~第33話~ ノルマ12枚
~第11話~ 作戦決定!
「僕は、コビット」
同室の男の子が自己紹介をしてきます。コビットだなんて、なんだか小人みたいな名前です。そういえば、見た目もちょっと小柄でかわいらしい感じ。
「ぼ、僕は…ラルゴ。よろしく」
私は、適当にでっちあげた偽名を語ります。
コビット君は、赤ん坊の頃にこのサーカスに拾われて、それ以来ずっとここで暮らしているそうです。なので、テントの中は自分の家みたいなもの。もちろん、街を移動する度にテントは張り替えるのですが、中身はいつも同じなのだそう。
「サーカスの暮らしって、楽しそうだな~」と、私は心に思ったコトをそのまま口にします。
すると、コビット君は、こんな風に答えてきます。
「そんなコトはないよ。確かに、お客さんの前で芸をするのは楽しいけど、それだっていろいろと大変だからね。失敗したらどうしよう?とか、拍手がもらえなかったら嫌だな…とか、いろいろ考えちゃうし。何より、訓練が辛いね。特に団長は厳しいから」
団長?あのやさしそうなサンタクロースみたいなおじいさんが?
「なんか意外だな、あのやさしそうな人が…」と、私。
「それは最初だけだよ。人前では、あんな風に振る舞ってるんだ。でも、身内には、とんでもなく厳しいよ」
そっか。サーカスって、そういうものなのね。仮にも、人様の前で芸をする商売だものね。そりゃ、厳しくもなるわよね。
などと会話をして、結局、その晩はコビット君と同じ部屋でドキドキしながら寝てしまいました。もちろん、ベッドは別ですよ。何かあれば、風の魔法でも使って吹っ飛ばせばいいか…などと考えたりもしましたが、その日は何事もなく朝を迎えてしまいました。
さて、そんなコトよりも、熊のメトロノームです。どうにかして、檻から助け出さなければなりません。
コビット君がいなくなった所を見計らって、作戦会議です。
「どうにかして、檻の鍵を手に入れないと」と、私が提案します。
それに対して、小犬のフーガ。
「別の機会を狙うという手もありますが。たとえば、訓練中とか、サーカスの本番中とか。サーカスなのだから訓練くらいはするでしょうし、出番の直後ならば、スタッフも油断しているかも」
「なるほどね。それは、いいかも」と、私。
「それよりも、メトロノームの持っているアイテムは何なんですか?それによって、別の解決法が見つかるかも」と、亀のケルン。
なるほど。アイテムね。8つに分かれたお父様の1部。そういえば、すっかり忘れていたわ。
「じゃあ、ちょっと聞いてくるわ」
そう言って、私は部屋を出て、熊のメトロノームに会いに猛獣の檻が置いてあるゾーンへと向いました。
すると、メトロノームは、芸の訓練中でした。
「何やってんだ!!そんなコトじゃ、餌はやれんぞ!」と怒声が飛びかっています。見ると、おひげの団長が怒鳴っています。確かに、コビット君の言っていたように、身内には非常に厳しいタイプみたい。
熊のメトロノームは、悲しそうな顔でコチラを見ています。
「ライラ様、早く助けてくださいよ…」
そんな心の声が聞こえてきそうなくらい。
私も、何とかしてあげたいんだけどね。この状況じゃ、ちょっと無理みたいよ。
仕方がないので、その間に私はサーカスの巨大テントの中をアチコチ探索して回ります。もう本番も近いらしく、みんな一生懸命に練習に励んでいます。あっちでは空中ブランコ、こっちではピエロの玉乗り、といった感じで。
考えてみれば、大変な生活よね。旅から旅への人生で。サーカスの人たちは家族みたいなものだろうけど、それ以外にはなかなか友達だってできそうもないし。最初は、楽しそうだなんて思っていたけど、確かに、コビット君の言ってた通り、そんなに甘い場所ではないのかも。
お城で暮らしていた私って、もしかして、かなり幸せだった?
そんな風に考えながら、サーカスのテントの中を歩き回って時間を潰してから戻ってくると、メトロノームの訓練は終わっていました。檻の中で、与えられた生肉を美味しそうに囓っているメトロノーム。もしかして、あんた、この生活、結構楽しんでるんじゃないの?
「で、あんたが持ってるアイテムって何なのよ?」と、私は話しかけます。
「ハヘ?」と、食事の邪魔をされたメトロノームは、変な声を出します。
「アイテムよ、アイテム!8つに分かれたお父様の1部!」
「ああ、アイテムね。それでしたら、王冠です」
「王冠?そんなもの、どこにあるのよ?」
「いえね、人間たちに捕らえられそうになって、慌てて森の中に隠してきたんです。だから、ここにはありません」
「なんだ…期待させておいて。これじゃあ、今回は新しい能力に頼るわけにはいかないわね。手持ちのアイテムでどうにかしないと」
「面目ない…」
「ま、いいわ。こっちでなんとかするから。あんたは、サーカスの人たちに逆らわないように、檻の中で静かにしてなさい」
「はい。できるだけ早めにお願いします…」
そんな熊のメトロノームの情けない声を後にしながら、私は自分の部屋へと戻っていったのでした。
まったく、これが本当にあの強靭な体と鋼のような意志を持った八人衆の1人だったのかしら?
