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事件の行方-2

「――いい加減にしてください」

 聞き覚えのある声に、僕は閉じていた瞼を開く。黒い影が、おじさんの背後にあった。

 おじさんの腕をつかんだまま言う、その影。

「健秀の仇を取って、代わりにあなたが捕まる気ですか」

「……君は……」

「碕田麻也です」

 おじさんに見えるように身体を移動させ、麻也は言う。

「お久しぶりです、おじさん」

「……早かったね。もう少し時間がかかると思っていたんだが」

「中濱隼基から連絡をもらい、こいつに連絡を取ろうとしました」

 そこで僕を指さす。

「しかし電話に出ない。中濱から、健秀の墓に行くと言っていたと聞いて、姉さんに連れて来てもらったんですよ」

 麻也はおじさんの腕からバットを奪い、遠くへ投げ捨てた。

「もう凶器はありません。僕は元より、こいつも訴えることはしないでしょう。中濱からも同意を得ています」

 ――もう、やめましょう。

 静かに言う麻也だったが、おじさんは距離を空けて対峙する。

「やはり君は違うんだな」

 おじさんは首を振る。

「君は幸せな人間だ。だからそんな風に言えるんだよ」

「……幸せな人間は、家出をしようなんて言いませんよ」

「……家出なんて話をしなければ、健秀は死ななかった」

 それは、どうだろう。

 家出の件がなくても、同じ状況になった場合、健秀は死んでいたかもしれない。……どちらにせよ、今更な話だと僕は思う。

「否定はしません」

 麻也はおじさんの非難を素直に受け止めた。

「そんな君が、私を止めようとするのか」

 言いながら、おじさんは麻也から一歩離れた。

「君に止められる筋合いはない」

「僕にはあります」

 言いながら、麻也はおじさんに向かい一歩踏み出す。

「原因は僕にあります。だから、僕はあなたを止めなければならない」

「余計なお世話だ」

 また一歩、おじさんは離れる。

「そうですか?」

 また一歩、麻也が近付く。

「それでも、僕はあなたにこれ以上罪を犯させる訳にはいかないんです」

「何故そこまでして私にこだわる」

「健秀のためです」

 そこで二人は足を止めた。

「健秀……」

「僕は健秀から聞いていました。おばさんの身体が弱いことを。それで健秀はおばさんにもおじさんにも心配をかけないようにしていたことを。でもその影でストレスを溜め続けていたことを」

 ……僕は知らなかった。

 心配をかけないように、両親に褒められるように頑張って。

 怒られてしまうけど、他に発散方法がなくてケンカをして。

 オレは他のヤツとは違う、という健秀の口癖。

 確かに、健秀の元気さは、僕には持ち得ないものだった。

 しかし本当は、そういうことだったのか。

 ……健秀は、何があっても僕を見捨てず、仲良くしてくれていた。

 嬉しかった。

 ――今になって気付いた。

 彼に憧れていたことを。

「だから僕は健秀に家出の話をしました。最初から日帰りにするつもりで。健秀の性格から親には事前に説明するだろうと思ったから」

 だけど、と麻也は言う。

「余計な人間にまで知られてしまった」

 中濱兄弟のことだろう。……あと、麻也のお姉さんと。

「歳基さんは家出を止めさせようとしたんでしょう。でも、僕とこいつは先に何処かへ行ってしまった。追いかけようとしても、姉さんの荷物があったために追いかけられなかった。その後、部活が終わって図書館に向かおうとしている健秀と、歳基さんは会ってしまった」

 それが、交通事故にまで発展してしまったのか。

 あの時、自分が言い出したことが原因で健秀が事故に遭ったことに気付き、麻也は動揺したのだろう。

「何か言い合いにでもなったんでしょうね。健秀は楽しみにしてましたから。そこで衝動的に、歳基さんは健秀を突き飛ばしてしまった。そして、その拍子に自転車に足を取られ、道路に転んでしまい、そこに――」

「――もういい!!」

 おじさんは叫んだ。

「だからどうしたというんだ!! 健秀が死んだことに変わりはない!!」

「確かに変わりはありません。『変わりがない』んですよ、おじさん」

 麻也はおじさんの言葉を繰り返して言う。

「歳基さんを殺しても殺さなくても、健秀は生き返りません。……だから殺していいはずがない、とは言いませんが」

「……だったら君は何が言いたいんだ」

「これ以上、健秀の大切な人を死なせたくはありません」

「健秀の、大切な人……?」

「大切にしていた母親が亡くなって、さらに父親が友人の兄を殺し、逮捕されてしまったら。あなたがいなくて、誰がこの墓を守るんですか」

 麻也は柳原家の墓に触れる。

「僕たちは友人でしかありません。一番近い身内、家族がそんな状態では、健秀が、そしておばさんが悲しみますよ」

「…………」

「もう一度、考え直してもらえませんか」

「……そんなことをして何になる」

「少なくとも、時間を置くことで冷静に判断ができるかと」

「時間稼ぎにしか聞こえんな」

「そうですか……。でも僕たちは、おじさんの敵ではありません。むしろ力になりたいと思っているんですよ。――ねえ、姉さん」

「もちろん」

 返事はおじさんの背後から聞こえた。

 おじさんが振り返ると、その人の姿が僕の視界にも入ってきた。

 ――浬弥さんのスーツ姿を初めて見たが、あまり似合うとは言い難かった。

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