表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

50/59

~第49話~ 再びノルマ17枚

 ~第16話~ 実家を目指して


 というわけで、実家を目指して帰ることにした私、ライラ・ライでありました。といっても、出戻りじゃありませんことよ。その辺、ご注意を!

「結局、8つのアイテムを揃えても、魔王様は復活できませんでしたね」と、ライオンのラメント。

「そうねぇ。でも、仕方がないわ。その辺の事情は、お母様がご存じのようだし、まずは、お母様に会う為にお城に帰らないと!」

 私は、半ば自分に言い聞かせるように、そう言い放ちました。


 そういえば、旅の途中で、怪しいおじさんに出会いました。

「自分は、興行師なんだ。ぜひ、君たちに街で公演をやって欲しい!」などと言っていました。

「私は、それどころじゃないのよ!急いでるんだから!」と、一喝したら、慌てて去って行きました。きっと、詐欺師か何かだったのでしょう。


 さあ、そんなコトよりも、早くお城に帰らなければ!

 …とはいっても、私の実家であるお城まで結構な距離があります。私たちは、途中の街で馬車を購入し、馬のポリフォニーと牛のドロローゾに引かせて旅を続けます。ライオンや熊を一緒に連れていると驚かれるので、小さな曲芸師の一団ということにしました。ま、実際、似たようなものでしょう。


         *


 訪れる街々では、景気の悪い話しか聞きません。「やれ、物が売れない」だとか「ま~た税金が上がったぞ」とか、そんな話ばかり。

 税金が上がって物が売れなくなり。収入が減ったものだから、さらに物が売れなくなり。仕方がないので、また税金が上がる。こんな風に悪い方へ悪い方へと連鎖していき、人々の心も荒んでいきます。

 あちこちでケンカも絶えません。

「前は、こんなじゃなかったのに…」と、呟く私。

「早くなんとかしないといけませんね」と、ニワトリのスタッカート。

「お金なんてなくても、もっとノンビリいきていけばいいのに」という亀のケルンの言葉に、蛇のアレグロが反論します。

「そうはいかないさ。人間なんてものは、アクセク生きていないと不安になっちまうものなんだ。たくさん稼いで、たくさん使って。それで、ようやく安心できる。収入も支出も少ないと不安でたまらなくなっちまうのさ」

 ま、アレグロの言うコトにも一理あるかも知れません。


 どの街でも、街角には失業者があふれ返っています。

 時には、こんな声も聞こえてきたり。

「あんた!そろそろマジメに働きなさいよ!」

「やだよ!働きたくても仕事がないんだよ!」

 お母さんと息子さんでしょうか?

「仕事なんて選ばなきゃ、何でもあるでしょうが!」

「オレに合った仕事がないんだよ」

「また、そんなワガママばっかり言って。この先、どうすんのよ!」

「知らないよ。どうにかなるよ」

「どうにかって、どうなるのよ?どうにもなってないじゃないのよ!」

「悪いのはオレじゃないよ。こんな世の中にした奴らが悪いんだよ!」

 アラアラ、えらく自分勝手な言い訳ですね。

 でも、息子さんらしき人の言うコトにも一理あります。確かに、こんな世の中にしてしまった人が悪いのよね。あの勇者ともてはやされたケイン・ライの奴が!

 以前は、こんなじゃなかったのに。お父様が世界を支配してらっしゃった時代には、世界はこんなに荒んではいなかったのに…


 こうなったら、一刻も早くお城に帰って、お母様に会わないと。そうして、お父様が引きこもってしまった理由を聞き出して、どうにかして元の姿に戻る気を起こさせないと!

 そうは思うのですが、なかなかお城まではたどり着けません。8つのアイテムを集める為に、いつの間にか随分と遠くまで来てしまったようです。焦れど焦れど、距離は縮まりません。仕方がないので、私は、せっかくの旅を楽しむことにいたしました。


         *


 各地の名産品などを味わいながら、私たちは旅を続けます。温泉などの娯楽施設にも顔を出します。

 どこも景気の悪い話で満ちあふれていましたが、それでも人々は精一杯、それぞれの人生を生き抜いているようです。お城の中に閉じこもっていたら、いつまでも知ることのできなかった世界でした。

