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~第43話~ ノルマ16枚

 ~第15話~ 草原の王者


 さて、そんなこんなで、牛のドロローゾを仲間に加えた私たち一行でありました。いよいよ、残りの仲間は1体。集めるべきアイテムも残り1つだけとなりました。

 私は、ドロローゾに尋ねます。

「あんたの持っているアイテムは?」

「指輪。狂戦士の指輪です。装備した者の意識を飛ばし、攻撃に専念させる効果があります」と、言いながら片方のツノにはまった指輪を見せてくるドロローゾ。

 その言葉を聞いて、小犬のフーガがこんな風につけ加えます。

「もしかしたら、その指輪に魔王様の魔力が残っていて、それがドロローゾを暴走させたのかも知れないですね」

「いずれしても、もう終わったことよ。それよりも先へ進みましょう!」

 そう宣言して、私は先頭を進みます。

「残りは、ライオンのラメントだけですね」と、馬のポリフォニー。

 長かった旅も、もうすぐ終わり。残り1つのアイテムを手に入れれば、いよいよ魔王であるお父様の復活です。そうなれば、私の役割は終わり。後は、お父様がなんとかしてくれるでしょう。


 ウキウキしながら歩みを進めていく私を、次にネックレスの光が導いたのは、草原でした。

「草原!ステップ!いかにもライオンが生息していそうな土地ね」

 そう言いながら、私は歩みを進めます。この旅も、課せられた使命さえなければ、どんなにか楽しい旅になったことでしょう。けれども、楽しんでばかりはいられません。心に気軽さを持ちながらも、使命だけは忘れてはなりません。

 歩くのに疲れた私は、馬のポリフォニーの背中に乗せてもらい、旅を続けます。こういう時、馬って便利ね。他の動物たちも体が小柄な者は、牛のドロローゾや熊のメトロノームの背中や肩に乗っかって進みます。

 そうして、たどり着いたのは、ライオンたちの大家族の住み家でした。

「オ~イ!ラメント!いるか~!」と、蛇のアレグロが叫びます。

 ラメントが出てくるまで、大勢のライオンさんに囲まれて、ちょっと恐い目をしました。

「大丈夫ですよ。イザとなれば、私がお守りしますから」と、熊のメトロノームが私の心境を察して声をかけてくれます。

 ノッシノシと堂々と歩いて出てきたのは、1匹の立派なたてがみを持ち合わせたオスのライオンでした。

「やあやあ!ライラ・ライお嬢様!それに、みんな!ひさしぶりだな。どうぞ、ゆっくりしていってください」

 そう言うと、ライオンのラメントは歓迎会の準備を始めました。

「オイオイ、そんな暇は…」

 そう言いかけた小犬のフーガを制して、ラメントが言います。

「まあまあ、いいじゃないか。みんな、長い旅で疲れているんだろ?」

「そうね。せっかくだし、ここでゆっくり休んで、歓待を受けましょうよ」と、私も賛成します。

「姫様がそうおっしゃるなら…」と、フーガも渋々同意します。

 こうして宴が始まりました。飲めや歌えやの大騒ぎ…とはいきませんでしたが、なにしろそこはライオンの大家族です。お肉だけは、次から次へと出てきます。それも新鮮なお肉が。たった今、取れたてでしょうか?ということは…

 ま、なんにしても、みんなおいしそうに生肉をほおばっています。もちろん、私はジックリと焼いてから食べましたけどね。


 そんな風に何日かが過ぎていきました。

「そろそろ行きましょうよ」と私が言っても、「まあまあまあ」とお肉を出してくるラメント。仕方がなく、またバーベキューです。そんな風な行為が何度も繰り返されて、さすがに私もブチ切れました。

「いい加減にしなさいよ!!あんた、ほんとは一緒に行く気がないんでしょ!!」

「実は…」と、ラメントが語り始めます。

「この私めにも家族というものができまして」

「フムフム。それで?」

「それで、家族は守らねばならんと思ったわけです」

「は?そんなもの置いていきなさいよ!平和な世界になれば、どうとでもなるでしょ!」

 私が一喝しますが、ラメントは譲りません。

「いえ、そういうわけにはまいりません。そういうわけで、置いていくのは私めにしていただきたいのです」

 そこへ、蛇のアレグロも割って入ります。

「魔王様の復活まで、あとちょとなんだし、協力しろよ」

「そうだぞ」と、小犬のフーガも頷きます。

 それを無下に断るラメント。

「いや、もう疲れたんだ。魔王様の元で働くのにも。これらは、家族を守って生きていくさ…」

 バチコ~ン!

 ここで、私の必殺の平手打ちが飛び出します。物の見事にラメントの顔面にヒット!!

