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~第57話~ ノルマ21枚

 ~エピローグ~


 こうして、私のお母様であるレイラ・ライは、その全ての魔力を真っ赤なルビーの指輪に封じられてしまいました。

 そうして、そのルビーの指輪をポンッと投げてよこすお父様。私は、慌てて指輪をキャッチします。

「それは、好きにするがいい」

 驚く私。泣きそうな顔でこちらを見ているお母様。

 好きにしろって言われても、どうすればいいのでしょう?とりあえず、私は渡された指輪を自分の指にはめておくことにしました。

「さて、では、残務処理へとおもむくとするか…」

 一言そう残すと、魔王であるお父様は、お母様を抱いたまま、その場から消え去ってしまいました。慌てて、後を追う八人衆の面々。


 私は、ポツ~ンと1人その場に残されたまま、天井を仰ぐしかありませんでした。

「終わったんだわ。何もかもが…」

 そう。長い旅は、ついに終わりを告げたのです。

 初めてこのお城を逃げ出して、小犬の姿となったフーガと出会って、他の仲間達を集める旅に出て。海を渡ったり、野原を越えたり、森へ行ったり。時には、サーカスに出演したりもして。ムチャクチャだった。とても大変だった。でも、同時に楽しくもあった。

 まるで夢みたい。もしかしたら、この世界は、誰かが見ている夢の世界なのかも。そうして、私も、誰かの人生を夢に見て暮らしているのかも。

 全てが終わった達成感からでしょうか?私は、そんな風に考えてしまっていたのです。


         *


 それから、お父様は世界の復興の為に、その力を尽くされました。

 世界各地で勃発した戦闘の爪痕は、確実に人々の生活に影響を与えていたのです。大勢の人も亡くなりました。

 それでも、勇者ケイン・ライが、この世界を支配していた頃に比べれば、随分とマシな状態へと戻りました。魔王の一声で、各国の税率は急激に下げられ、一般市民の生活は以前よりもずっと楽になりました。破壊された建造物などを建て直すために、大勢の労働者が必要になったおかげもあります。それにより、多くの仕事が生まれ、景気が上向きました。


 お母様は、どうしたかですって?

 あれ以来、随分としおらしくしています。なにしろ、全ての魔力を封じられてしまい、反抗しようにも何の力もない1人の女となってしまっているのです。

 どうにか離婚には至らずに、以前と同じように魔王の妻としてのポストに収まったまま。ちょっとした贅沢くらいはさせてもらっていますが、あまり大きなワガママは許されません。それでも、一般市民の生活に比べれば、随分と恵まれた環境だと思うのですけどね。

 

 もちろん、私も、そんなに贅沢はしません。元々、そんなモノにはあまり興味もありませんでしたし。それよりも、私は自由の方が欲しかったのです。

 結局、私も以前のお城暮らしに戻ってしまいました。口うるさい家庭教師などにつきまとわれ、勉強勉強の毎日。もっとも、以前よりかは魔法の勉強には身が入るようになりましたけど。また、何か大きな騒動が起きないとも限りませんからね。

 そんな時の為に、今から強力な魔法をいくつも身につけておかないと!なにしろ、私はあの魔王と、魔王と同等に渡り合った魔女の娘なのですから。その血は受け継いでいるはずです。


 そうそう。

 魔王であるお父様直属の部下である八部衆はどうなったかというと…

 それぞれの役割を託されて、世界各地へと赴任されていきました。


 フーガは、犬やオオカミ達を引き連れて、世界中に点在する街々の警備の強化をはかっています。

 アレグロは、部下の蛇達を使って、毒物と解毒法の研究を。

 ケルンは、カメの甲羅を用いて、身を守ってくれる防具の開発や強化を。

 ポリフォニーは、馬を使った移動や運搬方法を模索しています。

 メトロノームは、熊達を率いて、山や森林を守る活動を。

 スタッカートは、鳥の王となりました。

 ドロローゾは、牛の群れ共に、新たな農業技術の発展に力を貸し。

 ラメントは、草原へ帰り、野生動物たちの保護に尽力しています。

 

 こうして、お城は以前よりも静かになりました。

 それでも、大勢の人々が、今日も忙しそうに駆け回り、働き続けています。メイドに料理人。パン焼き職人や執事。掃除婦に庭師などなど。

 それは、街も同じです。私は、時々、外出の許可をもらって、城下街へと遊びに出かけます。隣の国まで出かけることだってあります。旅の最初に訪れた、あのお団子屋さんにも通っています。いつの間にか、私の行きつけのお店となっていました。