結局、その後の動物たちとの話し合いで、こういう作戦で行くことにしました。
この街でのサーカス公演最終日まで待つ。そうして、熊のメトロノームの最後の出番が終了した後に、こっそりと檻の鍵を奪い、メトロノームを奪還した後にみんなで脱出する。少々、荒っぽい作戦になるかも知れませんが、これならばサーカスの人たちにも、あまり迷惑をかけずに済みそうです。
そんなわけで、随分と時間が空いてしまいました。公演の最終日までは、まだまだ時間があります。何をして過ごそうかしら?
…などと考えていたら、サーカスの団長からお声がかかりました。
「さっそく次の公演から、出演してもらおうかな」
「ええ!?そんな!?」
私は、驚いて声を上げます。
「な~に、舞台の端っこで馬に乗って登場するだけでいいんじゃ。楽な役割じゃろ?とりあえず、舞台に立つだけ。雰囲気を味わうだけ。それだけでも、経験になるからね」
「いやいや、でも、わた…いや、僕は全然そういう経験ありませんから。訓練だって受けていないし」
「だからこそ、じゃよ。きっと、いい経験になる。馬の背中に乗って舞台を1周するだけだから、大した訓練も要らん」
「そんな…」
「仮入団とはいえ、君もこのサーカスの一員じゃからな。いつまでも、ただ飯を食らわせておくわけにはいかん。少しは働いてもらわんと!わかったね?」
キツイ言葉で団長にそう言われて、私は「はい…」と答えるしかありませんでした。
はてさて、どうなることでしょう?
チョイ役とはいえ、私もサーカスの舞台に上がることになってしまいました。こんなことで、みんなと一緒にここを脱出するチャンスはあるのでしょうか?とりあえず、実際に何度か舞台に立ってみて、タイミングを計るしかありません。もしも、どうしても無理そうならば、その時はその時で別の策を考えましょう。
その後、何日か準備の日が続き、私もちょっとした訓練に参加するようになりました。もちろん、熊のメトロノームは大変な目に遭っています。でも、鞭に打たれたりしながら、辛い訓練に耐えて、どうにかちょっとした玉乗りくらいはできるようになっていました。人間、やればできるものなんですね。あ、人間じゃなくて、熊だったか。
それから、蛇のアレグロや小犬のフーガたちも、一緒に舞台に立つことになりました。馬のポリフォニーに乗った私の後をチョコチョコとついて歩く役です。これでは、なかなか脱出のチャンスを伺うのは難しいかも知れません。
「どうすんのさ、こんなコトになっちゃって?」と、ウサギのピーター。
「ちょっと待って、今、いろいろと考えてるから」と、私。
「もうこうなったら、鍵でもなんでも奪って、サッサと逃げ出した方がいいのでは?」と、蛇のアレグロ。
「そうですね。なんだか面倒なコトになってきたし、その方がいいかも知れませんね」
小犬のフーガもそれに賛成します。
「それにしても、サーカスの公演最終日までは待った方がいいのでは?」
これは、亀のケルン。さすがに亀だけあって、落ち着いています。ただ、それには一理あります。できる限り騒ぎを大きくしたくはないし、サーカスの人たちにも迷惑をかけたくはありません。最終的には、メトロノームを連れ出して脱出するとしても、せめて、そのくらいの義理はあってもよさそうです。
「とりあえず、最終日までは、このままの状態で行きましょう。最悪、この街を去って、次の公演場所に移動する最中にどうにかすればいいわけだし。ここはなるべく事を荒立てない方向で。お父様のカケラである8つのアイテムを集めるまでは。お父様が復活なされば、少々目立った行動を取っても、どうにかなるでしょうけど」
その言葉は嘘ではありませんでした。けれども、私の心のどこかに、一緒に部屋で寝泊まりしているコビット君のことがあったのも本当です。何日も一緒に暮らしている内に、段々と気になる存在になっていき、心の中を占める面積が広がっていったのです。できれば、ここを逃げ出す時に、一緒に連れていってあげたいくらいに。
私は、ふと、将来のコトを想像してみました。この旅が終わって、お父様のカケラを全て集め終わって、魔王であるお父様を復活させたその後のコトを。それで、全ては終わりを告げるのでしょうか?蘇ったお父様が絶大な力を持ってして、裏切り者の勇者たちを一掃する?そんなに上手くいくかしら?
仮に、そうなったとして、私はその後どうすればいい?また、昔みたいにお城に閉じこもって暮らしていく?それも、嫌だなぁ。できれば、こんな風にみんなと一緒に旅を続けたい。この子たちと一緒に旅を続けたい。他の人たちには悪いけれども、こんなコトになったのを私自身は喜んでもいる。あのままお城で暮らし続けている所を想像すると、息が詰まって死んじゃいそうになっちゃうもの。
旅には、コビット君もついてきてくれるかしら?それとも、もっと別の人を探す?そうね、私にピッタリの白馬の王子様を探す旅なんてのもいいわね。お婿さん探しの旅。この戦いが終わったら、今度はそういう旅に出よう!決めた!そうしよう!
などと、1人勝手に次の目標に向って決心を固める私、ライラ・ライなのでありました。