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幕間 ―追憶―  *1*

   幕間 ―追憶― *1*


 1


 我々の現状が、そしてあの事件の終わりはどこまでも先が見えないが、始まりは明確に思い出せる。

 あれは、私が十五歳の時だった。今ではすでに三十路も越え、すっかりおっさんらしくなってしまったが、あの頃の私は、自分がこんなおっさんになると想像していただろうか。

 いや、ないだろう。

 そして、世界中の誰もが、決して、あんな事を想像できるはずがない。

 全ては後になってから、色々なメディアを通して伝え聞いた話なので、どこまでが本当の話なのかはわからない。

 そもそもの事の発端──と言うか、物語の開始は、十五年以上前、アメリカの航空宇宙局の観測所職員が気づいた違和感からだったと言う。


 曰く、それは、観測していた彗星の位置が、どんどんとコンピュータの予想からずれて地球に近寄ってきていた事だった。


 それだけなら、大した問題ではなかった。

 例え、予想の誤差が120%(!?)ずれたとしても地球にはかすりもしないし、他の重要な天体に当たるとは思えなかった。

 当たり前だ。

 宇宙は広い。

 そうそう簡単にメテオ・インパクトが起きるなら、地球はとうの昔に滅びている。

 だから、その職員も首をわずかに傾げた他、特段に上に報告もせず、何となく注意していただけだったらしい。

 しかし、その数時間後。

 その彗星は、そのまま地球を通り過ぎるコースに無事入るはずだった。


 始めその職員は、まず自分の眼を疑った。

 しかし、どう見ても彼の面前の機器は、一つの事実を示している。


 つまり、彗星が、地球へ向かって直角に曲がってきたという事を。


 それこそ野球のフォークボールよろしく、急滑降に曲がった彗星は、地球への直撃コースに入った。

 しかも、コンピュータ画面上では、隕石(もはや彗星とは呼べまい)がアメリカ大陸に直撃することを示している。

 その職員が慌てふためいて、上司にこの異常事態(もしくは自分の頭が狂ったことを)報告しようとしたところ、さすがに近代的な機器をそろえた航空宇宙局だけあり、AIがすでに自動で危機管理システムを起動。

 たった二名の上司が「承認」ボタンを押すだけで、この緊急事態はすぐにホワイトハウスへ送られた。

 当時の政府は、この情報を送られても何もできなかったと言う。

 しかし、誰が彼らを攻めるこができるだろうか。

 時間にしてわずか1時間弱で、巨大隕石がアメリカ大陸の五大湖周辺ウィスコンシン州とミネソタの間に落下してくる(1秒単位で正確な落下予測地が示された。10分もしない内に誰の家の真上かまで解るだろう)ことを伝えられても、もはや誰にもどうしようもできなかった。

 被害予測では、現在のスピードのまま巨大隕石が衝突すれば、地表は熱でプラズマ化し巨大なキノコ雲が連続発生。土砂の津波が東はニューヨーク、西はアイダホまで押し寄せ、打ち上げられた土砂は大気圏まで到達し、アメリカ大陸を中心とした半径十〜十三百万キロは数ヶ月闇に覆われる。

 もちろん、それだけではなく、地球の位置も五百メートル以上は確実にずれ、生態系に多大な影響を及ぼすばかりか、再度氷河期が訪れる可能性すらある。

 まさに、陳腐で安物のB級映画のような、人類滅亡のストーリーが一瞬で組み立てられたと言う。

 この時、当時のアメリカ政府が唯一行った英断がある。

 国営、民営、テレビ、ラジオを問わず、全てのメディアでこの隕石の情報を伝え、最後にアメリカ大統領自らテレビの前面に出て、こう述べたと言う。

「愛すべき国民の皆さん。我々は無力でした。そして神もまた無力でした。しかし、せめて最後の瞬間をあなたの神に祈ってください。可能な限り、あなたの愛する人のそばへ行き、一緒に祈ってください」

 このメッセージが、あれから十五年過ぎた今の私の時代へも影響を及ぼしているが、それは今のストーリーとは関係ないので割愛しよう。

 そして、もちろんメッセージの影響はその当時の人々への影響の方が大きかった。

 最初、人々は何の冗談かと思ったようだが、繰り返し繰り返しテレビやラジオで流される隕石情報で、徐々に現実味を帯び、すぐにそれはパニックとなる。

 全てをあきらめ、大統領の言う通りただ祈るだけの人も、想像以上に多かったようだが、人の群れで電車は止まり、自動車事故も多発。空港でも無理矢理飛行機を離陸させようとする人で暴動になった。

 街では人が店を襲い、わずかでも地下に潜ろうと大きな建物に人波が殺到。

 例を挙げればきりが無く、このパニックで発生した死傷者の数も数え切れないものになった。

 しかし、あと十分で衝突するという時、航空宇宙局の職員のみならず、地球中(この時にはすでに地球中で大体的にニュースに取り上げられていた)の人間が我が眼を疑った。

 衝突すると言う隕石の写真は、どう見ても「隕石」ではなかったのだ。

 最初は表面を岩でコーティングしていたようだが、大気圏突入時に表面の岩が剥げ落ち、中からシルバーの卵状の丸い物体が出てきたのだ。

 誰もが、CGによるトリック映像だと思い、ホワイトハウス、航空宇宙局のみならぬあらゆる公共機関、放送局に「これは何の冗談だ!?」というクレームの電話が殺到したという。

 だが、銀色をした卵状の物体は、着実に高度を落とし続け、大気圏を抜けたところで、地表にクレーターができるほどの強力なエアーを発し、落下スピードを急激に落とした。


 そして、その物体は地球へ降りた。

 スピードは、当初予想よりも98%以上削減され、小さなキノコ雲一つと、巨大な地震(震度9程度)が起きたぐらいで済んだ。

 しかし、これが我々にとって良かった事なのかはわからない。

 「今」を生きる我々から言わせてもらえば、まだ本物の隕石の方が「まし」だったように、正に今更ながらに思う。

 もちろん、当時の人々にとっては、これは神にもなしえなかった「奇跡」だった。

 だからこそ、ほとんどの人が、その銀色の物体に好奇心こそ抱いても、危機感を持てなかっただろう。 


 本当に、無念でならない。

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