~第56話~ 最後の原稿
僕は「勇者と思っていた人が、実は極悪人だった」の「第19話」を書き終えて、真っ白な部屋の中で真っ白に燃えつきていた。
いや、それには、まだ早い!まだ「エピローグ」が残っている。それを書き終えるまでは、完成ではない。この部屋から脱出するコトもできやしない。
僕は、ふと考えた。
「エピローグは、一体、何枚書けばいいのだろうか?」
悪魔を呼び出して尋ねるまでもない。その答は決まっている。前回のノルマが原稿用紙20枚であったのだから、次は21枚以上。それ以外はない。
ここで、僕はもう1度考える。
「僕は、本当にこの部屋から出ていきたいのだろうか?何でもできるこの部屋を出ていって、あの辛く苦しい現実の世界へと戻る?それが、僕にとっての本当の幸せなのだろうか?」と。
その答は、わからない。正直、いつまでもこの楽園で暮らし続けたいという気持ちもある。それは、本物の気持ち。だけど、それ以上に確かな思いがある。それは、「1度始めた物語は、最後まで書き終えなければならない」というコト。最後の1行まで書き、ENDマークをつける。それが、僕に課せられた使命。
このまま、最後の章を書かずに、ノンビリとこの部屋で暮らし続けるという手だってある。そういう人生もある。あるいは、エピローグをダラダラと書き続け、何百枚でも何千枚でも書き続けるという方法もあるだろう。
けれども、それは物語に対して失礼。小説には“終わり時”というものが存在する。それを逃してはならない。ここが、その時!!これを逃せば、次はいつになるかわからない。
「終わらせるぞ!!この小説を!!」
僕は、真っ白な部屋の真ん中で決心を固め、そう叫んだ!!
その瞬間、呼び出してもいないのに悪魔が現われた。そうして、こう言った。
「よくぞ、ここまで来た。残るは最後の部分だけ。もう何も言うコトはない。持てる力を存分に発揮せよ。さあ、見せてくれ!お前の最後の原稿を!」
悪魔よ!お前に言われずとも、最初からその気だったさ!!ああ、見せてやるとも!この物語の最後の原稿を!!