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光景-創作五枚会

・創作五枚会第八回(2011年2月19日投稿)

・文字数制限…2000文字

・禁則事項その1…直喩法使用禁止

・禁則事項その2…固有名詞使用禁止

・テーマ…光景

・もちろんフィクションです。

・そんな大した描写はしてないですが、お食事前or中の方は後ほどの方がいいかもです。


「死後二、三週間だって?」


 無機質な色をした控え室に、把握出来ない焦りと理解出来ない不安が入り混じった声が響く。

 一つたりとも難しい言葉はない。下手をすれば子供にだって理解できる言葉ばかりだ。だけどこれらを組み合わた文章を今の状況に添えると、なぜにこうも全く意味が分からなくなるのか。頭の中でただただ疑問だけがぐるぐると回っていた。


「よ、よくわからないんだけど、どうやらシャワーを浴びていて足を滑らしたみたいなの。打ち所が悪かったみたいで、それで……」


 母から次に出てくるはずの言葉が出ない。使い古された黒の待合ソファに座った両親は、声ならぬ声を押し殺しうなだれていた。


「とにかく、ここで待ってって言われたのよ」


 いつだって納得するよりも先に現実はやってくる。

 

 気が付けばドアノブに手を掛けていた。この部屋に居たくないのではない。この場でじっとしていられないだけだ。薄い木製の扉が閉まる音を背に、冷たい色をした廊下へ飛び出した。


†◆†◆†


 警察の正面玄関脇に隠れるように設置された粗末な作りの灰皿のそばで、肺の奥底まで吸い込んだ紫煙を溜息混じりに一気に吐き出す。煙はしばらく宙を彷徨い、やがて灰色の空に溶け込んでいった。

 煙を吐き出した肺だけは妙な満足感に溢れているが、胸は言いようのないもやもやで埋め尽くされている。


「どうだった?」


 人の声が聞こえそちらを振り向くと、白衣を着た背の高い男が、同じく白衣のひげを生やした男に話しかけていた。そばには黒塗り営業ナンバーの寝台車が停まっていた。


「お湯浴びっぱなしだったみたいだな。全身ぶよぶよにふやけて肉が一部そげ落ちている。それに臭いがひどい」

「薄々そうかとは思っていたけどやはりか。では袋を用意してくる」

「ああ。俺はちょっと家族と話してくる」


 逃げても現実は変わらず流れて行く。時よ止まれと何かに祈れば祈るほど時は過ぎている。時の経過から逃げたければ、時のことわりから離れるしかないのだろうか。


†◆†◆†


『え、顔はもう見られないのですか!』

『見られないという訳ではありません。袋はファスナーで開け閉め出来ますので、見る事は出来ます。ただ……言い難いのですが、開けてしまいますと相当に臭います』

『でも、まだ顔を見ていない者もいますし、そ、それに葬儀はどうなるのですか!』

『お亡くなりになられてから日数が経っております。こういった時、まずは火葬をし、お骨にしてから葬儀を行う事が多いです』

『そ、そんな』

『火葬場の予約が取れそうなんです。今なら役所手続きをした後、すぐに火葬する事が出来ますが、一枠しか残っていませんので別の誰かが予約した場合は明明後日以降しか空いていません』

『明明後日!?』

『はい。このような事を今すぐここで決めてくださいというのは大変申し訳なく思います。ですが、状況はあまり考える時間を許してくれません。近隣の、別の火葬場の予約状況も確認しましたが全て埋まっていました。空いているのはもうここだけなんです』