 しかし、ラメントも引き下がりません。

「殴って済むなら、いくらでも殴ってください。私は、体を張って家族を守り通します」

「これは、どうやら説得は無理そうですね」と、熊のモノクローム。

「だったら、せめて魔王様の一部であるアイテムだけでも…」

 亀のケルンの言葉に従って、ラメントは1度、茂みの奥へと消えていきます。そうして、立派な剣を口にくわえて戻ってきました。

「これは、覇王の剣。込める魔力に比例して、切れ味が増していきます。ライラ・ライお嬢様が全力で魔力を注ぎ込めば、大抵の物は切れるでしょう」

 そう言うと、ライオンのラメントは、クルリと背を向けて奥へと消えていきました。 


 結局、自分勝手なライオンは置いていくことに。

「よかったんですか?ライラ様?」と、亀のケルンが尋ねてきます。

「知らないわよ!あんなクソライオン!家族でも何でも大事にすればいいんだわ!」

 私は、感情的になると、ついつい言葉づかいが悪くなってしまいます。こういう所が、私の欠点ね。どうにかして、直さないと。でも、物心ついた頃からずっと、魔王やその配下の荒くれどもに囲まれて生きてきたんですもの、こんな風に育っても仕方がないわよね。

 それにしても、ラメントの気持ちもわからないではないわ。家族っていうのは、やっぱり大切なものよね。私のお父様だって、結婚して、私が生まれてから丸くなったって聞くし。誰もがそんな風に家族を大事にしながら生きていけば、世界だって平和にやっていけるかも知れないし。

 でも、今の私には、それ以上に大切な使命があるのよ。ある意味、それだって家族を救う為でもあるのだけど…

 などと考えてくると、遠くから声が聞こえてくるような気がしました。

「オ~イ!オ~イ!」

 間違いありません。誰かが呼んでいます。後ろの方からです。私は声のした方へ振り向きました。

 すると、地平線の彼方から1匹の獣が走ってくるのが見えました。立派なたてがみを持ち合わせたオスのライオンです。

「オイ!アレ、ラメントじゃないか!」

 蛇のアレグロが叫びます。

「ほんとだ。どうしたんだ?何か忘れ物でもしたかな?」

 などと、馬のポリフォニーものんきに言います。

 ハァハァハァ…と息を切らしながら追いついてきたライオンのラメントが、こう言うのが聞こえました。

「申し訳ない。私めも連れていってください」

「どうしたのよ?あんた、家族を守るんでしょ?」

 それから、ラメントが説明を始めます。

「それが、その家族に説得されてしまいまして。『世界が大変な時に、お父ちゃんだけ何やってんだよ!』『そうだ!そうだ!』『ボス、オレらのコトは気にせずに行ってくだせえ』『世界1つ守れないのに、家族なんて守れるわけないでしょ』ってな具合に。それで、私めも心を決めたわけです。ライラ・ライお嬢様のお手伝いをさせてもらおう。魔王様の復活の手助けをさせていただこう!と」

 やれやれ、まったく…

「ま、いいわ。最終的に駆けつけてくれたんだから、良しとしましょう。お咎めはなしよ!」

「ありがとうございます」

 というわけで、最後の仲間ライオンのラメントも旅に加わったのでした。


 こうして、元八人衆のメンバーを全て集め、8つに別れたお父様のカケラであるアイテムも全部揃えた私、ライラ・ライでありました。

「さあ、いよいよね。これから、どうすればいいの?どうやったら、お父様を元の体に戻せる?」

 私のその質問には、小犬のフーガが答えます。

「8つのアイテムを1ヶ所に集め、姫様が全身全霊をかけて魔力を注ぎ込めばOKなはず」

「わかったわ。とりあえず、今夜はもう休みましょう。一晩ゆっくり休んで、魔力を蓄えて、明日勝負といきましょう!!」

 それから、私たちは近くの街に宿を取りました。熊のメトロノームとライオンのラメントは、街の人を脅かせないように街の近くの森に隠れてもらっています。

「ここは、温泉で有名らしいですよ」と、ニワトリのスタッカート。

「お、温泉!いいわね!」

 とはいうものの、私は少年の格好をして旅を続けております。こういう所で正体を明かしたくはありません。人のいない時間帯を見計らって、女風呂の方へと入ります。

「ふぅ…落ち着くわね」

 ゆったりと湯船につかりながら、私はこれまでの旅を振り返っていました。

 自分の国を追い出され、小犬のフーガに出会って、お父様のカケラである8つのアイテムを集め始めたのよね。それから、蛇使いの村に行って蛇のアレグロを助け出して。胃液でベタベタになった水晶玉を取り戻して。亀とウサギのかけっこに協力して、婚活パーティーを開いたりもしたわね。グリモグさんとリンさんは、仲良くやってるかしら?