         *


 そういえば、結婚式にも参加しました。

 あの農場主のグリモグさんと、かわいらしい女の子の格好をした(でも、実は男の人)リンさんの結婚式です。

 結婚式当日に素敵なドレスを着て行くと、「アラ!あなた、ほんとに女の子だったのね!」などと、驚かれましたけど。


 最初は、法律上、同性同士の婚姻は認められていなかったのですが、それもお父様のお力で、どうにかなりました。もちろん、ただ単に規則をねじ曲げたわけではありません。そこには、“民意”というものが存在します。人々の想いの力というのは、思いのほか強力なものなのです。お父様は、そこにほんのちょっとだけ協力しただけに過ぎません。

 こうして、グリモグさん達が住んでいる国では、男同士・女同士の結婚も認められるようになったのです。おそらく、この動きは、世界各地へと広がっていくことでしょう。


 結婚式は、それはそれは壮大なものでした。

 私も、自分の結婚式の時の参考にさせていただきたいと思います。もっとも、それがいつになるかは、全然わかりませんけどね。


 グリモグさんとリンさんの結婚式では、やっぱり、料理がとても美味しかったですね。

 さすがは、農家だけはあります。鳥やブタや牛などのお肉だけではなく、野菜も最高でした!私は、披露宴の間中、モグモグモグモグ食べてばかり。おかげで、ちょっと体重の方が…


         *


 そうそう。ウサギのピーターの話もしなければなりませんね。

 実は、ピーターは、呪いの力でウサギの姿に変えられた、ある国の王子様だったのです。お父様の魔力で呪いを解いてもらうと、ピョンピョンと跳ねるように、自分の国へと帰っていきました。どうやら、そこでも一波乱あったようですが…

 人間に戻った姿は、なかなかのイケメン。もしかしたら、私と恋に落ちるかも?落ちないかも?

 まあ、この辺のお話は、長くなりそうです。またの機会にというコトにいたしましょう。


         *


 さて、そうこうしている内に、時は過ぎていきます。

 本日は、祝賀パーティーの日。魔王復活のお祝い。その魔王が世界の支配者に戻ったお祝い。そうして、世界の復興も進み、人々が再び以前のように幸せな生活を送ることができるようになったお祝いの祝賀パーティーです。いろいろとあって、こんなにも時間が経ってしまいましたが、ようやくこのような盛大な祝賀会も開けるくらいに、人々の心にもゆとりが持てるようになってきたのでした。


 おかげで、お城の中は、てんやわんやの大忙し。普段からお城で働いている人に加えて、臨時の働き手を増員してもらっていますが、それでも全然手が足りません。

 私もちょっとお手伝いしようとしましたが、「姫様!そこをおどきください!」「この忙しいのに、邪魔しないでいただけますか!」と、邪魔者扱い。どうやら、出番はなさそうです。仕方がないので、私は出された料理を食べる専門にいたしましょう。


 普段は、質素倹約を座右の銘とし、お城の大広間にも“質素倹約”とデカデカと書かれた巨大な横断幕を壁の端から端まで掲げさせているお父様でありますが。この日ばかりは、うるさいコトは申しません。

「せっかくの祝賀パーティーである!」と、ジャンジャカ料理を作らせます。

 もっとも、それだって高級食材は一切使わせません。一般庶民の方々が口にする食材のみを使って、とにかく量だけはたくさん作らせます。みんなが、お腹いっぱいになるまで食べられるようにという配慮です。その上で、なるべくお金をかけずにという寸法です。

 食べる量だったら、私も負けませんよ!お腹がハチ切れるまで食べて差し上げましょう!


