義理チョコの思い- 義理チョコすぴんおふ
聖騎士さん:義理チョコのキモチ
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godaccelさん:キモチは義理チョコに
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絡屋 烈さん:キモチを込めた義理チョコは
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こんにちは、バレンタイン用チョコです。コードネームはまだありません。
まずは自己紹介ですね。私はミルクチョコ140g、全力生クリーム100cc、コアントロー3g、ココアパウダー10g、金箔0.5gで練成されています。年齢は一日です。ご主人様より昨日新しい姿と使命をいただきました。そして使命を果たす為、ご主人様より様々な武装をいただいています。
私の使命。そう、それは大野竜也を撃墜する事。
ココアパウダーをまぶした生チョコレートの私。まずは基本武装である味です。
ベースは市販の板チョコですが、ご主人様の練成の腕は相当な物。驚くほど上質でクリーミーな味わいの生チョコレートと生まれ変わっているんですよ。
男性の一口に合わせて切り分けられた適度なサイズ。
小さすぎず、かといって大きすぎないこの大きさはこの上なく男性に満足感を与えます。
柔らかさと適度な粘りを持った食感。
板チョコからは想像も出来ないこの食感に、男性は普段味わう事のない高級感を感じるでしょう。
私を包む装甲も単なる飾りではありません。最新の対男性特殊外装です。
赤と白、二色の特殊装甲が折り重なるボディ。これは私の身を護る装備でありながら、男性の眼から脳内へと侵入し、様々な感情を湧き立たせるという攻防一体の精神兵器なのですよ。
それだけではありません。この装甲は目標に破られる事を前提に設計されています。
相手が私に対して開封を仕掛けた場合、一際目立つピンクのリボンと連携し、リボンを解く、特殊装甲を破るという二段階を踏む事により、すぐには開封出来ないという精神攻撃を行うのです。隠密精神兵器【焦】の威力はなかなかのものです。
全ては我が主の為に。
†◆†◆†
さて、どうやらご主人様は作戦決行日を間違えていたようです。バレンタインとはよほど心揺らぐ大切な作戦なのでしょう。それでもご主人様はすばやく私を装着すると緊急発進。これは作戦決行ということなのでしょうか。
文字通り揺れる道のり。私には移動の機能は備わっていませんので、こうしてご主人様にお連れいただく必要があるのです。
どのくらいの時が過ぎたのでしょう。格納庫越しにまで伝わってきていた寒さは、いつしか熱さへと変わっていました。聞えてくるのは大勢の声。声。声。
『ねえ、これなんて似合うんじゃない』
『え、そうかな? ……うん、そうだね。これにするよ』
誰かが誰かと話している声が聞こえます。どうもご主人様以外の声はあまり心地よくありませんね。
どうやらここは最終決戦に向けご自身の武装を整える場といったとこなのでしょうか。ちらっと見えたのは【十字架に蛇が巻き付いたシルバーのネックレス】でした。さすがはご主人様の装備、私の装備と数段格が違います。
†◆†◆†
作戦決行はやはり明日なのか、とすっかり思っていた帰還途中。その時は前触れも無く突然やってきました。
「大野くん」
突然響いたご主人様の声。私の何かがトクンと揺れ動きます。ちりばめられたココアパウダーが装甲の中で小さく舞いました。
「加藤」
目標らしき声が聞こえます。いえ、これは双方急接近しています。私とした事がなんたる油断。すっかり気を抜いてしまっていました。これはえまーじぇんしーです!