 そういえば、サーカスに出演したコトもあったわね。なんだか、遠い昔の出来事みたい。また、あんな風にスポットライトの光を浴びて、お客さんから嵐のような拍手をもらいたいものだわ。

 ニワトリのスタッカートとの追いかけっこも楽しかったわね。平和な世界に戻ったら、またあんな風に楽しく遊びたいわね。

 その後、暴れ牛と化したドロローゾと戦って、ライオンのラメントを迎えに行って…なんだかんだあったけれども、旅自体は楽しかったわ。それも、いよいよ終わりなのね。ちょっと名残惜しいな。

 などと考えている内に、お風呂の中で眠くなってしまい、ブクブクと沈んでおぼれかけてしまった私なのでありました。


 さて、翌日。いよいよ魔王であるお父様復活の儀式です。

 宿を後にし、メトロノームとラメントを回収した私たちは、人目のつかない荒野へと出て、8つのアイテムを取り囲みます。

「さあ!いくわよ!」

 私は、そう叫ぶと、ありったけの魔力を8つのアイテムへと注ぎ込みます。アイテムは、ゆっくりと融合していき、人の姿へと変わっていきます。

「お願い!お父様!元に戻って!!」

 けれども、そこまででした。それ以上は何も変わりません。8つのアイテムは1つになり、中途半端な人形のような形で止まってしまいました。

「どういうコトなの!?これは!?」

「わかりません。姫様の魔力が足りないのか。あるいは…」と、小犬のフーガが答えます。

「あるいは、なんなのよ!」

「あるいは、もっと別の要素が必要なのか…」

 その時です。私に向って、こう語りかける声が聞こえてきました。

「ライラ…ライラなのか?」

「誰?」

「我が娘、ライラか?」

「お父様!」

 私は、いてもたってもいられずに叫びます。

「ライラよ。私を復活させようというのかい?魔王であったあの頃に戻そうというのかい?」

「そうよ!待ってて!今、助けるから!」

「悪いが、それはやめておくれ」

「!?」

 ここで、一同、驚きで身の動きを止めます。どういうコトなの!?元の姿に戻そうとしているお父様自身が、それを拒否してくるだなんて!!

「ライラよ。よくお聞き。私は、もう疲れた。このまま永遠に眠らせておいておくれ。お前はお前で好きに生きていけばよいから」

「そんな!何を言っているの?お父様?元の姿に戻って、また昔みたいに一緒に暮らしましょうよ。この世界を支配してよ。みんなを幸せにしてよ。みんな、昔に比べてずっとずっと苦しんでるんだから!」

「もう、いいんだよ。全ては終わったのだ。私は疲れたのだ。諦めたのだ。生きるコトを、努力するコトを、先に進むコトを。もう誰も幸せにしたくはないし、平和や安定を求めたくはない。ただ放っておいてくれさえすれば、それでいい。それが、私の唯一の望みなのだから…」

「駄目よ!駄目!たとえ、お父様がそれでよくても、私はそうじゃないわ!みんなだって、お母様だってそれは同じ!だから、やる気を出して!生きる気力を取り戻して!!」

「お母様か…いいだろう。ならば、母親に会うがいい。お前の母親、我が妻レイラ・ライに。それで、全てがわかるはず。真実が伝わるはず。お前も諦めがつくだろう」

「お母様が…?一体、どういうコトなの!?」

「私に言えるのは、それだけだよ。さあ、ではゆっくりと眠らせておくれ。さようなら、我が娘、ライラ・ライよ」

「お父様!お父様!待って、お父様!!」

 けれども、それでおしまいでした。お父様の声は、途切れたきり、2度と何も聞こえてきません。人の形になりかけた人形も、元の8つのアイテムへと戻ってしまっていました。

「フーガ!どういうコトなの!」

 私は、勢い余って、小犬のフーガに怒鳴り散らします。

「わかりません。けれども、魔王様ご自身が元のお姿に戻ることを拒否されておるとなると…我々では、どうしようもないのかも知れませぬ」

「もしかしたら、世界がこんなになったのも、魔王様に原因があったのでは?」と、熊のメトロノーム。

「ワシは、なんかわかる気がするな。世の中が嫌になったら、この甲羅の中に引きこもって、1人で考えたくなってしまうもので」と、これは亀のケルン。

「ああ~あ、これで旅はおしまいか。結局、全部無駄足だったな~」

 ウサギのピーターの言葉に、私は即座に反論します。

「まだよ!まだ終わりじゃないわ!これから、お母様に会いに行かなければ!!」

「本気ですか?レイラ様が閉じ込められている塔は、敵の本拠地にあるのですぞ」というライオンのラメントの声にも、私は負けません。

「行くわ!こうなったら、なんとしてもお母様にお会いしなければ!そうして真実を聞き出すのよ!」

「オレは、どこまでもお供しますよ」と、牛のドロローゾが賛同してくれます。

「しょうがない行くか…」「乗りかかった船だしな」「ここまで来たら、ついでだ」などと、他の者たちも渋々ながら、乗ってきてくれました。

 こうして、私は、お母様の閉じ込められている高い塔のある城…私のお家へと向うコトに決めたのでした。

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