表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

52/59

~第51話~ ノルマ18枚

 ~第17話~ レイラ・ライ


 いよいよ私は、自宅であるお城まで帰ってまいりました。

 そこで、メンバーを絞って、お城の中へと忍び込むコトに決定しました。お城の中にある高い塔に閉じ込められたお母様に会う為です。

 同行させるメンバーは、小犬のフーガ、蛇のアレグロ、ニワトリのスタッカート、それにウサギのピーターです。体の大きな者や、動きの遅い者は置いていくことにしました。お母様の話を聞き出し、できることならば塔から助け出して一緒に連れてくる。その後、置いてきたメンバーとも合流する。そういう予定なのです。


 私たちは、こっそりとお城の裏口から侵入します。もちろん、鍵は事前に用意してありました。子供の頃から、時々、このようにお城から抜け出して戻ってきたりしたものです。その時の為に、他の人にはわからないような場所に鍵を隠していたのです。

 私は、お城の裏庭にある目印のついた石の下を掘り返しました。もちろん、私にしかわからないような特殊な目印です。他の人からすれば、単なる石ころにしか見えないでしょう。


         *


 こうして、私たちは、お城の中に侵入することに成功いたしました。

 …といっても、自分の家に帰ってきただけなのですから、本来ならば、誰にもとがめられる必要はないんですけどね。


 お城の中は、思ったよりも警備が手薄です。というか、いつもの状態とほとんど何も変わりません。正面の門には何人か警備の兵が立っていましたが、それ以外は全然です。

 私は、ちょっと拍子抜けしてしまいました。

「な~んだ、こんなコトならば、用心する必要なんてなかったわね」

 そんな私の言葉を聞いて、小犬のフーガがたしなめてきます。

「油断されますな、姫様。どこにどのような罠が仕掛けられているかわかりませぬぞ」

「罠って言ったって、お城の中よ?普通に、メイドや執事たちも働いているのに。そんな場所に罠なんて仕掛けられるはずないでしょ」と、私は反論します。

「けれども、何が起こるかわかりませぬ。油断だけは、なさらぬように。慎重に進んでいきましょう」と、小犬のフーガ。

「いいから、さっさと行こうぜ」と、せっかちなウサギのピーターが、せかします。

「そうね。先を急ぎましょう」と、私も同意します。


 それから、料理人やメイドなど、お城で働いている人たちと何度か顔を合わせそうになりながらも、どうにか物陰や部屋に隠れつつ、やり過ごしました。ここは、私が生まれた時から暮らしてきた自分の家なのです。勝手はよくわかっています。どんなに広かろうが、子供の頃から、ここに閉じ込められて生きてきたのですから。

