~第25話~ ノルマ8枚
~第7話~ ウサギとカメ
さて、蛇のアレグロを新しい仲間に加え、私、ライラ・ライは、旅を続けます。ペンダントの光に導かれ、たどり着いた次なる地は…
海沿いの浜辺でした。
次の仲間は、すぐに見つかりました。亀のケルンです。背中に大きな盾を背負っています。どうやら、これがお父様の一部…8つのアイテムの1つのようです。
「ケルン!あなたがケルンなのね。元々、すっとろそうな感じだったけれど、ますます動きが鈍そうになっちゃって…」と、私は声をかけます。
「あ、ライラ様。これはこれは、おひさしぶりです。実は、大変な事態になってしまいまして」と、ケルン。
「知ってるわ。お父様が8つの体に分かれてしまったんでしょ?私たちは、分裂したお父様のカケラを集めて回っているのよ」
「いえ、そうではなくて。何と申しましょうか…」
「それ以上に大変な事態があるものか。さあ、一緒に行くぞ。さっさとついて来い」と、蛇のアレグロが口を挟みます。
「それが、そうはいかぬのじゃ。ワシは、あやつに勝利せねば、この場を動けぬ」と、亀のケルンが言い終わるか言い終わらないかという瞬間、サッと何者かがその場に乱入してきました。
「オイオイ、次の勝負はまだか?それとも、ついに諦めたか?」
そのセリフを吐いた声の主の方を向くと、それは1匹のウサギでありました。
「お前は何者だ?」と、小犬のフーガが尋ねます。
「お前こそ、何者だよ?」と、ウサギ。
「私はフーガ。わけあって、この方と共に旅をしておる」と、フーガは首を向けて私を指し示します。
「オレは、ピーター。ウサギのピーターだ。コイツと勝負の最中さ」と、ウサギのピーターは、亀のケルンの方を指さして言います。
「勝負って、なんなの?」と私が尋ねると、ケルンは答えます。
「それが、このウサギと、かけっこで競争することになりまして。負けると、この盾を奪われてしまうのです」
「なんで、そんなコトになったんだよ…」と、アレグロ。
「それが、売り言葉に買い言葉で。『100回やっても1回も勝てやしない』などと言われて、つい…勝負は98回目が終わった所。次が、99回目の勝負なのです」と、ケルン。
「オイオイ、まだか?オレはせっかちなんだよ。早くしてくれよ!」と、ウサギのピーターがせかしてきます。
「とりあえず、どんなものか1度、勝負を見てみるか。残り2回あれば、1度負けても大丈夫だろう」
というわけで、亀のケルンとウサギのピーターの徒競走を見学するコトとなりました。
競争は、浜辺からスタートして、近くの丘のてっぺんまで。見ると、丘の頂上に旗が立っていて、真っ赤な布がバタバタと風にはためいています。
「あそこがゴールか。結構な距離あるな」と、アレグロ。
「よ~い…ドン!」の掛け声と共に、両者スタート!
物凄いスピードでウサギのピーターは疾走していき、瞬く間に丘の上の旗まで到着!!
対して、亀のケルンの方は…と見ると、まだ浜辺のまま。わずか数メートルしか移動していません。これでは、とても勝負になりそうにありません。
「どうだい?今回も、オレの勝ちだっだだろう?残り1回。それも、いただくぜ!」と、いつの間にか戻ってきたピーターが自信満々に言いのけます。
「タイム!タ~イム!作戦タ~イム!」
そう叫んでから、みんなを集め、ウサギのピーターがいない場所で話し合います。
「こうなったら素直に負けを認め、盾の方は何らかの方法で譲ってもらいましょう」と、小犬のフーガ。
「何らかの方法って、何だよ?」と、蛇のアレグロ。
「交渉して、何かと交換してもらうとか」と、フーガが答えると、「交換って何だよ?何と交換するっていうんだ?」
そうアレグロが反論します。
「待って!正攻法で勝てそうにないならば、ここはズルをしましょう!」と、私が提案します。
「ズル!?」
「お嬢様、それはちょっと…」
「さすがに、マズイんじゃないですかね?」
そう口々に反対意見を述べられて、私は一喝します。
「仮にも私は魔王の娘よ!ズルだろうが、卑怯な手段だろうが何だって使って勝ってみせるわ!!」
それに対しても、「魔王様はそんなお方じゃなかったのに…」とか何とかブツクサと文句が漏れていましたが、私はそれを無視してケルンに尋ねます。
「その盾は、どんな能力があるの?仮にも、お父様の一部であるならば、その盾にも何らかの力があるんでしょ?」
「これは、重力の盾。重さも軽さも自由自在。指定した物質の重力を制御し、重くしたり、軽くしたりできるのです」と、ケルン。
「な~んだ、そんな便利な能力があるなら、簡単ね。その力を使って、さっさと勝負を決めてしまいましょう」
そう言うと、私はケルンから盾を奪い、ピーターの所へ行って勝負の再開を申し出ました。
「さあ、勝負再開よ!これまでは、重い荷物を背負っていたから勝てなかったの。それを降ろしたからには、こっちにも勝ち目はあるわ!」
「さ~て、それはどうかな?どう見たって、勝負は決まってると思うけど」と、ピーターはニヤニヤしながら答えました。
見てらっしゃい!こっちには新しい能力があるんだから!
こうして、最後の勝負が始まりました。
「よ~い…ドン!」の掛け声と共に、再び両者はスタートします。
即座に私は重力の盾に向って願いをかけます。
「盾よ!我に力を!あのこしゃくなウサギの体を重くしてちょうだい!」
途端に、ピーターのスピードが緩まります。
「なっ…!?グッ!こなくそ!!」
それでも、ピーターは止まりません。前へ!前へ!ウサギのピーターは、全身の力を振り絞り進もうとします。亀のケルンの方も一生懸命には違いないのですが、なかなか速度が上がりません。結果的には、いい勝負。
「何やってんのよ!のろまな亀!!」
ついつい、私はそのような、はしたない言葉を使ってしまいます。
「このままだと、魔力が…もたないかも…」
私がそんな風に思っていると、ついにピーターは力尽き、その場に倒れ込み、そのまま眠りこけてしまいました。
「やった!」「チャンスだ!」「進め!進め!」
味方から、そのような声援が上がります。
けれども、ケルンは全然前に進みません。決定的に、とろ過ぎるのです。
「何やってんのよ!!のろまな亀!!」
私は、同じセリフをもう1度使ってしまいました。こういう所、反省しなければ…
でも、今はそんなコトに構っている暇はありません。ピーターに使っていた重力の魔法を、今度はケルンに向けて放ちます。その途端、ケルンの重力はなくなり、体が軽くなったケルンは物凄いスピードで丘を駆け上がっていきました。勢い余って、そのままグルグルと回転し、回転飛行しながらアッという間に丘に立っている真っ赤な旗に衝突し、フワ~サッと旗に包まれて地面に落下しました。ちょうど、重力の魔法が切れた瞬間でした。
こうして、私たちは見事勝利したのです!
この話が元となって、某有名な昔話が誕生した…かどうかは定かではありませんが。