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第一章 ―「外」の子供達― *4*

 第一章 ―「外」の子供達― *4*


 4


 ──ウウウウゥゥゥ、ウウウウゥゥゥ……

 カナタが傭兵達の宿舎に戻り、自室に入った途端に、けたたましくサイレンが鳴り響いた。

 大型キマイラ襲来を告げるサイレンだった。

「まさか……、二回目かっ!?」

 キマイラが、いつ襲来してくるかは誰にもわからない。

 遠距離電波通信が機能しないため、肉眼での監視が精一杯だ。

 しかし、最近では多くても二日に一回、大型なら週一どころか、月に一度も現れない時もある。(大型が現れる前後は、小型が現れなくなるという説もある。大型キマイラが小型タイプを食い尽くすためだ)

 それが、今日は珍しく二体もの大型キマイラを駆除したところだ。

 ──完全に油断していたっ!

 カナタは、唇を噛み、自らの心の隙を戒めたが、それでキマイラが立ち去ってくれるわけではない。

 慌てて、脱ぎかけの戦闘衣を付け直し、廊下に飛び出す。

「カナタッ!」

 そこで、先程聞いたばかりの声を再び聞いた。

「アユミかっ!」

 二人とも、すでに全力疾走の構えにある。

 ギガンテス操縦者以前に、一人前の戦士でもある彼ら二人が並んで走るため、宿舎の狭い廊下に嵐が吹き荒れる。

「情報は?!」

 アユミが走りながら──しかし息は乱さず──カナタに訊ねた。

「今、ユビキタス通信で送られてくる」

「じれったいわね!」

「仕方が無い。無線による直接通信よりは確実だ」

 そして、すぐにカナタの携帯端末が赤と緑に交互に点灯する。

「出たぞ……!だ、だけど……なんだこれ!?くっそ、信じられない!」

「ちょ、ちょっとカナタ!これ。本当なの!?」

「司令部が、嘘の情報を流すはずがないだろう!」

 二人は同時に通信端末で、情報をキャッチ。

 しかし、その情報は端末の小さな画面で、見ただけでは、安易に信用できるものではなかった。

 そのまま走り続け、二人は、ものの五分もせずに中央区を抜け、アンドウのラボもある発令所に舞い戻った。

「カナタ。それにアユミもか」

 ギガンテスの待機所には、同じ操縦者であるイチロウとウララが待ち受けていた。

 イチロウは、カナタよりも背が高く、ひょろりとした慎重にも全身に無駄なく筋肉が詰め込まれているのがわかる。

 ウララは、アユミよりも体が小さいが、やや髪が長い。今は、その髪は戦闘時用に横に二本にまとめられていた。

 二人ともすでに、戦闘衣を着込み、片手にヘルメットを抱えている。

「イチロウさん!これ本当なの!?」

「アユミ、落ち着け。本当らしい。観測所からの連絡では、全長80メートルクラスの巨大型が確認された。幸い、巨体だけに速度は遅く、時速にして約20キロメートル程度。ここまで来るまで、後8分以上はかかる」

 ──エマージェンシー、エマージェンシー。警戒レベルⅡが発令されました。警戒レベルⅡが発令されました。民間人は、第三層以下に退避して下さい。民間人は、第三層以下に非難して下さい。繰り返します……

