計画の行方-3
更衣室に入ると、麻也が変な顔をして僕たちを見た。
「……何をやってるんだ」
「仲良さげでしょー?」
……違う。確実に違う。
首を横に振る僕を無視して、麻也は隼基に近付いた。
「変な趣味でもあるのか貴様は」
『お前』から『貴様』に呼び方が変わっている。何故だ。
「べっつにー? オレはただあっきーと仲良くなりたいだけだよー?」
「嘘つけ」
「ホントだよー。さっきだってあっきーのピンチを救ったんだよー? ねーあっきー?」
「う? あ、う、うん?」
最後が疑問系になってしまった。
あれは、助けられたと言えるのだろうか。
変な沈黙の中、僕たちはとりあえず着替えを済ませた。
「……で、何でお前までついてくる?」
学校を出て数秒後に麻也は言った。
相手は何故か一緒にいる隼基である。
……呼び方が『お前』に戻ったのはどうしてか気になったが、触らぬ神になんとやらで、僕は無言を貫いた。
「んーと、二人にアイスでも奢ろうかと思って」
隼基はそんなことを言ってきた。
「奢られる理由がない」
「プールにいた時、さっきーにイヤなこと言ったみたいだからさ。怒らせたおわびみたいな?」
みたいな、って何だ。
「その金はどこから出ている」
「あ、大丈夫! これは母さんからもらったお小遣いだから!」
一体何が大丈夫なのだろうか。
「ふん。じゃあ一番高いものを奢ってもらおうか」
そう言って麻也は近くのコンビニへ足を向けた。
「何だ。結局食べたいんじゃん」
ねぇ、と隼基は僕に言う。
ねぇ、と僕に言われても。
「あっきーは何が食べたい? あんまり高いモノはダメだよー?」
「僕も奢ってもらっていいの?」
つい口を開いてしまった。
どちらかといえば、助けてもらっただけに僕の方が奢らなければならない立場なのではないだろうか。
「いーのいーの。今から気にしすぎるとあっきー大人になってからハゲるよー?」
「……あっそう」
笑いながら言う隼基に、悪意は感じられない。……僕のカンだからアテにならないけど。
結局、麻也は安いアイスキャンディー(リンゴ味)を選んだ。
「人の金で高いモノを食べるのは借りを作るようで嫌だ」
とのこと。
ちなみに僕はコーン付きのチョコアイスを選んだ。
そして隼基が選んだのは、左右に棒が付いている、真ん中で二つに割るタイプのアイス(ソーダ味)だった。
……あれ?
「なんだかんだ言ってあっきーが一番高いの選んでるよね」
金を払う隼基に言われた。
「…………」
戻そうかどうしようか悩んだら、麻也に止められた。
「人を突き落としたんだから、その分高いものを奢ってもらって何が悪い」
「ってそれさっきーもじゃん」
「さっきー言うな。だから安いものを選んだろ」
実際は二十円三十円といった差だけれど、小学生には重要な問題なのである。
アイスを買ってもらい、コンビニを出て食べながら歩くことしばし。
「ぐっ……」
と妙な声を出して麻也が立ち止まった。
「? どうしたの?」
聞くと、黙って麻也は道路の向こう側を指差した。
そちらを見る。
「……あ」
僕にも分かった。
道路を挟んで向こう側の歩道には、僕たちの見知った人がいた。
「あー、さっきーのお姉さーん!」
隼基も気付いて手を振った。
「あ――やめろ馬鹿!」
「うっわ! ストップ!」
麻也と僕が慌てて止めようとしたが、間に合わなかった。
その人物は、こっちに気が付くと道路を横断して近付いてきた。
「あらー? なかぴーひっさしぶりー! 何? どしたの? うちの弟だけじゃなくてあっきーとも一緒なんて珍しいどころじゃないじゃなーい!」
麻也のお姉さん、碕田浬弥。
今日はどうやらテンションはそんなに高くないようだ。
「あー! アイスー!! いーないーな私も食べたいなー?」
浬弥さんは物欲しそうに言う。……というか僕の手元のアイスをガン見しながら言っていた。
年上には逆らわないのが僕の生き方だ。
「……食べかけですけど」
アイスを差し出してみた。
「えー!? いーのあっきーくれんの!? あっきーってば太っ腹! どっかの誰かとは大違い!!」
誰か、とは麻也のことだろう。
「まあ、確かに僕は体重多いですけど」
「そういう意味じゃないだろう」
麻也がようやく口を挟んだ。
「そぅよぅ。あっきーはそのぷくっとした所が可愛いんだから」
「……そういう意味でもない」
麻也の眉間にシワが刻まれていく。
その横で、
「いやー、暑いときに食べるアイスはおいしー♪」
……浬弥さんは幸せそうにアイスを食べていた。
さっきまでのテンションが下がっている。冷たいものを食べると、体温と共にテンションも下がるのだろうか。
「さっきー、オレの一本食べるー?」
隼基が二つに割ったアイスを一本差し出してくる。
「……いや、大丈夫」
「そう?」
さすがに高いアイスを奢ってもらって、その上もう一本もらうのはどうも悪い気がする。




