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前章

 勇者レオである、藤浪トモは深いため息をついた。

 確認の為、もう一度、自分の左手を見る。

 勇者レオの左手は透けていた。

 透けた手を通して、破城槌の打撃で崩れようとしている外城壁が見える。

 もう、時間が無い。

 すでに、この世界に留まれる時間は過ぎていた。

 トモと、トモと一緒に来たカズネは、この世界から消える。

 そして、たぶんこの世界……王都ウルブリネが陥落しつつある世界も、消えるだろう。

「今回も、失敗だ」

 トモは、これで何度目だろうか? と自らに問うた。

「8回目ですわ。信じられませんわ」

 サニア姫であるカズネの声が響く。

 サニア姫はウルブスラントの実質的な支配者にして、城崩し姫の二つ名を持つ王位継承者。

 だが彼女の国は、侵略者の手に侵されようとしている。

「私の国が……この『火炎と踊る者』が、8回も負けてしまうまど」

 サニア姫は、王城のバルコニーから民衆に手を振る時のように、その姿勢にはいささかの乱れも無い。だた、身に着けた豪華な真紅のドレスは泥と煤で汚してはいるが。

 姫と勇者が立つのは王都正門城門上に備えられた巨大呪文詠唱支援設備『マズルカ魔法陣台』。

 聖別された一枚岩に幾つもの魔方陣を刻んだウルブリネ最大の攻撃魔法施設だ。

 周囲の大小の魔方陣では、神官や魔術師がそれぞれの呪文を詠唱して魔法を活性化させている。

 サニア姫は中央の魔方陣に立ち、すでに呪文の詠唱を終え、トリガーワードを唱える瞬間を待っていた。

 勇者は姫の後方の魔方陣で魔力の活性化を助けていた。

 彼らが使おうとしているのは範囲攻撃魔法では最高位の『メキド・フレイム』。

 使用には20人近い魔法使いや聖職者による半日の詠唱が必要である。

 だが、メキド・フレイムを使っても、この戦争を終わらせる事はできないだろう。

「もう、時間だ。この呪文を撃ったら、僕らは帰らなくてはならないよ」

 トモとしての勇者レオの言葉に。

「そんな事はわかっています」

 姫の言葉が終わらぬ内に、外城壁は崩れ、破城槌を担いだゴーレム兵の姿が見えた。

「ですが、今はこの一撃に集中なさい!」

 姫の言葉に勇者が首肯する。

「そうだな」

 城崩し姫を中心に、空間が歪み急激に広がった。

「デミ・ヴォル・ゲイン!」

 サニア姫の唇が、トリガーワードを紡ぐ。

 

 その瞬間、藤波トモの意識は王都ウルブルネの上空にあった。

 足元で、閃光が走り。

 雲が乱れ、沸き立ち。

 風が奔り、大地が揺れた。

 数十体の巨大な人型の像が、崩れ、砕け、消し飛ぶ。

 見えないが、それの数百人の敵兵も、消し去られた事だろう。

「それだけ……だな」

 藤波トモは、呻くように呟いた。

 彼の意識は、ムーリアの大地から、どんどんと離れてゆく。

「また、負けちゃったね」

 トモの横には、見えないがカズネの気配があった。

「もう一度、やり直しだな」


 彼らの意識は、トモの母が執筆中であるライトノベル『レオ・ファーブラ』の世界から戻ってきたのだった。


 

 

 

 

長編に挑戦しようと書き始めました。

終わりは……分かりません。


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