1章-6
ウルブランド北方 アケア村近郊
勇者レオこと藤浪トモは、また念話に集中していた。
王都ウルブルネでは東の方に感じた東雲マユの気配は、ここでは東南に感じる。
「三角測量が使えるかな?」
レオは地図を取り出すと、王都から東へ線を引き、この村の場所から東南へ線を引いた。
二つの線は、ウルブランド東の高原地帯--通称ハイランド--で交差する。
「ハイランドか……」
レオは再び念話に集中した。
今度は、クレハの中の人水上チカにである。
(応答せよ。応答せよ。クレハさんの中の人……)
(はい。はい。こちらはクレハの中の人です。どうぞ)
こんな調子で、念話はすすむ。
この時、すでにクレハはハイランド地方に入っていた。
なぜ、クレハに念話が通じて東雲マユに通じないのか?
(そうですよね。ハイランド地方くらいなら念話の範囲内ですよ)
(たぶん、こちらからの念話は東雲さんまでいってると思うんだけど)
(まあ、その辺は、おいおい調べましょう)
(お願いするよ。それから……)
レオは少し考えてから。
(やっぱり、止めようかなぁ)
(なんです。途中まで話して)
(いや、でも、僕はアノ人苦手だしなぁ)
思い当たることのあるクレハは。
(アウレア様ですか?)
(……ああ……うん。今回もいいよ。アウレアもエルフの事で手一杯だろうし)
(そういって、今までボロ負けでしたよ)
(あう)
もう、仕方が無いなあとクレハ。
(ここまで来たから。私からアウレア様に連絡をつけます)
アウレアはハイランドに住んでいるレオの養い親だ。そして、王を持たないエルフの実質的な指導者である賢者なのだ。
レオは、子供の頃のロクデモない自分を知っていて、レオをいつまでも赤ん坊扱いするアウレアが苦手なのだった。
(じゃあ……その件もよろしく)
(はい、承りました。念話終了します。よろしいか?)
(はい、終了します)
「はぁ~」
深いため息をつくレオだった。
それは、さておき、この地では森エルフたちが人に狩られている。
しかも、教会の先導によってだ。
早急にエルフを保護し、騒動を静めないといけない。
「僕の思いついた手で事態を収められるといいんだけなぁ」
破邪の利剣を持つ手に力がはいるレオであった。