 そういう意味では、狭い狭い世界なのです。


 そうこうしている内に、目的地である。塔のてっぺんまでやって来ました。ここに、私のお母様であるレイラ・ライが閉じ込められているはずなのです。

 私は、静かに、塔のてっぺんにある監禁部屋の中を覗き込みました。

 パッと見た感じ、人の気配は感じません。それで、試しに監禁部屋の扉に手をかけてみました。すると、鍵は閉まっていないようです。

「アレ?どうなってるの?」

 私は、驚いて小さく声を上げてしまいました。

「よくわからないけど、鍵が閉まってないなら、開けてしまえばいいんじゃないですかね?」と、蛇のアレグロが提案します。

「そうね」

 私は、その言葉に同意すると、静かに扉を開きました。

 すると、やはり、中には誰もいません。部屋の中は結構広く、ベッドルームもあり、それ以外にトイレなどもついています。

 私は、隅から隅まで探索します。けれども、人どころか、ネズミ1匹ゴキブリ1匹出てきやしません。

「やっぱり、誰もいないようですね」と、ニワトリのスタッカート。

「そのようね」と、私は答えます。

「もしかして…」と、蛇のアレグロが何か言いかけます。

「どうしたの?」と、私。

「もしかして、既に処刑されてしまったのでは?」

「バカ!演技でもないコトを言うな!そんなわけあるか!」と、小犬のフーガが即座に否定します。


 しばらくの沈黙があった後、ウサギのピーターが口を開きます。

「そもそも、ここ、人が住んでいた形跡があるか?」

 そう言われてみると、確かにその通りです。この部屋からは、生活感のようなものが全く感じられません。

「どういうコトだ?我々が、ここを去ってから、すぐにどこかに連れ去られてしまったのだろうか?それにしても…まるで何年も使われていない雰囲気だが」と、小犬のフーガ。

「もしかしたら、レイラ・ライ様が閉じ込められているのは、ここではないのかも知れませんね」と、ニワトリのスタッカートが言います。

「そうね。じゃあ、別の場所も探してみましょう」

 そう言って、私たちは、その場を離れたのでした。


         *


 それから、しばらくの間、私たちはお城の中を歩き回りながら、めぼしい場所を探索して回りましたが、結局、私のお母様はどこにも見つかりませんでした。

「私、もう疲れちゃったわ。人に見つからないように、お母様を探し回るって、気を使うんですもの。もうヘトヘトよ」

 私のその言葉に、ウサギのピーターが賛同します。

「そうだな~、疲れたし、もう今日は終わりにしようぜ。1度戻って、何か対策を練った方がいいだろう」

 他のメンバーも、それに賛成しました。

 けれども、私の疲労はピークに達していて、お城の外まで戻れそうにありません。

「ごめん。ちょっとだけ寝かせて。もう限界だわ」

 それに対して、小犬のフーガが言葉を返します。

「姫様!それは、なりませぬぞ。もうしばらくの我慢です。せめて、外に出るまでは!」

「悪いけど、もう無理だわ。部屋に帰って寝る」

 そう言うと、私は昔からの習性で、自分の部屋へと戻り、ベッドに潜り込むとスヤスヤと眠り込んでしまいました。


         *


 夢の中で声がします。

「ライラ!ライラ!」

 それは、紛れもなくお母様の声でした。

「ライラ、これまで、どこに行ってたの?」

 私は、即座に答えます。

「おかあさま聞いて!私は、お父様をこの世界に復活させる為に奮闘していたのよ」

 そうして、これまでの旅の顛末を、お母様に語って聞かせます。

 話している間に、私の目からは自然と涙がこぼれ出していました。

「まあ、それは大変だったわね…」

 そう言って、お母様は私をギュッと抱きしめてくれました。

「でも、もう心配ありませんからね。これからは、私がどうにかしてあげましょう。あなたは、もう何の心配もしなくていいのよ。ゆっくりとお眠りなさい」

 お母様のその言葉を聞いて安心したのか、私は再び夢の世界へと眠り落ちていきました。


         *


 夢の中で声がします。

「ライラ!ライラ!」

 それは、紛れもなくお母様の声でした。

「ライラ、これまで、どこに行ってたの?」

 私は、パッと目が覚めて、バッと身を起こしました。

 今度は、夢ではありません。現実の世界で、目の前に本物のお母様が立っているのです。

「お母様!」

 私は、ベッドから飛び出すと、お母様の胸の中へと飛び込みました。


 すると…

「まあ、子供みたいに。何やってるのよ」と、ちょっと素っ気ない返事。

 でも、いいのです。愛するお母様の胸の中で、私は安心することができているのですから。子供だって、何だっていいのです。

「ライラ、これまで、どこ行ってたの?」と、現実世界のお母様は、夢の中のお母様と同じコトを尋ねてきます。

「それはね…」と、私が答えようとすると、それを遮るように、こう言われました。

「もしかして、男でもできた?」

 何だか、夢とは違います。おかしいですね。

「男だなんて、私は別に…」

「構わないのよ、若いんだから。“命短し恋せよ乙女”ってね。若い頃は、取っ替え引っ替え、いろいろな男とつき合ってみなさい」


 何だか様子が変です。お母様って、こんな人だったかしら?

 私がそんな風に思っていると、お母様は続けてこう語ります。

「私みたいに、相手を間違えないようにね。特に、結婚相手だけは慎重に選びなさい。私と同じ失敗はしないように」

 失敗?相手を間違える?何を言ってるの?

「え?お母様、それはどういう…」

「どういうもこういうもないわよ。私は、結婚相手を間違えた。この結婚は失敗だったって言ってるの」

「失敗って…だって、あんなにやさしいお父様と結婚して。地位だって名誉だってあって…」

 そこで、フ~ッと一息、大きなため息をついてから、お母様は答えました。

「私だって、最初は、そう考えてたわよ。『ああ~、これは、いい人をつかまえた!最高の相手だわ!これで、一生楽をして暮らせるんだわ』ってね。でも、違ってた」

「は?」

 私は、驚いてまともな言葉も返せません。

「それが、なによ。節約!節約!倹約!倹約!って。『世界中の人々は、貧しくて苦しい生活をしているんだから、お前も我慢しなさい』だって。何様だと思ってるのよ!あんた、世界を統べる魔王様でしょうが!そんな人が、節約して質素な生活なんてして、どうするのよ!」

 私の中に、1つの考えが浮かびます。1つの推理と言ってもいいかも知れません。それは、とてもとても嫌な考えでした。

「まさか…」

「もちろん、私はそんな中でも贅沢をして暮らしたわよ。節約する一方で、美味しい物を食べたり、美しい服や宝石を購入したり。あの人は嫌な顔をしてたけどね。だから、私はいつも窮屈な思いをして暮らしていた。目の前に使えるお金が山ほどあるのに、それを自由に使わせてもらえないんですもの」

 私の嫌な考えは、確信に変わりつつありました。

「お母様、まさか…」

「でも、それも、もうおしまい。私は、ついに自由な境遇を手に入れたの!目の前にあるお金を好きに使える環境を!これからは自由に生きていくわ!これまで、窮屈に暮らしてきた分も、思いっきり贅沢をしてやるんだから!」


