表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/24

幕間 ―追憶―  *3*

 幕間 ―追憶―  *3*


 3


 後に、「第一次攻略作戦」と呼ばれた、『船狩り』は、我々人類に甚大な被害を与えたものの、一定の成果を得られた。

 すなわち、あのぬらぬらと光る、化け物――キマイラ共は銃器でどうにか駆除できるということが判明した。

 奴らの『船』そのものには、銃弾の一発も当てることはできなかったが、キマイラは短銃ではどうにもならないが、機関銃のような掃射性の高い武器で、腹部を狙えば簡単に倒すことができた。

 途中弾薬が尽きたため、あえなく撤退を余儀なくされたが、場合によっては『船』を一気に、壊滅させることができたかもしれない。

 アメリカ軍は、意気揚々と、率先して「第二次攻略作戦」に突入した。

 その異常なまでの、連戦の意図はあわよくば『船』の技術を独占しようという意思があけすけに見えていた。

だが、「かの『船』に侵され、危機に瀕するは我が領土、我が国民である」という、当時のアメリカの言い分は道理に則ったものだった。

かくして、「第二次攻略作戦」は、即時開戦となったが、結果は――まあ、諸君の想像する通り惨憺(さんたん)たるものだった。


 理由としては、単純なものだった。


 「第一次攻略作戦」のデータをもとに、装備を整えたアメリカ軍だったが、すでに既存の兵器は、キマイラ達に通用しなかった。

 キマイラはすでに、その皮膚を『今』のキマイラと似た、鉄とコンクリートを混ぜたような硬質な皮膚に変化させており、その硬い皮膚は、次々と打ち込まれる銃弾をものともせず、ただ小さな火花をうむだけだった。

 前回の約十倍はある、三百人もの部隊を率いたのにも関わらず、ほとんど機関銃の弾は効かず、防護服は突き破られ、次々と荒地に人が倒れ、ある者はキマイラの餌となり、辛うじて生き延びた者も、ウィルスにやられ融けて消えた。

 ただし、もちろん軍隊が用意したものは機関銃のような「軽装」だけではない。

 数十両からなる、戦車部隊を率い、『船』に向かって、次々と戦車砲を発射。

 前回同様に、キマイラ達がその身を盾にして、戦車砲を防ぐものの、今度は面白いようにキマイラ達を散らしていった。

 ――これなら、船に我々の牙が届く!

 やがて、キマイラの発生よりも、減少数の方が多くなり、アメリカ軍は必勝を意識したと言う。

 だが、そこで新たな危機が訪れた。


 いわゆる、『大型』が現れたのである。


 記録上でも、初めて『大型』が現れたのは、間違いなく、この「第二次攻略作戦」の時だったため、今の若者達が『大型』に苦慮させられている原因は、遠からずこの無計画な特攻によるものだと言わざるを得ない。

 今までのキマイラが、そのベースとなる動物のサイズとほぼ同じサイズであったが、『大型』はその全てがスケールアップしたものだった。

 皮膚は厚く、四肢は太く、筋骨逞しい。

 その牙を振るえば戦車は紙くずのように砕かれ、翼を羽ばたかせれば、人が宙を飛んだ。

 幸い、図体が大きくなるにつれて、スピードは落ちるらしく、戦車砲で狙い撃ちするのは簡単だったが、一体を倒すために戦車数台の戦力を要し、戦況はやがて消耗戦の呈をなした。

 もちろん、『船』を狙えば、キマイラ達が次々と盾となり、自滅していくので、アメリカ軍の戦力も急速に落ちたわけではなかった。

 だが、もちろん弾薬には限りがある。

 やむなく、隊長格が撤退を決意した時、初めてその異変に気づいた。

 各部隊は、大隊、中隊、小隊にわかれ、各隊には必ず通信兵がいる。

 にも関わらず、どこからも通信が入ってこないのだ。

「総員撤退!総員撤退!」

 本部通信兵が、撤退支持をがなりだてているが、撤退の気配を見せるのは後方にいた戦車部隊のみ。

 前線を死守している歩兵部隊が、引く様子がない。

「だめです!通信が届きません!」

 気がつけば、ホワイトハウスとの通信も途絶えている。

 この混乱は、すぐに全軍に伝播した。

 

 情報は、古今東西を問わず戦の(かなめ)である。


 情報統制の取れなくなった軍隊は脆かった。

 波潮が引くように、仲間達が倒れ、その間を大型、小型を問わずキマイラの群れが駆け抜ける。

 結局、作戦本部は前線の兵士を見捨て、命からがら逃げ帰った。



 ◇


 バージニア州にあるペンタゴンに逃げ帰った「第二次攻略作戦」部隊は、陸戦での無謀さを力説した。

 そして、陸戦による「制圧」を断念し、弾道ミサイルのような戦略兵器による「殲滅」へ作戦を切り替えた。

 この「殲滅戦」が「第三次攻略作戦」と呼ばれることは無かった。

 なぜなら、全てのミサイルが打たれることはなかったからだ。

 今まで、『船』の防衛に甘んじていた、キマイラ達がアメリカ国土全域に出没するようになったのだ。

 中でも、ペンタゴンを初めとする、あらゆる軍事施設が優先的に襲われた上、キマイラの群れ、特に大型キマイラが出現すると通信の類が阻害されたため、瞬く間にアメリカの有するほぼ全ての戦力が無効化された。

 併せて、『船』周辺でしか見られなかった、変死症状――「キマイラ・ウィルス」もアメリカ国土全域で発生し、それら合算での死者数は八千万人にも及んだ。

 

 結局、この「第二次攻略作戦」からアメリカ軍は一つの結論を出し、作戦の主導権を放棄。

 以後の作戦に係る全ての権利を、国連軍に譲渡したばかりか、アメリカ国民の保護を依頼することになった。

 このニュースは世界中に、衝撃を持って迎えられた。

 「世界の警察」を名乗る、プライドの高いアメリカがほぼ一週間で戦闘を放棄したばかりか、自国内の問題解決さえ国連に丸投げしたことは、事実上の完全敗北宣言だった。

 これは、すなわち、世界中のどこの国でも、かの『船』を堕とすことは出来ないことを意味する。

 しかし、逆に言えば『船』を攻略した国には、その技術による恩恵が受けられるばかりか、世界中に「最強」の名を売ることができるようになる。

 多少無茶な作戦をしても、傷つくのはアメリカの国土のみ。 

 そのため、国連安保理の静止を聞かず、「第三次~第五次攻略作戦」はばらばらの国が、ばらばらのタイミングで行われた。

 (特に共産圏の国々は、眼の色を変えてこの作戦に飛びついたらしい)


 「第五次攻略作戦」に至ってはついに、核ミサイルさえ導入されたが、結局いずれの国々も『船』を攻略することは適わなかった。

 そればかりか、彼らの自国内にキマイラと、キマイラ・ウィルスを呼び込む結果となり、その混乱の火種は世界中へと散らばることになった。


 だが、我々人類の本当の悲劇は、ここでやっとスタートラインを切ったばかりだ。

次回から第二章に入ります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