 もしかしたら、私はこのような境遇に落とされて、逆に幸せだったのかも知れません。


 実家であるお城へと向う途中、何度か危ない目にも遭いました。

 たとえば、このようなコトとか…


 お城までの帰り道、近道をしようと、私たちは海を渡りました。馬車ごと船に乗って。

 その途中で、巨大なクラーケンが現われました。クラーケンというのは、イカの化け物です。

「キャ~!化け物!」

「誰か助けてくれ~!!」

「船の上じゃあ、どこにも逃げる場所がないよ~」

 などと、他の船客たちは騒いでいます。

「ここは、姫様の出番ですね」

 小犬のフーガの言葉に頷いて、私は“覇王の剣”を取り出します。ライオンのラメントが大事にしまっていた剣です。覇王の剣は、私の込めた魔力に比例して、その威力と鋭さをを増すのです。

 私は、全力を込めて、巨大クラーケンを叩き斬りました。

「ちょっと、威力が強すぎたかしらね?」

 そう言った私の前には、バラバラになったイカの姿が転がっていました。

 後に残ったイカの体は、みんなでお刺身にしたり煮物にしたりして、美味しくいただいたのでした。実に、いい思い出です。


         *


 あるいは、このようなコトもありました。

 それは、ある大きな街を通りかかった時のコトです。


 その街は、乾燥地帯として有名でした。しかも、年に何度も強い強い風が吹く日があるのです。

 折しも、その日は、そんな強い風の吹きすさぶ日でありました。そうして、街の隣にある山では、枝と枝が風によりこすれ合っていたのです。そうして、小さな火花が散りました。それは、小さな火を起こしました。

 最初は、小さな小さな火でした。それが、しだいに大きな炎となり、やがては山全体を覆い尽くす大火事となったのです。


 さて、ここで私の出番です。

 私は、ニワトリのスタッカートから受け取った“炎のマント”を身にまとうと、颯爽と山の中へと飛び込んでいきました。山には、大勢のキコリや登山客が取り残されていたのです。

 炎のマントは、身を焼くような熱き炎から、この身を守ってくれます。それどころか、熱や炎を吸収し、さらに強く大きく広がっていくようでありました。

 残念ながら、山火事を消し止めるコトはできませんでしたが、それでも取り残された人々を救うコトくらいはできました。大きく広がった炎のマントに人々を包み込み、飛行の腕輪を使って、みんなで一緒に燃えさかる山を飛び出してきたのです。


 その後、私は人々から感謝されました。助け出した人や、その家族たちからです。中には、地面に頭をこすりつけ、涙ながらにお礼を言ってきてくれる人までありました。

 この時、私は非常に誇らしい気持ちになったコトを正直に打ち明けなければなりません。まるで、勇者にでもなったみたいに。魔王の娘だというのに、おかしいですよね?

 けれども、お父様だって、肩書きは魔王というものでしたけど、世界中の多くの人たちから愛されておりました。逆に、お父様を討ち倒し、封印してしまった勇者の方は、どうでしょう?みんなから、「景気が悪い。苦しくなった。以前の生活の方がよかった」と言われてばかりではありませんか。

 一体、何が正しくて、何が間違っているのか、私にはよくわからなくなってまいりました。


 それでも、私の旅は続くのです。

 実家のお城に舞い戻り、私のお母様に事情を聞くまでは。そうして、封じられ、8つの体に分かれてしまったお父様を無事に元の体にお戻しするまでは!!


         *


 さてさて、それでも私の話は終わりませぬ。お城への道は、まだまだ遠いのです。

 今度は、このような経験をお話しいたしましょう。


 ある街に、1人の音楽家が住んでいました。彼の名は“メンドー・メン”

 作曲の才能はあるのですが、とにかく面倒くさがり屋なのです。いつも、口癖のようにこう言ってばかりいます。

「面倒だ。面倒だ。ああ~、面倒だ。曲を作るだなんて面倒だ。けれども、その面倒な作業をしなければ、お金が入ってこない。これは、困った。困った、困った。さて、どうしたものか?」

 

 困るのは、メンドー・メンだけではありません。

 メンドー・メンの作る曲を演奏する演奏家たちも。その演奏を人々に聞かせる為の会場を用意する興行主も。もちろん、音楽を楽しみにしている一般市民の方々も、みんなみんな困ってしまうのです。

 ですから、どうにかして、メンドー・メンに曲を書いてもらわなければなりません。


 ここで、私の出番であります!

