第三章 ―神無き祈りを捧げて― *6*
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第三章 ―神無き祈りを捧げて― *6*
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敷地面積の限られた、『内』では、無駄な面積は一切無い。
アンドウが呼びだされた、軍、政府関係者の集まる会議室でも、必要な広さしか無く、その狭いスペースに厳しい顔つきをした男達がずらりと並ぶと、尚のこと暑苦しい。
「シンドウ三兄弟は結局失敗作だった」
その、並んだ顔の中で、最も厳しく、最も皺の深い老人の一人が、ため息を吐きながら言った。
「はっ」
アンドウは、軍人のように「気を付け」をしてみたものの、本物の軍人ではないため、肩や腰に強いストレスを感じた。
「アンドウ君の研究するあのオモチャに、我々がどれだけの資材を投資したと思っているのだね!」
別な男が、顔を真っ赤に染め怒声を上げている。
他の面子も、その男に賛同し、口々に好き勝手に文句を言っていた。
「しかし、シンドウ三兄弟は戦力として問題はありませんでした」
「だが、彼らはその精神性に問題があった。君の忌むべきキマイラを改造した『アレ』に乗るものは、我々にとって便利な道具でなければならない」
――彼らを道具だと考えたことが、そもそもの失敗なのではないか。
アンドウは、喉まで出た文句を必死に飲み込んだ。
事実、シンドウ三兄弟は素晴らしい戦果を出していた。
彼の改造キマイラにも素早く適応し、中型のキマイラであれば、彼らだけでも駆除できるレベルにさえ到達していた。
だが、その優秀さが彼らの寿命を縮めることになった。
一部政府関係者に、彼らの造反を危惧する声が上がったためだ。
もっとも、その造反を心配する根拠は、ほとんどが感情的な理由で論拠に乏しかったが、その「反対派」はこの東京でも有力な議員の一人だった。
そのため、なし崩し的に、アヤカ・カイ・メイの三人の排除が決められ、折り良く現れた大型キマイラと併せて「退治」することとなった。
しかし、いざ大型キマイラが現れたとき、想定外の事態が発生してしまった。
正体不明の改造キマイラが二体も現れたのだ。
しかも、まだアンドウ達でも実戦投入していない「改造キマイラ専用武器」を使用していた。
そのため、大型キマイラと三兄弟のうちの一体を殺しただけで、他の二人には逃げられてしまった。
結局、この『東京』という壁で覆われた街は、キマイラ以外の脅威を『外』に持ったことになる。
あの外国から送られてきたテログループと思われる、二体の改造キマイラは、間違いなくアヤカとカイを扇動し、『壁』を打ち壊しにかかるだろう。
「我々には、新たな戦力が必要だ」
最初に発言をした、皺の深い老人が呟くように言った。
「はっ。現在新たに大型キマイラ用の地雷の開発と、中型用の改良RPG導入を進めております」
「それも結局は物量兵器か」
「はぁ……」
「やはり、アンドウ君。君の造ったような改造キマイラは、これからも無限に湧き出るキマイラを退治する上で必須のアイテムだ。『壁』に追い込まれた我々の資源は乏しい。可能な限り物量兵器以外でキマイラを追い返す手段が必要なのだ」
「しかし、それは……」
アンドウを叱責した男が、うろたえた。
彼は、アンドウの実績が疎ましかったのだ。
「当面は『外』の基地に比重をかけるしか無いでしょう」
「なに?『外』の傭兵共が役に立つというのかね?」
老人の一人が、訝しげな顔で言った。
――その傭兵達の命のおかげで、我々は生き残っているのだ。
アンドウの不満は外に漏らさず、代わりに一つの提言を述べた。
「はい。『外』には私の息子がおります。あいつなら、間違いなく私同様の改造キマイラを造ることが可能でしょう。今後の実験は『内』の負担を減らすため、『外』へシフトさせます」
アンドウの案は、表面的には、今回のように「造反」が発生しても、『外』なら躊躇無くミサイルを撃つことができることを意味する。
だが、実際的には『外』に『力』を与えることだ。
――これで、我々のために命を張っている『彼ら』の地位は少しでも向上することになる。
「だが、全ての戦力を『外』へ移すことは別なリスクを生む。『内』での開発は縮小しても、停止するわけにはいかん」
しかし、アンドウの自己満足的な安心は、皺の深い老人の発言で打ち砕かれた。
「はっ……しかし、我々にはもう改造キマイラに搭乗できる『人材』がおりません」
「いや、君のところに一人いるだろう?」
赤ら顔の男が、笑いをこらえるような顔で言った。
そして、それは、アンドウが最も恐れていた意見だった。
「それは……ケイナのことでしょうか?あの子は、養子とは言え、紛れも無く私の子供です。シンドウ三兄弟のように戦闘訓練をさせてきたわけでもありません」
「戦闘訓練は不要だ。いざとなった時に手強い『敵』を作るだけだ」
老人は続けて言った。
「君は引き続き、改造キマイラの開発を続けたまえ。君の娘、ケイナには睡眠学習を利用して無意識下で操作方法のシミュレーション訓練を実施。戦闘訓練は不要だ」
「しかし……!」
「アンドウ君。我々に甘えは許されない。いいね」
「……はっ」
アンドウは、口の中に鉄の味を感じた。
どうやら、唇の端を噛み切っていたようだ。
――いいだろう。あの子のために、最強のものを仕上げてやる。
例え、この都市を破壊してもあの子が生き延びられるように。




