~第54話~ 悪魔との会話
僕は、「第18話」を書き終えて、フゥ~と一息、長い息を吐き出した。
魂を込めて書いた。それゆえに、次の回で使うはずだった話まで使ってしまった。だが、それはどうにかなるだろう。もう終わりは近い。ここまで来れば、後はどうとでもなる。
勢いを重視して書いた。だから、理論的にはムチャクチャかも知れない。文章も乱れに乱れまくっている。ま、それは後から修正すればいいだろう。ともかく今はラストまで書き終えよう。それが重要。それこそが最優先。
「疲れた。正直、疲れた。もう、ここまでかも知れない…」
そんな言葉を口にはしてみたものの、実際、その疲れは“心地よい疲れ”であった。
「もう終わりが近い。あと残り3話…いや、2話でまとめよう」
僕は、終着駅が近づいた安堵感から、これまでの時間を振り返っていた。この白い部屋で過ごした長い時間のコトを。この部屋に閉じ込められた初めの日。一体アレから何日が過ぎたのだろうか?いや、何ヶ月が?あるいは、何年が?
「もう、どうでもいいか。全ては過ぎ去ってしまった日々。過去を振り返るのはやめにしよう。それよりも、大切なのは未来だ!」
僕は、そう叫ぶと同時に悪魔を呼び出した。
悪魔はすぐに現われた。
「なあ?1つ質問があるんだが」
僕の問いかけに、悪魔は即座に反応する。
「なんだ?」
「もしも、僕がこの小説を完成したとして、この部屋はどうなる?このまま、僕が使い続けるというコトもできるのか?たとえば、次回作を書くとか、別の作品に取りかかるとかして」
悪魔は、ニヤッと微笑んで答えた。
「それは無理だな。1人に与えられるチャンスは1度だけ。そうして、その小説を完成させてこの部屋を出て行くか、さもなくば永遠に部屋に残り続けるか、そのどちらかだけ。その作品を書き終わったら、即座にここから出ていってもらう」
予想していた通りの答だ。
「フム。なるほどね。では、もう1つ質問をいいかい?」
「いくつでも」
「もしも、僕がこの小説をいつまでもダラダラと書き続けたとしたら?たとえば、最後の1話を書き終えないまま…もっと言えば、最後の1行でも最後の1文字でもいい。わざと、それを書かないままでいたとしたら?」
「その場合は、いつまでもこの部屋に残り続けてもらうことになる」
さらに僕は質問を続ける。
「あるいは、この物語を終わりにせずに、続きを書き続けたとしたら?新しいピンチを作り出し、新たなキャラクターを登場させ、いつまでも引き伸ばし続けたとしたら?」
「その場合も、この部屋に残り続けてもらうことになるなぁ」そう言ってから、悪魔はさらに、こう続けた。「でも、それが、お前にできるのかな?」
その言葉を聞いて、僕はしばらく頭の中で考えてみた。
そうして、今度は僕の方がニヤリと笑う番だった。
「できないなぁ。そんなコトはできやしない。だって、その作品にはその作品なりの“寿命”というものがあるのだもの。その寿命を無理矢理に引き伸ばしたりしてはならない。そんなコトをすれば、きっと、その小説は駄目になってしまう」
「だろうな」と、悪魔は一言で答えた。
こうして、僕の心は決まった。
とにかく書こう!最後まで書き終えよう!掛け値なしに、卑怯な技など使わずに、最後の1文字まで書き終えてやろう!
全てはそれからだ!