~第28話~ ノルマ9枚
~第8話~ 農場での交渉
かけっこでの勝負に勝利した私たちは、ウサギのピーターを前にして話をしていました。
「ごめんなさい。わけあって、どうしても勝たなければいけなかったの。たとえ、どのような手段を用いてもね…」
私の言葉に対して、ピーターはこう答えます。
「グッ…勝負は勝負。仕方ねえ。細かい条件を設定していなかったオレも悪い。外部の助けを禁じてたわけじゃないからな。ここは潔く負けを認めよう」
なんと素直なウサギさんなのでしょう。人間だったら、惚れてしまっていたかも。
「約束通り、これはくれてやる」
そう言ってピーターが渡してくれたのは、真っ赤なマフラーでした。
「オレの足が速かったのは、元々の力もあるが、このマフラーのおかげでもあったわけさ。そういう意味では、オレもズルをしてたってわけさ」
「これは?」
私の質問に対して、ピーターはこう答えます。
「それは、疾風のマフラー。身につけた者のスピードを格段に上げてくれる魔法のアイテムさ」
さっそく、魔法のアイテムである疾風のマフラーを亀のケルンに装備させます。すると、身につけた途端、確かにスピードが上がりました。これまでトロトロとしか移動できなかった亀のケルンが、小犬のフーガくらいの速さで歩けるようになったのです。お父様の分裂した体以外にも、世界中には、まだまだこのようなアイテムが存在しているようです。
「これで、旅が楽になるわね」
そう言って、私たちが出発しようとすると…
「よかったら、オレも連れていっちゃくれないか?ここで1人で暮らして、退屈してた所だし」
そう、ウサギのピーターが提案してきます。
「いいんじゃないですか?」と、小犬のフーガ。
「昨日の敵は今日の友とも言いますしね」と、亀のケルン。
断る理由はありません。マフラーの力はなくとも、あの足の力は役に立ちそうです。
「いいわ。一緒に行きましょう!」
こうして、私たちは、亀のケルンとウサギのピーターを仲間に加えて、旅を再開しました。
さて、ネックレスの光に導かれ、私たちは道を進んでいきます。
次に到着したのは、農場でした。農場では、メェメェ、モーモー、コケコッコーと、いろいろな動物が鳴いています。
「残りの仲間は、何がいるの?」と、私が尋ねると、小犬のフーガが答えます。
「残りは、牛と馬とニワトリと熊とライオンですね」
「熊とライオンは、強そうね。では、ここで牛と馬とニワトリの3匹がいっぺんに仲間になる可能性もあるわけね」と、私。
「そうですね。けれども、そう見せかけて、熊とかライオンが番犬代わりに使われているなんて可能性も…」
そんな風に、亀のケルンが言います。
「とりあえず、さっさと探しましょうよ!そのペンダントがあれば、居場所なんて一発なんでしょ?」
ウサギのピーターは、足が速いだけではなく、性格的にもせっかちなようです。
…とはいえ、他に方法もありません。ピーターの言葉に従って、私たちはゾロゾロと歩いて進みました。なんだか、「ブレーメンの音楽隊」みたいね。そんな風に私は思いました。動物たちが一緒に旅をして、盗賊を追い出すとかなんとかいう、そういう童話。
ゾロゾロゾロゾロと動物たちを引き連れて、ネックレスの光に導かれるまま、私は進んでいきます。そうして、一軒の馬小屋の前に到着しました。
「ここね…」
私が、そう呟くと、そこに1人の男が現われます。どうやら、この農場の関係者のようです。
「なんだぁ~?おめえらは~?」
ここで、私は、男の子の姿をして旅している設定を思い出します。人間相手に正体を明かしたくはありません。そこで、このように対応しました。
「僕らは、旅の者です。この馬小屋に用があって参りました」
「馬小屋にぃ?何のようだ?」
「それは、馬小屋の扉を開けてもらえれば、わかります」
「怪しい奴め。それはできねえ相談だな」
ここで私は迷いました。例のごとく風の魔法を使って吹っ飛ばすか、重力の魔法で動きを止めている間に強行突破するのは簡単です。ですが、できるだけ事を荒立てたくはありません。そこで、私はこの男と交渉することにしました。
「実は、この小屋の中にいる生き物を譲って欲しいのです」
「生き物ぉ?そいつは、馬ってことか?」
「はい…おそらくは。もしかしたら、牛かニワトリ。あるいは、熊かライオンかも…」
「なんだぁ、それは?わけがわからんぞ」
「はい。わた…いや、僕にもわけがわからなくて。でも、そういう事情なのです。どうか、譲っていただけませんか」
「フムゥ。まあ、譲れと言われれば、譲らんこともないが。何と交換だ?」
ここで私は、手持ちの宝石のことを思い出しました。お母様から贈られた宝石です。
「では、これでいかがでしょう?」
そう言って、私は宝石の1つを取り出して男に見せます。
「ウ~ン…宝石か。こんなものには興味ないなぁ」
「では、何ならよろしいのでしょうか?」
「そうだなぁ…嫁っ子だ。嫁っ子が欲しい!!」
「お、お嫁さん!?」
さて、困ったことになりました。男の要求は、お嫁さんだそうです。そういえば、最近は農家の嫁不足が深刻化しているという話を聞きます。この人も、それは例外ではないようです。
…かといって、私がお嫁さんになってあげるわけにもいかないし。
はてさて、どうしたものでしょうか?
「さすがに、それはちょっと…他のモノにしてもらえませんか?」
私が、そう交渉しますが、男は首を縦に振りません。
「いんや!決めた!もう決めた!オラは、嫁っ子が欲しい!それ以外は駄目だ!」
これは、ちょっとどうしようもないようです。私は、男をブッ飛ばしたい気を抑えて、ここは一旦退却することにしました。
「わかりました。でも、すぐにというわけにはいきません。準備するのに時間がかかりますので、何日かお待ちください」
「わかった。楽しみにしてるぞ」
男のその言葉を背後に、私たちはその場を去りました。
さて、農場からしばらく離れた場所に集まって、再び作戦会議です。
「お嫁さんなんて、困ったわね。どうしたものかしら?」
私がそう切り出すと、蛇のアレグロが答えます。
「あんな奴、さっさと吹き飛ばしてやればいいんですよ。ライラお嬢様の力なら一瞬でしょ?」と、蛇のアレグロ。結構、好戦的です。
「そうだ!そうだ!それが手っ取り早い!」と、気の短いウサギのピーターも賛成します。
私もそうしたいのは山々なのですが、できれば事を荒立てたくはありません。あまり目立つ行動ばかり取っていると、敵にみつかりやすくなってしまいます。そうなったら、目的を果たす前に捕まってしまうかも知れません。せめて、お父様のカケラである8つのアイテムを揃えるまでは、それは避けたいものです。
「仕方がないので、ライラ様がお嫁に行かれては?」
「却下!」
亀のケルンの提案を私は即座に蹴ります。
「こうなったら、見つけるしかないですね。農家の嫁になっても構わないという女性を」
小犬のフーガが、そう言います。
「そうねえ。とりあえず、その努力だけはしてみましょう。それで、どうしても駄目そうなら、最終的には強硬手段ということで…」
というわけで、私たち一行は、農家の男のお嫁さん探しに街まで出かけることにしたのでした。