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歓喜-創作五枚会

・創作五枚会第七回(2011年2月5日投稿)

・文字数制限…2000文字

・禁則事項…心理描写禁止

・テーマ…歓喜

・もちろんフィクションです


 身の丈以上ある剣を構える大柄な男の視線の先――

 赤黒い堅鱗、鋭い牙、そして男を踏み潰せる程の大きな足。


 右手に剣を、左手に盾を構えた小柄な女の視線の先――

 巨大な翼、呼気と共に漏れ出る炎、そして女をはるか上から見下ろす赤い眼。


 その翼で天空を駆け、その足爪は鉄を容易く引き裂き、その牙は何者をも砕き潰す。

 吐き出す炎はあらゆる物を焼き尽くし、咆哮が響き渡る場に不幸にも居合わせた者はその日死を迎える。

 村を襲った災厄。生きとし生けるもの頂点。それは死の黙示 ―― ドラゴン。

 一人の男と一人の女は、そんな途方も無い相手と死闘を繰り広げていた。


 長きに渡り幾つもの村を襲い、喰らい、焼き払い、蹂躙し、壊滅に追い込んだ一頭の赤竜。

 対するは幾度となくドラゴンをほふったと有名な狩人ドラゴンスレイヤー二人組。

 ドラゴンは生きる為に村を襲い、人は生きる為にドラゴンを討伐しようと立ちあがる。つまるところ戦う理由は双方一つ。そこに敵がいるからだ。


 戦いの火蓋が切られ既に数時間。満身創痍な二人はドラゴンの目の前に無言で立っていた。身を守る鎧は力任せに裂かれ、留め具を失った部分はどこかに飛んでしまってむき出しの状態。表面はあちこち黒く焼け焦げていた。二人が手に持つ剣は、堅牢なドラゴンの鱗を何度も斬り付けた事により激しい歯こぼれが生じている。

 だがドラゴンも無傷ではない。左足と左翼を集中的に狙うのが作戦だったのだろうか、ほぼ無傷な右側と比べ左翼は激しく切り裂かれ、もはや翼としては機能しそうにもない。左足からは赤黒い血が絶え間なく流れ続け、大きな血溜まりが出来ていた。

 二人の鎧に付着した黒く乾いている血はどちらが流した物なのだろうか。

 

 静寂を破ったのはドラゴンの咆哮だった。木が激しく揺れ、大気が震える。だが男は一気に距離を詰めると、大きな剣を振り上げ、咆哮の為低い位置にあるドラゴンの顔へと叩き込む。

 大きく仰け反るドラゴン。それを見た男は返す刃で流れるように追撃を放つ。けれど当たったのは大きく重い剣の一撃ではなく、ドラゴンが放った右翼による強烈な一撃だった。

 男は弾かれるように吹き飛ばされ地面を激しく転がってゆく。尚もドラゴンの攻撃は続く。両翼を大きく広げて首を上に反らしながら深く息を吸い込み、男がむくりと立ち上がった場所を目掛けて灼熱のブレスを放つ。


……はずだった。


 走る閃光。その光がドラゴンに刺さるや否や再び大きく仰け反り、虚空に向かって灼熱のブレスを叫喚と共に吐き出す。炎のように赤く光る左目には銀色に鈍く光る一振りの短剣が刺さっていた。

 男は再びドラゴンへと駆け出し、あちこち歯こぼれした剣を一気に頭へと振り下ろす。しかし当たらない。大きく揺れ、抉り削られたのは赤い血を吸った大地だった。

 紙一重で避けたドラゴンは、炎渦巻く凶悪な口を大きく開け男に迫る。だが男には届かない。

 女はドラゴンの死角から飛び出すと、残る右目を剣で貫き、引き抜いた刃を喉へと走らせた。まさに電光石火。斬られた喉元からは炎が漏れ出した。

 光りを無くし、二人の姿を見失ったドラゴンは足を引きずり後ずさりながら、灼熱のブレスを辺りかまわず何度も何度も吐き出す。そのうちの一撃が女に向かって飛んでくるが、女は回避するどころか微動だにしない。

 炎は動かない女の真横を飛んでいった。辺りに埃と血で汚れた黒髪が数本焦げる臭いがわずかに残る。男はゆっくり剣を両手で振り上げ、ドラゴンの頭に向かって振り下ろした。





†◆†◆†





【目標を達成しました!】


 小さな画面が切り替わり、すばやく動く数本の指。鳴り渡るファンファーレをかき消す勢いで一つのボタンを何度も何度も叩く音が聞こえていたが突然少女の声が部屋に響き渡る。


「やた! 出た! 炎竜の天玉出たぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 ぺたんと床に座りながら小さな画面を見ていたが、“炎竜の天玉”という文字が出た瞬間立ち上がり、「出たっ!」と何度も言いながら左手を小さくあげていた。そんな少女の様子を見ているのはソファーに座っている男。二人の手には白い携帯ゲーム機がそれぞれ一つずつあった。


「……やっとかよ」

「出たよ出たよ出たよ出たよ出たよ! 戦う事二十七回。やっと出ました天玉さんっ♪ 」

「27回って……リアルラック悪すぎじゃない? 普通五,六回戦ったら一個位は出るもんなんだけどなぁ」

「そんな事ないもん!! 」


 少女は男に返事をするが一時たりとも視線を画面から離さない。自分の分身ともいえる身の丈と同じくらいの大きな剣を背負ったキャラクターを操作し、武器・防具精錬所へと向かっていた。ポーチにはやっと手に入れた“炎竜の天玉”が入っている。そんな少女を見ている男の手にある携帯ゲーム機の画面には、盾を持ったキャラクターが村の中でただ立っていた。

 男はサイドテーブルにある白いカップを手に取る。もう一度少女へ視線を向けながらゆっくりカップを傾け、喉を潤した。

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