 世界各地へと散っていた八人衆も、ひさしぶりに全員集合していました。

 邪魔者扱いされた私は、八人衆と一緒に、旅の思い出に花を咲かせております。

「アレグロったら、お父様の1部である水晶玉を食べちゃってたのよね~」と私は笑いながら、言います。

「申し訳ない。あの時は、ああするしか手段が思いつきませんで…」と、アレグロ。もちろん、今は蛇ではなく人の姿をしています。

「スタッカートとは、森の中で追いかけっこをしたわよね。あの時は、楽しかったな~♪」

「まったく。もう、あのような思いはたくさんです」と、スタッカート。

「ニワトリだけに、もうケッコウ!ってね」と、私がくだらないダジャレを披露すると、みんな大声で笑ってくれます。

「ラメントなんて、『家族を守るために、私めは置いていって欲しいのです』なんて言ってたわよね」と、私はモノマネをしながら、言います。

「もう、その話はいいじゃないですか。終わったコトですし…」と、ラメントは眉をひそめて申し訳なさそうに答えます。

 以前は小犬の姿をしていたフーガも言います。

「なんにしても、いい旅でしたよね。我々の結束力も高まりましたし」

「そうそう!前より仲よくなれた!」と、メトロノームも同意します。

「以前よりも、ライラ様のことを知ることもできましたし」と、ケルン。相変わらず、カメのようにゆったりとした喋り方をしています。

「ライラ・ライ様の平手打ちの一発は、頭に響きましたぞ。今も、あの感触が残っているようです」というドロローゾの言葉に、私は笑って答えます。

「アハハハハ!そりゃ、そうよ!あの勇者ケイン・ライでさえ、痺れて快感で昇天しちゃったくらいだからね!」

 一同、つられて大笑いです。

「また、みんなで一緒に旅をしたいものね。今度は、厳しい目的などなく、ゆったりノンビリした旅を」

 私が、そう提案すると、みんな「うんうん」「そうだそうだ」と同意してくれました。


 そうこうしている内に、祝賀パーティーの準備が調ったようです。

 全員で大広間に用意されたテーブル席の方へと移動していきました。


         *


 大広間は、入りきれない人ほど大勢の人であふれています。席に着けない人は、立食パーティーのゾーンが用意されていて、そちらにギュウギュウ詰めに立って、片手にワイングラスを持ち、乾杯の時を待っています。食事は別の部屋にも用意されていて、席に座りきれなかった人は、後でそちらに移動する手はずになっています。


 魔王であるお父様が、そのよく通る声で、大広間いっぱいに聞こえるように大声で乾杯の音頭を取ります。お母様は、隣でおとなしくしています。正直、アレだけのコトを起こしておいて、ちょっと罰が軽いような気もするんですけどね。

「皆の者、これまで本当によくがんばってくれた。ようやく、世界の復興も、ここまで進んだ。私1人の力では、どうしようもなかった。これも皆の努力のおかげだ」

 なんだか魔王らしくないセリフですね。でも、そこがお父様らしいと言えばお父様らしくもあるのです。

「八人衆の面々よ。そなたらも、よく尽力してくれた。心の底から感謝しておるぞ!」

 お父様の、その言葉に、フーガを始めとして八人衆が口々に答えます。

「もったいないお言葉を…」

「感謝するのは、我々の方です」

「拾っていただき、ここまで育てていただいたご恩、決して忘れませぬ」

 最後にお父様は、私にも触れてくれました。

「そして、ライラよ。お前も、よくやってくれた。お前がいなければ、この場はない。今のこの世界もない。大袈裟でも何でもなく、お前の力があったればこそだ!」

「そんな…」

 私は、ちょっと感動で目が潤んでしまいました。

「では!この世界と、その平和のために!我が娘にライラ・ライに!カンパ~イ!!」

「カンパ~イ!!」

 大勢の人々の声が、お父様の言葉の後に続き、そうしてパーティーは始まりました。


 この日は、お城の庭も一般開放されて、市民の方々も訪れることができるようになっていました。

 さすがに、それでは料理の方が足りないので、市民の方々にも手作りの料理を持ち寄ってもらうことになっています。おかげで、みんなが食べる分よりも多くの食べ物が集まったくらいです。

 みんながお父様の元を訪れて、口々に感謝の言葉を述べて帰ります。

「魔王様!どうもありがとうございます」

「おかげで、随分と生活の方も楽になりました」

「それは、もう。以前は酷いありさまでしたから」

「やはり、世の中、口だけでは駄目ですね。言葉だけでは信用なりませぬ。行動で示していただかねば。魔王様のように、自ら質素倹約を公言し実行なさる。それこそが、上に立つ者の資質というものでございます」