『そんな……』


 扉の向こう、聞こえるのは母親の声と知らない男の声。一服から控え室に戻ると、悲壮な顔をした両親と、胸に葬儀社の名札を着けた白衣の男が向かい合っていた。


「その人の言うようにした方がいいんじゃない? それとも三日後にする?」


 突然入って来たからか、それとも予想外の意見だったか。驚きの表情でこちらを見るがそれも数秒。母は両肩を大きく落とし、大きく、とても大きく息を吐く。


「そうよね。あんな姿で何日もいる方がつらいわね。わかったわ。あなたも最後に会ってやって。私達はもう会ったから」


†◆†◆†


 暗く、軋む廊下を歩く二人。足取りも、壁の色も、纏う空気も、あたりの雰囲気すらも重い。


「今は、どんな状態なのですか?」

「台の上に、何も着ていない状態で安置されています。二週間以上お風呂場にいたそうで臭いも相当あります。誠に申し上げにくいのですが、お体はかなり膨張しており、残念ながら知ってらっしゃる姿とはかなり違うかもしれません。個人的な意見ですが、ご家族の方ならばこそあえて見ないほうが良いかもしれません」


 何も着ていない――

 臭いが相当ある――

 膨張している――


 見ないほうが、良い?


「こちらです。この扉の向こうにご安置しております」


 目の前にあるのはくすんだ色の鉄製のドア。

 頭にぎる。何度も何度も過ぎる。見ない方がいいのではないか。確認は両親がしている。別に無理して見なくてもいいんじゃないのか。

 今なら思い浮かぶのは元気だった妹の顔。声。いつもの日常。だけどこの扉を開けてしまうとこれらは壊れ、崩れ、潰れてしまうのではないのか。

 目の前にあるのはくすんだ色の、日常という名の鉄製のドア。本当にいいのか? この扉を開けていいのか?


「ではお入りください」


 いつだって納得よりも先に現実はやってくる。そして私の目に、銀色の台に寝かされた家族が飛び込んできた。

201102201345:ちょっと修正しました。


光景は風景に比べ、より印象が強い場合に使われる。非日常のワンシーン。


今回のテーマをそう理解して執筆を開始しました。

最後にドーンとインパクトがあれば、それでOKじゃないかと、かえでさんともお話していたのですが、いかがでしょう。


【お願い】

これ以降、私がどういう意図だったかなど色々と書いてます。ご理解の上、読み進めていただけましたら幸いです。


直喩法の禁止はそんなに気になりませんでした。元々多用する方ではなかったのが幸いだったようです。

『黒真珠のような瞳』とか『雪のように白い肌』とか、すごく小説っぽい表現になるので、好きなんですけどね(笑)



それよりも気になったのが『固有名詞の使用禁止』です。

活動報告にも書きましたが、固有名詞とは言い換えれば個体を断定できる言葉なんです。使わないということは個体の断定ができない。


それはつまり想像の余地を生み出します。


例えば東京駅と書けば具体的になります。訪れた事のある方ならその風景を、普段から使ってらっしゃる方ならその雰囲気までも想像されるかと思います。

訪れた事のない方は過去に見た映像や画像などを参考に想像されるでしょう。もしくは全く想像せずに文字だけを読んで次へと進む。

どこにでもありそうな駅を描けば、読み手のみなさんは自分の記憶にある駅を思い浮かべる。

あいまいに、どこにでもある風景を描けば描くほど読み手の皆さんはどんどん身近な風景を思い浮かべてくださる。つまり想像の余地があるわけです。


これが『固有名詞を使わない』という事のメリットではないかと思いました。


最初は出来るだけ登場人物が親なのか、兄なのか書かないようにしていました。ですが試しに読んでもらうとあまりにも意図した内容と読み手の理解が異なったので、母親、両親、妹といった言葉を使いました。それでもまだ誰のセリフかわかりにくいかも知れません。

そんな時は想像をしてもらおうとしたけど失敗したなって思っていてください(笑)


病院で亡くなる以外で不幸にも死んでしまった場合、どうやら基本的に検視、もしくは検死が行われるようです。検死を行う施設や方法は地方により様々らしいので今回書いた内容と知ってらっしゃる内容が違うかもしれませんし、そもそも専門ではないので間違えているかもしれません。どうぞご了承くださいませ。


それでは五枚会に参加されている他の方の作品を読んでまいります。

最後までお付き合いくださった方、本当にありがとうございました。


そうじ たかひろ


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