死を誘う歌
この作品を閲覧後、あなたの精神になんらかの異常を来たしたとしても、当方は一切責任を負いかねます。ご了承ください。
部活が始まる少し前の弛緩しきった俺達に、一瞬の緊張が走った。それは以前から噂で耳にしていた話だった。都市伝説の類だと、俺も新城もそう思っていた。
『聞く者を死へと誘う歌』
高宮が持って来たMP3プレイヤーに、今その曲が入っているという。
「またまたぁ、高みゃーはどうせ俺達を担ごうとしてるんだろ」
新城は、全く相手にしない素振りと、にやけ笑いで、高宮に言い放った。
「ああ、俺も最初はそう思った。だが聞いて戦慄したよ。俺も一瞬死にたくなったんだ、危ないところだったよ。まあ無理に聞けとは言わないさ、でもこいつは間違いなく本物だぜ」
何処で落としてきたのやら、プレイヤーの液晶表示には『曲:暗い過去 アーティスト:不明』という名前が表示されている。
「じゃあ俺が聞いてみるよ!」
新城は好奇心旺盛な眼差しで、高宮からPM3プレイヤーのヘッドフォンを奪い取り、鼻歌交じりに耳に宛がった。
「新城、やばくなったらヘッドフォンはずせよ。じゃあいくぜ」
高宮は神妙な面持ちで、プレイボタンを押した。
前奏が奏でられ始めたのか、曲に乗って新城が首を振り、軽快なノリを見せる。だが暫くして、そのコミカルな動きも止み、新城はまるで曲の歌詞を噛み締めるように目を閉じ、耳を済ませた。
次第に明らかな変化を見せる、彼の挙動。眉間に皺が寄り、拳は握り締められ、そして時折何かを振り払う様に、首を左右に振る。
それから三分半程たった頃だろうか、新城はかっと目を見開き、声を上げてヘッドフォンを耳からはずした。
「やっべぇ! 軽く死にたくなった」
冗談かと思えたその第一声。だが、新城は真顔で、大きな深呼吸を一つ吐き出す。それはまるで、悪夢から開放されたようだった。
「これってさ、マジやばいわ。お前だったら狂ったように叫びだすんじゃねぇか?」
意外と思える答えだった。真面目な顔で俺に話しかける新城は、ヘッドフォンを渡す手を躊躇っている。確かに俺は、意外とそう言うのを信じ込んでしまうタイプかもしれない。だがそんな非科学的な噂を信じ込む程、馬鹿じゃないさ。
「あぁ、お前にはこの曲、マジでだめかもしれんな。辞めとけ、聞くの」
高宮までが俺に曲を聴く事を控えるよう促してきた。だがそこまでいわれたら流石に気になる。俺は少々怖気づきながらも、勇気を振り絞って、新城の手元からヘッドフォンを借り受け、耳に宛がった。
「じゃあいくぞ、耐えられなくなったらいつでもヘッドフォンはずせよ」
高宮は言葉とは裏腹に、躊躇いなくプレイボタンを押す。
美しくも悲しげなピアノの前奏が始まり、そして若いであろう女性が清らかな歌声で、その歌詞を歌い上げた。
彼方はまだ覚えているでしょうか? 遠い昔にしまいこんだ記憶。
まだ残しているでしょうか? その自分だけの秘密の記憶。
それは小説? 漫画だったかしら? 神と悪魔のハーフである主人公、銀色の髪のオッドアイ。
その力は封印されているけれど、彼女を守るため、開放されるのね。
名前にも工夫を凝らしていたわ、「久遠」と「刹那」必ず入れていた。
「京と凶」は二重人格、必殺技には「斬・絶・轟」を忘れない、
そう、彼方の名前は「紫苑」
*ファイナル・ディスティニー・ジェノサイド…… ファイナル・ディスティニー・ジェノサイド……
あの呪文を唱える前の口上、今でも忘れないわ……
「我は生と死の申し子にして光と闇の末裔、我、クラウドの名の下に、古の魂よ、その力の開放を促し給え」
そうよ、彼方の感性は誰にも真似できない。そしてそれは封印された過去……。
*くり返し
「うぁああああああああ!! やめてくれぇー!」
俺の叫びは、昼下がりの漫画研究部の部室に響き渡り、同時に足元から崩れ落ちた。
まだ一番しか聞いていなかったけれど、その噂の歌は本物だった。
それは過去にある病に冒された者のみに与えられる、死の呪文なのかもしれない。
俺は今日、早速帰ってあのノートを燃やそう、そう決心した。
俺の処女作である、あのマンガの書かれたノートを……。




