計画の行方-6
昼が過ぎても健秀は現れなかった。
一時になって、麻也が家に電話をかけたが、まだ帰ってきていないと告げられたそうだ。
「……まだ部活をしてるのか?」
言いながら昨日写した健秀の部活予定表を出して麻也は確認した。
「今日は十二時までだったはず……だよな。予定がずれたのか?」
「どうするの?」
聞いてはみたが、どうするも何も健秀がいないのではどうしようもない。
「帰る」
言って麻也はテーブルに広げていた勉強道具を片付け始めた。
「家出計画、第一日目にして実行失敗、か」
麻也の呟きは聞かなかったことにして、僕は黙って同じように勉強道具を片付けた。
図書館を出て、僕たちは歩き出す。
「家に帰ってからもう一度健秀の家に電話してみるか……このまま帰ったら姉さんに何を言われるか分かったもんじゃない」
麻也の言葉に何か返すべきかと考えたが。
「……あれ?」
「? どうした?」
聞いてきた麻也に僕は前方を指し示す。
道路の数メートル先で人だかりができていた。
「なんだろう?」
道には木々が我が物のように幅を広げている。そのせいで見通しが悪く、よく見えない。
「事故じゃないか? ほら」
見ると、パトカーが停まっていた。
そういえば、よく事故が起こりやすい場所なので気を付けるように、と学校でも注意された覚えがある。
「うわー、僕、初めて見た」
「不謹慎だぞ」
麻也に怒られた。
「――あ、いた!」
大声が聞こえたと同時に、人影がこちらにかけてくる。
「……姉さん」
麻也の声が強張っている。
そしてその背後にもう一人。
「あっきー、さっきー!」
「……中濱……」
隼基だった。
「探してたんだよ二人ともー」
「……何で二人が一緒にいるんだ」
麻也の目つきがまた悪くなってきた。
「そんなことはどーでもいいのよ! 大変よ二人とも!」
バタバタと手を振って近づく浬弥さん。その仕草はまるでおば――何でもないので振っていた手で握りこぶしを作らないでくださいお願いします。
「……何が大変なんだ」
近づく姉に弟は身体を引いている。
「どうせまたロクでもないことなんだろ」
「そんなこと言わないでよ。本当に大変なんだから」
隼基が言う。
「だから何が大変なのかとっとと言え」
「驚くんじゃないわよ」
浬弥さんは念を押して言う。
「いい? 落ち着いて聞いてね」
この言葉は僕に向けられた。
「わかったから――」
「やなぴーが事故ったのよ」
言葉が遮られた麻也と、僕の身体はほぼ同時に固まった。
――ついさっきだって。
――あそこにパトカー停まってるでしょ? あの辺りで轢かれたんだって。
隼基と浬弥さんの言葉が耳に入るが、脳までは届かない。
「……健秀……?」
意味のないまま僕は呟く。
「……は」
麻也が息を吐いた。
「……何だって? 健秀?」
目の焦点が合っていなかった。
「……さっきー?」
「……麻也?」
様子のおかしい麻也に、隼基と浬弥さんも戸惑っていた。
「部活、終わってたのか」
……問題点はそこじゃないと思うのだけれど……。
何故かその台詞で、僕は逆に冷静になれた。
「それで、あいつはその後どうしたんだ」
「……病院に運ばれてったけど、どうなったかはちょっと……」
浬弥さんの答えに「そうか」と呟き、麻也は何かを考えていたが。
「……僕は先に帰る。柄斗、また明日な」
唐突に、僕に向かって麻也は言った。
「……うん」
麻也のおかしな態度に、僕はそれしか返せなかった。