 このような感じで。


         *


 祝賀パーティーの食事会が終わると、街の広場ではサーカスの公演が始まりました。旅の途中で私が出演した、あのサーカスの一団です。

 あの時は、熊の姿になったメトロノームが、鞭で散々ぶたれて涙目になってましたよね。懐かしい。


 晴れ晴れと澄み渡った空の下、テントの中ではなく、広場の芝生の上に直接サーカスの舞台が設置されています。

 何十メートルもの高さに張られた1本のロープ。その上を、次々と一輪車に乗ったサーカスの団員達が渡っていきます。かと思えば、今度は空中ブランコのショーが始まります。空中でブランコからブランコへとジャンプし、相手の手にシッカリとつかまる軽業師。

 それから、猛獣ショーもあります。

 虎さんに、ライオンさんに、ゾウさん。メトロノームの代わりに入った新しい熊さんもいます。でも、舞台の裏側を知っている私からすると、ちょっとかわいそうに感じてしまいます…


 調子に乗って、私も舞台の上に立ってしまいました。

 もはや、あの頃のように、様々な魔法を操ることはできませんが、そこは大丈夫!危なくなったら、お父様が影から助けてくれます。事実、高い高い柱に登ってロープ渡りに挑戦して、おっこちそうになった時に、密かにお父様が重力制御の魔法で助けてくれました。

 それでも、大勢のお客さんの前で芸を披露するって、楽しいものですね。なんだか、心の底からブルブルと喜びで震えが起きてくるようです。


 その後、空を覆い尽くすように、鳥の大群が舞って来ます。様々な種類の鳥です。まるで、世界中の鳥がやって来たみたいでした。

 鳥達は、口々に何かを加えています。そうして、街の上空へとやって来ると、パッと口にくわえていた物を放しました。それは、花でした。鳥達は1匹が1輪ずつ、別々の花を加えて飛んでいたのです。

 街中に花の雨が降り注ぎます。何という美しさでしょうか。

 きっと、スタッカートの演出でしょう。鳥の王となったスタッカートが、世界中から鳥達を呼び寄せて、見事な演出を披露してくれたのです。


 他の8人衆も、それぞれの動物を従えて来ていました。

 街中が、犬やオオカミや蛇や亀や馬や熊や鳥や牛やライオンや虎やヒョウや猫であふれ返っています。街の人々は、喜んだり、驚いたり、怖がったり、怒ったりで大混乱です。

 でも、心の底では、みんなみんな楽しんでくれているようでした。


 そんなこんなで、とてもとても楽しい1日が過ぎていったのです。

 そうして、この日は、世界が平和になった記念日として、毎年大きなお祭りが開かれる日となったのでした。


         *


 それからしばらくの時が流れました…

 私は、再び旅へと出る決心を固めます。いくつかの魔法を覚えて、かなり自由自在に使いこなせるようになっています。

 旅の準備を調えると、お城の人達と別れのあいさつを交わします。

「本当に大丈夫なのか?」と、お父様は心配顔です。

「心配しないで!お父様!私は、お父様の8つに分かれた体を集めて、世界中を旅して回ったのよ!」

「けれども、あの時は、八人衆もおったことだし…」

「だいじょう~ぶ!だいじょ~ぶ!」と、ピーターが代わりに答えます。あのウサギの姿をしていたピーターです。今は人間の姿に戻り、今回の私の旅のお供となってくれたのです。

「だから、余計に心配なんだが。いい年頃の娘が、同じくらいの年齢の男と2人旅とは…」と、お父様はさらに心配そうな顔をします。

「ま、その時はその時でしょ。若い時は、何事も経験よ!」

 そう、のんきそうに言ったのはお母様の方でした。さすがです!お母様!

「そういうコトなんで、ほんとに心配しないで。ひと回りもふた回りも立派に成長して、戻ってまいりますからね!」

 私は、そのような言葉を残すと、元気に城を後にして、旅への第1歩を踏み出したのでした。

 これが、私の次の物語の始まり。けれども、今回はここでおしまい。続きは、またいずれ、どこかで。


 こうして、この物語は幕を閉じたのでした。


         *


 そうだ!

 1つ、大切なコトを忘れていましたね。

 今回の騒動のキッカケとなった張本人。魔王カイル・ライの実の弟君であらせられる勇者ケイン・ライ様は、一体、どうなったのでありましょう?


 実は、その全ての能力を封じられて、別の世界へと放り出されたのでした。

 もしかしたら、異世界でレベル1から鍛え直し、世界を救う勇者なんかをやっているかも知れませんね♪


 これにて、この物語は、今度こそ本当に幕を閉じるのでありました。


   ~おしまい~


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