分で頬をぶって、涙声で演技して、同情誘って取り入った。まさか縛られるとは思ってなかったけど、それでも美雪先輩にならされてもよかった。
駿に仕返しもできた。あれから二人は別れたらしい。そして恥ずかしい写真が駿の彼女からばらまかれた。駿が不登校になったけど、それを知らされた時も、ああ、そう。何も思わなかった。いい気味だと嘲笑すらしなかった。もはやどうでも良い人だった。そのうち私の関係無いところで死んでいくのだろう。さよなら。
気づいたら7ヶ月くらい更新してなかった。エタってる訳ではないのでこれからもよろしくお願いします。次回から新章が始まります。




