夏休み家出?計画-3
「健秀が部活に行ってる間、僕たちは勉強をしたりして時間を潰すことになるな」
「えー」
麻也の言葉に僕は抗議の声を出した。
「『えー』じゃない。早めに他の課題を終わらせないと、後半に僕が地獄を見る羽目になる」
僕が、の部分を強調して麻也が言った。
ああ、うん、いつも頼ってごめんなさい。
「いつもお前だけ先に課題終わらせてるから、その答えを写させてもらおうと思ってたんだけどな」
「だが断る」
悪びれもせずに健秀が言い、麻也は即座に拒否をした。
「なんだよーいーじゃんかよー」
「いくない。そういうのは自分でやれ。僕に頼るな」
「けち」
「けちじゃない。それより早く日程表見つけろ」
どうやら健秀は探すのを放棄しようとしていたらしい。
まだぶちぶち言いながらも健秀は再び机の上の発掘を始めた。
「でもさ、何で急に家出なんて考えたのさ?」
疑問に思ったので聞いてみた。
「ん? んー……ちょっとな」
意外なほど曖昧な言葉で、麻也はそう言った。
聞いてはいけない事情があるのだろうか。
「……まあ、家から出たかっただけなんだけど」
……濁した割にはあっさりと答えられてしまった。
「家……出たかったの?」
「一日中あんな家にいられるかっての」
「へ?」
「僕一人じゃ広くてかなわない」
麻也の家は結構広い。お手伝いさんやら色々いる時点で、僕なんかとは全然違う世界の人間なのだと実感する。
多分、『広い』というのはそれだけじゃないんだろうけど。
「お、あったぞ、日程表」
「早く持ってこい」
「へーへー」
麻也に急かされるままに、健秀はテーブルの上にしわくちゃになった日程表を置いた。
「ほぼ毎日じゃないか。――まあ、当然といえば当然か」
一人で納得して、麻也はノートの最後のページを切り取ると日程を写し始めた。
「練習試合に……丸一日練習の日もあるな」
「げー」
「見てなかったのか」
健秀は本当に部活に行く気があるのだろうか、と一瞬僕は思ってしまった。健秀が野球を好きなのは知っているけれど。
「んじゃその日はサボるか」
「サボるなバカ」
健秀にそんなことを言えるのは麻也ぐらいのものだろう。
ふぅ、と息を吐いて、
「これじゃ『家出』は無理だな」
と麻也は呟いた。
「何だよ、やめんのかよ。冒険するっつったのはお前だろ」
「そういう意味で『冒険』って言ったわけじゃない」
「冒険ー冒険ー」
「うるさい黙れ」
少し険悪な空気になってきた。
……この後の展開によっては、僕の方にもとばっちりがきそうだ。
どうしよう、どうする?
「あのさあ」
よく考えないまま、僕は言った。
「あぁ?」
「何だ」
僕を見る二人の視線がとてつもなく恐ろしい。
「あ、えーと」
僕は何を言いたいのだろう。
「麻也君が言ったみたいに、アサガオの観察するわけじゃないんだからさ。別に毎日とかじゃなくてもいいんじゃないかなー、とか思ったんだけど。ほら、何日と何日に実行して、みたいな?」
適当に思いついたことを言ってみた。
「……なるほど。それは盲点だった」
と麻也が言い。
「何だ、たまにはいーコト言うじゃん」
と健秀が僕の頭を押さえた。
「本当に『たまに』だけどな」
「悪かったね」
……とりあえず、二人の機嫌を損ねずに済んだので良しとしよう。
「そうだな。家出じゃなくて、この町周辺の探索をすることにでもするか」
「家出はどうすんだよ」
「『僕たちの町周辺の探索』という名の『家出』だ。これなら何か聞かれても誤魔化せる」
……というか、誤魔化す以前にその『町周辺の探索』こそが『自由研究』にするべき内容なんじゃないかと僕は思うのだけど。
麻也がまたしても笑みを浮かべていたこと、すでに目的がすり替わっていたことに僕は気付かなかった。
『家出』という名の『自由研究』から『自由研究』という名の『家出』計画へ。
――小学生最後の夏休みはこうして幕を開け。
『家出』を実行することなく幕を閉じることになる。
次回と次々回に軽いイジメ描写がありますので、苦手な方はお気を付けください。




