~第50話~ 僕は、もっと手を抜くべきなのだろうか?
僕は、数ヶ月ぶりに、原稿を完成させた。
「ふぅ…えらく時間がかかってしまったな。この1話に」
部屋の中で、僕は1人そう呟く。
正直、内容的には満足できるものではない。密度は問題ない。むしろ、密度は高過ぎるくらい。1話の中に数話分ものアイデアを詰め込んでしまった。これでは、読者は読みづらくてたまらないだろう。
ただ、情熱はいい!勢いで一気に書き上げた。そこは、自分でも褒められる部分だと思う。
「熱が入ると、地の文が増えてしまうのが難点だな。もっと会話を増やした方が、読者にとっては読みやすいだろうに。ただ、その為には心のゆとりが必要になってくる。読者のではない。書き手である僕のゆとりが…」
そう。読者のコトを考えながら書くには、心のゆとりが必要なのだ。ただ、自分勝手に自分の書きたい内容を書きたいだけ書くならば、誰にでもできる。いくらでも書けてしまう。
だが、それではいけない。自分らしさを込めつつも、どこかで読者のコトも考えながら書いていかなければ。それは、非常に絶妙なバランス感覚を必要とする。今の僕にできるのだろうか?
ある意味で、それは手を抜くコトに他ならない。真剣に小説に取り組めば取り組む程、懸命になればなる程、作者は自分の世界へと入り込んでいってしまう。
読者にとって読みやすく、わかりやすい文章というのは、それとは対極に位置するもの。自分の世界から離れて行く行為。ある種の“いい加減さ”であり、“手を抜くコト”でもあるのだ。
けれども、その2つの相反する能力を同時に扱うのは難しい。自由自在に扱えるようになる為には、長い年月を必要とするだろう…
これから、それを訓練するというのか?
「ええい!迷っていても仕方がない!とりあえず、この部屋から出なければ!その為に、まずはこの作品を完成させるぞ!続きだ!続きを書かなければ!」
僕は、自分に活を入れるように、部屋の中、1人でそう叫んだ。