 私は、お母様の胸から離れると、床の上にスクッと立ち、静かに問い詰めました。

「では、お母様だったというのね?」

 お母様は、冷淡な声で聞き返します。

「何が?」

 私は、確信に変わった考えを、思い切り言葉にしてぶつけます。

「お父様のコトよ!お父様の力が封じられてしまったのも、8つにわかれて魔法のアイテムになってしまったことも。全部全部、お母様が仕組んだことだったのね!」

 お母様は、ニヤリと微笑んで、こう答えました。

「そう。私が、あの人の能力を封じたの。夜、ベッドの中でね。妻である私にだからこそ、できたこと。それ以外の人間には決してできぬ行為。8つにわかれただとか、魔法のアイテムだとかは、何のことだか知らないけれどね」

 この瞬間、全てがつながりました。

 お父様が言っていた言葉の意味も。なぜ、お父様が元の体に戻りたがらなかったかも。

「ようやくわかったわ。どうして、お父様が『お母様に会いに行け』と言ったのか。『会って話を聞けば、全てがわかる』と言ったのか。それは、最愛の人であるあなたに裏切られたからだったのね。だから、狭く小さな世界へこもって、2度と現実の世界へと出てきたくはなかったのね」

 お母様は、ちょっと驚いた顔をして尋ねてきました。

「あの人に会ったの?元魔王であり、私の元夫であり、全ての能力を封じられて、何の力もなくなってしまったあの人に?」

 私は、ハッキリとこう答えました。

「ええ、会ったわ。完全な姿ではなかったけれど。それに、元の姿には戻りたがってはいなかった。それもこれも、全てあなたのせいで!」

 お母様は、再びニヤリと笑って、答えます。先ほどよりも残忍な笑顔をしています。

「それは好都合ね。いずれにしても、能力を封じられた魔王などに、何の価値もないわ。存在価値も意味も何もない。私にふさわしいのは、もっと強い男よ。強くて、そして贅沢をさせてくれる人」

「それって、まさか…」

 私が尋ねようと思った、その瞬間。当の本人が現われました。

 勇者ケイン様のご登場です。

「どうした?何か騒々しくしているみたいだが。お?お前はライラ!戻ってきていたのか!」

 私は、憎しみを隠し切れずに叫びます。

「にっくきケイン!許すまじ!」

 けれども、それに答えたのはお母様の方でした。

「もしかして、私たちに逆らおうと言うの?私の敵になるというの?それが、どういう意味がわかっているの?」

 そのセリフで、私は冷静さを取り戻しました。そうして、逆にお母様に向って尋ねました。

「お母様?謝る気はないの?お父様の力を元に戻して差し上げる気はないの?」

 お母様は、天をつんざくような高笑いを上げました。まるで、物語の悪役、そのものです。

「ア~ハッハハハハハ!謝る?謝るですって?この私が?なんの為に?有利なのは、こちらの方なのよ。それも、圧倒的に立場は上。それをわかっているの?」

 残念ですが仕方がありません。道は決まりました。これが、運命というものでしょう。

「どうしても無理そうね。だったら、仕方がない。お母様、あなたを倒してでも、お父様の力を取り戻してみせるわ」

 それでも、お母様の余裕の笑みは消えません。

「倒す?私を倒すですって?ライラ、あなたにそれができて?悔しかったら、この指輪を取り戻してみなさい。あなたのお父様の魔力が封じられた、この指輪を」

 そう言って、お母様は自分の左手の指を全て開いて、見せつけてきました。どうやら、左手の薬指にはまっている、あの真っ赤な宝石のついた指輪のコトでしょう。

「このオレのことも忘れてもらっては困るな」と、勇者ケインが間に割ってきます。お母様の前に立ち塞がり、こちらに剣を向けています。完全にお母様を守りに入った体勢です。


 その瞬間でした。

 ベッドの下に身を隠していた1匹の小犬が飛び出してきて、お母様に向って襲いかかります。もちろん、小犬の姿となったフーガです。さらに、ニワトリのスタッカートが飛びかかり、目を突こうとします。

 ウサギのピーターは、勇者ケインの前でピョンピョンと左右に跳ねて、かく乱をはかります。その間に、蛇のアレグロがお母様の左手に巻き付き、指輪を外そうと試みます。

「あ!コイツ、何をする!」と、勇者ケインの注意が、お母様の方へと向いた瞬間!一瞬のスキを突いて、私は間合いを詰めます。

 そうして、必殺の一撃!私得意の平手打ちを、ケインの顔面の左側に向って思いっきり叩き込みました!!


 バチ~~~~~ン!!


 心地よい音が、辺りに響き渡ります。

 その勢いで、勇者ケインは、手に持っていた剣を取り落としました。

 私は、即座にその剣を拾い上げ、今度はお母様の方へと間合いを詰めます。そうして、お母様のノド元へと剣を突き出しながら、急いで左手の指輪を外しました。

「逃げるわよ!」

 私がそう叫ぶと、4匹の動物たちは私の周りへと集まってきます。

 私は、自分の部屋の窓を開けると、4匹の動物たちを回収し、思いっきり窓の外へと飛び出しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