計画の行方-4
「ところでお姉さんはどうしてここにいるんですかー?」
アイスを食べながら隼基が聞く。
「学校こっちじゃないですよねー?」
浬弥さんの通う中学校は、僕たちの通う小学校と距離がある。例えて言うならば、碕田家を頂点とした、底辺が長い二等辺三角形。碕田家から見て、小学校と中学校はほぼ平行の長さの距離にある。
「なかぴーのお兄さんに買い物に付き合ってもらってた」
……家庭教師を荷物持ちにしたということですか、浬弥さん。
「……今日は予定はなかったはずだけど」
麻也が言う。
「だって先生ヒマだって言ってたんだもん」
「ヒマだからって人を駆り出すなよ」
しかも家庭教師だし。
「で、その兄貴はどこに?」
「あっち」
浬弥さんの指差す先、道路の反対側。
白いシャツを着た、大量の紙袋を持った人がいた。あの人が隼基のお兄さんなのだろう。
そしてその横にもう一人、赤い色のシャツを着た人が立っている。誰かは知らないが、二人で会話をしているようだ。
「あー……」
大量の紙袋。それを見ただけで僕は同情をしてしまう。
「金遣いが荒いんだよ、姉さんは」
麻也が文句を言う。
「お金は持ってるうちに使わないとねー。何て言ったっけ? 金は転嫁の回りもの?」
「漢字が違う」
金は天下の回りもの。
……耳からの情報だけで漢字が違うなんて分かるのは姉弟だからなんだろうな、と僕は麻也に聞かれたら確実に怒られそうなことを考えた。
しかし弟が姉に、しかも小学生が中学生に対して漢字の間違いに突っ込みを入れるというのはどうなんだろう。
そう思った所で。
「――ごめん! 知り合いに会っちゃって……あれ?」
謝りながらこっちに走ってきた隼基のお兄さんは、弟を見て目を丸くした。
「やぁ、兄貴」
「やぁ……って何で隼基がここに?」
「プールの帰り」
「あぁ、なるほどね」
「兄貴オレのアイス一本食べる?」
「いや、気持ちは嬉しいけど、これだからね……」
両手に紙袋を持っているので、手を伸ばすことはおろか汗を拭くことすらできないらしい。
「あ、ごめんなさい先生。ここでちょっと休憩してください。ほら紙袋下ろして」
「……ありがとう」
浬弥さんに許可をもらい、一息吐くお兄さん。ポケットからハンカチを出して汗を拭いている。
「そうそう兄貴。こっち、同じクラスのさっきー」
隼基はアイスをお兄さんに渡しながら、麻也を示して言う。麻也の表情は言うまでもなく不愉快そうだ。
「……いくら僕でも、自分の教えてる相手を忘れたりはしないよ」
それはそうだ。
「んじゃこっち。同じクラスのあっきー」
……『んじゃ』って何だ。
さすがにお兄さんにまで『あっきー』と覚えられたり呼ばれたりすることは避けたかったので、
「……秋佐野柄斗です」
と本名を告げて挨拶をした。
「始めまして。中濱歳基です」
お兄さんは丁寧に返してくれた。
しかし。
「なるほど、それで『あっきー』か」
……納得しても口に出して言わないで欲しかった。
「三人が仲良しだったなんて初めて聞いたわー」
「仲良くない」
浬弥さんの言葉に、麻也は即答した。
「一緒にアイス食べて下校する時点で仲良くない?」
「良くない」
眉間にかなりのシワが寄っている。
「あっきーとは仲良くなったよねー」
……それはいつの話だろう。
「仲良きことは美しきかな」
「黙れ」
「うわー、機嫌わるー」
「さっきーこわーい」
浬弥さんと隼基の言葉に耐えられなくなったのか、とうとう麻也は無言になり、この場を立ち去ろうとした。
「あれ? 麻也もう行くの?」
「……」
浬弥さんの問いに答えず、麻也は僕の服の襟をつかむ。
「あ、じゃあ僕らはこれで……」
僕は麻也の代わりに言う。
この後、図書館で『夏休みの友』とかいう絶対に仲良くなれそうもない課題のドリルをやりながら健秀を待つことになっているのだ。




