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事件の行方-3

 白いスーツを着た浬弥さんはおじさんに向かって微笑んだ。

「あなたがその気であればいつでも、いくらでも力をお貸しします。――ただし、『前向きな考え』であれば、の話ですけれど」

「それって定義難しくないですか?」

 言ったのは僕でも麻也でも、おじさんでもない。

「……中濱……」

 麻也の顔が歪んだ。

「おとなしくしてろって言っただろ」

「だって心配だったんだよ」

 隼基が浬弥さんの背後から姿を現した。

「だから無理言って連れてきてもらっちゃった」

 そう言う隼基の右腕には包帯が巻かれていた。

「話をややこしくするからお前は黙ってろ」

 麻也に言われて、隼基は左手を挙げて承諾した。

「と、まああの通り中濱兄弟は無事なようですし」

 麻也はおじさんに話を戻した。

「人殺しは重罪ですが、あなたはまだ誰も殺していません。だからまだ、踏み止まれます」

「……踏み止まって、どうしろと言うんだ」

 殺人を犯していないと知り、おじさんは少し動揺しているようだった。

「そうですね、とりあえず八年前の一件を再捜査させてみるというのはどうですか?」

 とんでもないことを、浬弥さんはあっさりと言い放った。

「中濱歳基の証言もありますし、知り合いの刑事に協力させます」

 浬弥さんにはそんな知り合いがいたのか。

「全てが終わったら自殺か自首か、する気だったのではないですか?」

 見通しているかのように、浬弥さんはおじさんに言う。

「人を殺してはいませんし、知り合いの刑事はお人好しなので上手く言いくるめられます。死ぬ前に、全ての真実を晒してやりませんか?」

 ……何気に酷いことを言っている気がするが。

 碕田姉弟の言葉に突き動かされたからなのかどうなのかはわからないが、おじさんは浬弥さんと、知り合いの刑事さんとやらの所に行ってしまった。

 あっけないようにも思える流れに暫し呆けていると。

「ほら、早く起きろ」

 倒れながら呆然としていた僕の腕を麻也がいきなり引っ張った。

「痛い痛い痛い!!」

「叫ぶ元気があれば大丈夫だな」

 ほら、と麻也はおじさんに取られたはずの僕の携帯電話を渡してきた。

 無言で携帯電話を受け取る。

 言い返すことは僕にはできない。なにしろ本物の怪我人が目の前にいるのだから。

 しかし全身痛いものは痛い。

「それくらいで済んだのはオレのおかげだぞ?」

 隼基が言う。

「何せ兄貴とオレを襲って、しかもオレの腕折ったんだぞあのバット。ヒビ入ってただろうから、柄斗を殴った時衝撃で折れたんだな」

 昔は僕のことを『あっきー』と呼んでいた隼基だが、今は普通の呼び方をしていた。

「なるほどね」

 僕は納得して頷く。

 でなければ、僕は今頃こうして話してはいないだろう。

「……ところで、何で歳基さんは健秀を突き飛ばしたわけ?」

 気になっていたことを聞いてみた。

 ああ、と麻也はため息を吐いた。

「歳基さんの知り合い、お前見たことあったっけ?」

 言われて思い出すのは赤いシャツを着た誰か。

「……あるようなないような」

「……まあいい。その知り合いってのが、昔の仲間だったらしい」

「仲間?」

「薬やってたってコトだよ」

 隼基が答えた。

「薬……って、法外な方?」

「安全性の高い薬飲んで廃人になるなんて話はあまり聞かないな」

 麻也に突っ込まれた。

「実は兄貴、教免持ってんだよ」

「教免?」

「教員免許」

「ああ……でもそれが何か関係あるの?」

「取ったはいいけど仕事見っからなくて。自棄になって色々夜遊びしまくった時に知り合ったヤツが薬の売人してたんだって。兄貴も手ぇ出しちゃって。まあそれからしばらくして、さっきーの家で募集してた家庭教師に受かったんだけど」

 隼基は、麻也のことはまだ『さっきー』と呼んでいる。

 麻也は言い返さない。が、隼基を無言で睨んでいる。

「金回りが良くなったのをその知り合いにバレちゃったわけだ。で、兄貴は脅された。もし家庭教師が薬に手を出してました、なんて知られたら即刻クビだろ? それだけならまだしも、最悪教免も取り上げられるハメになる」

「で、金を要求されて、現場を目撃した健秀を消そうとした」

「そうゆうこと」

 麻也の言葉に隼基が頷く。

「兄貴って気が弱いからね。逆らえなかったらしいけど、弟のクラスメイトは殺せるとか意味わからないよね」

 僕的には弟が兄の隠していた問題をさらっと暴露してしまうのも意味がわからない。が、気にしたら負けである。

「あれ? でも何でその時突き飛ばして他の人に目撃されなかったの?」

 運転手は、健秀が道路に倒れた直後に轢いたという話を聞いていたが。

「あの道見通し悪かったじゃん。今でもよくあそこで交通事故起こってるし。オレも気になって聞いてみたら、突き飛ばした後普通に逃げたって言ってた」

「……そんなもんなの?」

「運転手も、目の前に飛び出してきた小学生に気を取られてそれどころじゃなかっただろうしね」

「そして墓に向けて謝罪していた所をおじさんが目撃した、と。……何で今日だったんだよ、せめて一日でもずれてたらこんな面倒なことにならなかったのに」

 麻也が愚痴をこぼした。

「仕方ないじゃん。兄貴に墓参りに行くって言ったら自分も行くって言い出したんだから。やなぴー死なせたのが兄貴だってことも、今日初めて知ったんだぞ?」

「何年も耐えて、限界だったのかな」

「さあ? オレは兄貴じゃないからわからないな」

 僕の呟きはあっさりと隼基に切り捨てられてしまった。

「……さて、色々あったが本来の目的を済まそうか」

 隼基の態度に諦めたのか、麻也は言って健秀の――柳原家の墓を見る。




 ――そうして、僕たちはやっと健秀の墓参りを決行した。

次回最終話。

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