「こんなところでなにしてんの」
「それはこっちのセリフだよ」
ついにご主人様と目標が遭遇しました。先制はご主人様。しかし目標は冷静に反撃を繰り出します。
「図書館に行こうかと思って」
目標からの攻撃です。さすが一撃一撃が重い。ご主人の動揺が格納庫にいる私にまで伝わってきます。
「そっか」
「お前は」
「あたしはお買い物。アクセサリとか見るの好きなんだよね」
「そか」
状況は不利。けれどここでご主人様は先程用意された特殊兵装、【十字架に蛇が巻き付いたシルバーのネックレス】を使われました。タイミングはバッチリ。さすがご主人様です。
「うん、いいんじゃない」
「そう、えへへ、ありがと」
【十字架に蛇が巻き付いたシルバーのネックレス】は一定の効果がみせますが勝負が決するには至らないようです。
―― 強い……
なぜご主人様が何日も前から念入りに準備し、計画をし、そしてご自身の装備も強化されていたか、訳が今になってようやく実感しました。
―― この力通じるのか……
不安は過ります。ですが私はこの為に生み出されたのです。ここでその力を発揮出来なければ、私の存在価値などないのです。
「じゃ僕、図書館行くから」
「うん」
その時、ご主人様の白く美しい指が私に触れ、やがて力強く私を握ります。思えばこの指が私を練成してくださったのです。
「あ、ちょっと待って」
格納庫からすばやく取り出された私。ご主人様の手により、目標へと向けられました。
外の空気は突き刺すように寒く、けれどご主人様の指はほのかに温かい。不思議な不思議な感じでした。
「はい」
「これなに」
私をじっとみる ―― 大野竜也。
初めて相対する目標の、圧倒的な存在感に押しつぶされそうな錯覚。
この敵は強い。はたして私如きの力で、この目標に勝つ事が出来るのだろうかという疑問。
有るはずのない様々な感情が、兵器である私に襲いかかります。
「チョコ、明日バレンタインでしょ」
「僕に」
「うん」
「言っとくけどギリだからね」
―― ギリ?
ご主人様が不意に放った一言。それは私の隠していた個人的な欲求。
―― ひょっとして、これが私のコードネームですか。そうなんですね、私は【ギリ】なのですね。私にも名前があったのですね……
もう、思い残す事はありません。
「分かってるって」
「勘違いしないでよ」
「しないよ、お前の彼氏に怒られちまう」
「彼氏なんていないよ」
ご主人様は私の投下成功を確認し、急ぎ現場より離脱を開始しました。私を信用してくれての事でしょう。
「いないんだからねえ」
最後にもう一声残し、ご主人様は完全に姿が見えなくなくなりました。
†◆†◆†
「いないって」
後に残るはぽつりと呟く目標 ―― 大野竜也。そして対大野竜也攻略兵器であるコードネーム【ギリ】。つまり私。目標は呆然といった表情で私を見ています。
―― 好機っ!
目標が私の特殊装甲を見ています。この特殊装甲は効果自動発動型。見るだけで効果は発動します。
>モニターを開始。攻勢情報アルファ、ブラボー、チャーリー、デルタ、エコーが目標の脳内へと侵入に成功。
>アルファ、ブラボー、チャーリー、デルタ、エコー、目標の敵性情報を確認。状況を開始。
>アルファ、ブラボー被弾。
>アルファ、信号消失。
>ブラボー、信号消失。
>尚も敵性情報の攻撃。
>チャーリー、信号消失。
>デルタ、エコーの信号捕捉できません。
>デルタ、信号消失。
分かってはいましたが、簡単には行きません。先制攻撃はダメだったか、そう思った瞬間でした。
>エコーより入電。目標に【淡い期待】という感情を抱かせる事に成功。
特殊装甲がもたらした奇跡の一撃。目標になにかしらの淡い気持ちを抱かせる事に成功。これは特殊装甲の攻撃だけではない。きっとその前のご主人様の攻撃も効いているのでしょう。目標は機嫌よさげに笑っていました。
目標が笑う姿を見て私は思います。
私はもう二度とご主人様の元へは戻らないでしょう。ですがどうぞご安心くださいませ。ギリは見事任務を完遂してまいります。どうか、ごゆるりとおまちくださいませ、と。
そしてこう言うのです。
ではご主人様、行ってまいります。
勢いだけですね