 最初は、なだめたりすかしたりして、どうにか作曲に専念してもらおうとがんばっていた私でありました。けれども、そのような生半可な方法では全然効き目がないコトに気がつきました。

 そこで、蛇のアレグロが、このように提案してきます。

「正攻法で駄目ならば、邪道でいくしかないんじゃないですか?蛇だけに蛇道なんちって」

 くだらないダジャレの部分は、スルーするとして、アレグロは何が大切なコトをいってくれたように思います。そうです!こここそ、魔法のアイテムの使いどころです!8つに分かれたお父様の体の一部。

 私は、1つのアイデアを思いつき、それを試してみることにしました。


 それは、こういうものです…

 まずは、牛のドロローゾから引き継いだ“狂戦士の指輪”をメンドー・メンの指にはめます。これは、本来、指輪をはめた者の意識を飛ばし、戦闘に専念させる魔法のアイテムなのですが、「応用を利かせれば別の使い方もできるのでは?」と考えたわけです。

 狂戦士の指輪に加えて、“魅惑の王冠”も同時に使うのです。


 クマのメトロノームが所持していた魅惑の王冠は、私が装備して魔力を込めると、望んだ相手を魅了して支配下に置くコトができるという強力な能力を秘めています。ただし、その能力は絶対ではなく、相手の意識が強ければ強いほど、失敗する確率が高くなってしまいます。

 逆に、単純な思考の持ち主ほど、簡単に魔法にかかってしまうのです。人間でなく、動物に効果を発揮しやすいのは、そのおかげですね。

 で、狂戦士の指輪を装備した人は、戦闘に特化するという、いわば非常に単純な思考状態に置かれているわけです。そこに、私が魅惑の王冠の能力で魅了の魔法をかける。すると、どうでしょう?好きな風に操れた上に、作業に没頭するのでは?


 そう考えて、さっそく実行に移しました。

 すると、どうでしょう?思った以上に、効果を発揮しました!!

 元々、メンドー・メンが暗示にかかりやすいという性格であったせいもあるかも知れません。それにしても、物凄い威力!!

 メンドー・メンは、次から次へと曲を生み出していき、瞬く間にそれまでの10年分の仕事を終わらせてしまいました。しかも、どれもこれも傑作ばかり!!

 ま、おかげで、私の方は魔力を使い果たしてヘトヘトです。その後、疲れから何日も寝込んでしまう事態になってしまいました。

 その後、街の人たちも、興行主さんも、演奏家の皆さんも、みんなみんな喜んでくれました。もちろん、メンドー・メン本人も!


 けれども、この方法、他の人にも使えそうですね。

 どうしても食いっぱぐれるような事態になった時は、この方法で、世界中の才能があってやる気のない作曲家や画家や小説家なんかに傑作をバンバン作らせて、それを使って一儲けすれば、よさそうですね。


         *


 …などと言っている暇は、ありません。

 私には、もっと大切な使命が待っているのですから!


 そうこうしている内に、私は自分の家である魔王のお城へと近づいてまいりました。いえ、“元魔王のお城”でしょうか?今は“勇者のお城”と言った方がいいかも知れません。

 まだまだ語りたい出来事は、山のようにあるのですが、この辺にしておいて、本来のストーリーへと話を戻しましょう。


 こうして長い旅路の果てに、私は自分の家に到着したのです。

 このお城から逃げ出して、初めての仲間である小犬のフーガから事情を聞かされ、お父様の分身である8つの魔法のアイテムを集め、ついに、ここまで戻ってきたのでした。

 これで、ようやくスタート地点。同時に、物語のゴールへと近づきつつあります。


「さあ、これからどうする?」と、私は旅の仲間たちに尋ねました。元八人衆である8匹の動物たち。それに、ウサギのピーターを加えた9匹です。

「もちろん、全員で突撃しましょう!」と、これは気の短いニワトリのスタッカートのセリフ。

「そうだ!そうだ!」と、蛇のアレグロも賛成しています。

 けれども、それとは逆の意見もありました。

「全員では、かえって目立つコトになるでしょう」

「ここは、少数精鋭の方がいいのでは?姫様のお母様であらせられるレイラ・ライ様にお話を伺うだけですし」

 これらは、それぞれカメのケルンと、小犬のフーガの言葉。

「そうですね。私たちは、体が大きいので目立ってしまいますし」

「ウンウン」と、クマのメトロノームの話に、牛のドロローゾが頷いています。

「では、こうしましょう。私と、あと体の小さな者、何匹かを連れていきます。そうして、お母様にお話を聞いて、お父様を復活させる手段を聞き出したら、ここに戻ってきます。その後、戦闘の準備を整えて、再度全員で突撃をかけましょう」


 こうして、私たちは、お母様であるレイラ・ライの元へと向ったのでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