 イチロウの言葉を後押しするように、基地内に警報が流れる。

 『第三階層以下に潜れ』ということは、そこまでの部分が壊れる可能性があるということだ。

 しかし──

「重要な機関のいくつかは、地表部に近い部分にある。絶対にここを壊されるわけにはいかん」

「わかってる!だからすぐに出撃を!」

「カナタも落ち着け!お前達はついさっき出撃したばかりで、ギガンテスのメンテナンスが終わっていない。例の巨大型キマイラは俺とウララにまかせろ」

「しかしっ……!」

「今回は、更に最悪なことに、小型タイプも、かなりの数がその巨大型に随行しているらしい。お前達はそっちの応援に回ってくれ」

 カナタはイチロウの意思が固いのを見て取ると、イチロウの後ろに無言で控えていたウララに救いを求めた。

 だが、ウララはその小さな手でブイ・サインを、カナタとアユミに見せていた。

「カナタ、アユミ。ウララ達、信じろ」

「ウララちゃん……」

 アユミが、泣きそうな顔で、自分よりも一回り小さいウララを抱きしめた。

「カナタ、いつも言っていることだが……」

「イチロウ!今は、その話は聞きたくない!」

「いいから聞け!カナタ……俺が死んだら、お前が若手のリーダーだ。俺達にはもう守るべき家族はいないが、この中にはまだ家族がいる人達がいる。そして、俺達が守るべき仲間がいる。いいか、復讐のためだけに戦うな。守るべきものを見つけるんだ……!」

「俺には。俺にはリーダーなんて無理だ」

「……俺はこの作戦にギガンテス用のサーモバリック爆弾を持っていく。最悪刺し違えてでも奴を止めるつもりだ」

「イチロウ!」

「イチロウさんっ!」

 カナタとアユミの悲壮な表情とは裏腹に、イチロウの表情は明るかった。

 それが、殊更に二人を不安にさせる。

 しかし、イチロウはそんな二人にこれ以上言葉を重ねることなく、自分のギガンテスへと駆けていった。

「大丈夫。ウララ、イチロウ、爆弾、使わせない」

「ウララ……気をつけて」

 そして、ウララもすぐにイチロウの後を追い、彼女自身のギガンテスへと向かった。


 ◇


「アンドウ……!」

「カナタ、それにアユミか。早かったな」

 カナタとアユミのギガンテスの前に、アンドウが例の白衣にサングラス姿で立っていた。

 しかし、その表情はいつもの軽薄なものではなく、真剣そのものの顔をしている。

 そのアンドウの顔を見て、二人は尚更に今の異常事態を強く実感させられた。

「全長80メートルのキマイラだ。恐らく過去最大だろう。世界中探しても例が無いかもしれん。あの『第六次攻略作戦』で現れた異常キマイラでも、ここまでのサイズは無かった」

「いや、そんなことより、俺のギガンテスのメンテナンスはどうなってる!?」

「わ、私のも!」

「わーってるだろ。うちの連中が一生懸命作業中だが、最低でも『エキス』の注入だけはやらなきゃならん。どう見積もっても後10分はかかる」

 ──10分。

 例の巨大型が到達するまで、先程イチロウは8分程度と言っていた。

 つまり、メンテナンスが終わり、ギガンテスに乗り込み、出撃用のエレベータに乗って地上に出ることを考えれば、イチロウとウララはたった二人で、その巨大なキマイラと3分以上戦わなければならない計算になる。

 3分は長すぎる。人が戦闘で死ぬには、お釣りが出ても、まだ余る程の時間だ。

「くっそ……!」

「カナタ。落ち込んでいる時間はないぞ。もう聞いたかもしれが、今回は小型キマイラが随行している。それもかなりの数だ。それらも駆除しにゃあならんが、人手が足りん。手伝え。もちろんアユミもな」

「あ、ああ……」

「わかりました!」

「装備は、A装備を用意している。受け取っていけ」

 カナタは、自分の赤いギガンテスを見つめた。

 大きなパイプや、機器類を操作するため、たくさんの男達が慌てふためきながら仕事をしている。

 当然だ。ここはかなり地表に近い。

 何かあった時、真っ先に死ぬのはここにいる連中だろう。

 ──俺には、ここで出来る事は何も無い。

 ──俺の居場所は、やっぱり戦場にしかないんだ。ごめん、イチロウ。俺はやっぱり只の復讐者リベンジャーだよ。

 カナタは、覚悟を決め、大きく息を吸った。

「行くぞ、アユミ」

「もちろん!」

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