~エピローグ~
僕は、「勇者と思っていた人が、実は極悪人だった」の最後の原稿に着手していた。
ちょっと題名とはズレた内容になってしまったかも知れないな。ま、いい。タイトルは、後から変更してもいいし。
手直しもかなり必要だろうな。魂は込めて書いたけれども、不満が残る回もある。どう考えても、読者からすれば読みづらい部分もある。その辺に修正を入れなければ。
そんな風に考えながらも、書き続けた。ひたすらにひたすらに書き続けた。
おかげで、最後の回はサラサラと筆が進んでいった。とは言っても、実際にはパソコンのキーボードなので、カチャカチャという音だったのだけれども。
ま、その辺は比喩表現に過ぎない。
そうこうしている内に、ついに最後の部分に差しかかった。
最後の段落。最後の1行。最後の1文字。
そうして、僕はノートパソコンの画面に向って「~おしまい~」の文字を打ち終えた。さらに、原稿を保存し終えた。その瞬間だった。真っ白な部屋が急激に渦を巻き始める。巨大な霧が巻き起こり、真っ白な部屋が、さらに真っ白に変わっていく。もはや、3センチメートル先も見えやしない。視界は完全に遮られる。
そうして、僕は霧に包まれたまま、ゆっくりとゆっくりと意識の底へと落ちていった…
*
目が覚めると、そこは部屋の中だった。
真っ白な部屋ではなく、現実の世界の僕の部屋。悪魔と契約し、閉じ込められてしまう前に暮らしていた部屋だ。
「夢だったのか…」と、僕は1人呟く。
そうして、僕は僕の部屋をグルリと見回す。もちろん、悪魔はいない。いるのは、僕1人だけ。
「全ては夢だったんだな…」
そう、僕はもう1度呟いた。
どうやら、僕は夢を見ていたようだ。それも、長い長い夢を…
そりゃ、そうか。あんな部屋が現実に存在するはずがない。悪魔なんて実在するわけがないのだ。こうなるコトは当然だろう。最初から決まっていたのだ。
だが、しかし…と僕は思い直す。
「えらくリアルな夢だったな。最初から最後まで全部覚えている。あの部屋で過ごした出来事も。あの部屋で書いた小説の内容も、ほとんど全部、覚えている。忘れちゃいない」
そこで、僕は気がつく。自分の机の上のノートパソコンが起動されていることに。画面を確認してみると、そこには1つのファイルがあった。小説の原稿だ。それも、完成原稿。僕は、急いで小説のタイトルを確認してみる。
それは、「悪魔との契約で、僕は1枚ずつ増えていく小説を書かないといけなくなった」
~おしまい~