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静寂-創作五枚会

・創作五枚会第四回(2010年12月18日投稿)

・文字数制限…2000文字

・禁則事項…一人称と三人称の使用禁止

・テーマ…静寂

・もちろんフィクションです

 X=0.999……



 こんばんは。

 忙しいところ、急に、呼び出して、すいません。

 あなたに、言いたい事が、あるので、

 呼びました。

 


 X=0.999……

 10X=9.999……

 


 あなたは、晩ご飯、食べましたか?

 何を、食べましたか?

 ……それは何? 

 ……魚料理? 

 ……肉料理? 

 ……炒めている?  

 すいません、分からないです。

 ……私?

 私は、まだです。



 X=0.999……

 10X=9.999……

 10X-X=9.999……-0.999……


 †◆†◆†


 その、なんていうか、そうじっと見られるとちょっと緊張してしまうんですけど。あまりじろじろ顔を見ないでくれるかな。

 え? その割には上手く出来てる? そ、そう? それはそれで嬉しいのだけど、今日はまた別の件で来てもらったのです。



 X=0.999……

 10X=9.999……

 10X-X=9.999……-0.999……

 9X=9



 あなたがこの前教えてくれた、X=0.99999999999999999999999999999999999999999999999……って9が無限に続く数式。ほら、有名な数式なんだぞって。

 無限に続く0.999……=X=1って、言われてもはじめ聞いてて意味が分かんなかったの。だってそうでしょ?

 1よりわずかでも少ないから0.999……なワケで。それなのに、いくら9が無限に続くからって、1と同じなのはあり得ないじゃない。数式的には成り立っているのかもしれないけどさ。

 1に満たないから、足りないからこそ小数点以下の世界が存在するの。どんなに続けたって足りないものは足りないはず。

 でも、あなたは妙に熱心に何度も何度も繰り返し説明をしてくれたのよね。もう分かったからって言ったのに何度も何度も。

 だから気になって。でね、家に帰って自分の部屋でノートを開いて書いてみたの。 X=0.999……って。

 じーっとこの数式を見続けたの。何日も何日も家に帰っては机に向かって見続けたの。時にはご飯食べるのも忘れるくらい見続けたの。あなたの事だからどうせ何かの例え話だろうって事は分かっていたしね。

  


 X=0.999……

 10X=9.999……

 10X-X=9.999……-0.999……

 9X=9

 X=1



 それでね、今日になって不意に気が付いちゃった。なんであなたがこんな数式を教えてくれたのか。

 つまり1に満たない数字でも、限りなく近づく事が出来たなら、それはもう1と同じなんだって。別の方法で限りなく近づく事ができたなら、それでもういいんだって。気にしなくていいんだって。

 最も感情とか人間味なんてなさそうな、ただひたすら正確な計算結果のみが正義である学問の数学が、そんな事をまさか認めてくれるだなんて。数学って案外優しいのかもね。

 ……いや、冗談よ。

 と、まぁ励ましてくれるのは嬉しいんだけどさ、分かりにくいよ、毎回毎回例えが。

 でもおかげさまでなにか吹っ切れました。

 気づいた時にはメールしてました。『ここに来て』って。

 だからごめんね、急な呼び出しだったけど。

 



 胸のあたりを指差し、少し胸を張って、右手指四本で自分の左胸の少し上、そして右胸少し上を指す。

 (私は大丈夫)


 右手の指4本をピンと伸ばし、人差し指の側面のあたりで顎に2回軽くあてる。その後、左肘を曲げ左手を胸のあたりで横に寝かせ、右手で左手の手首を軽くたたくようなしぐさをする。

 (ほんとうにありがとう)




 あの時から耳が聞こえなくなって、それから間もなく人前では喋られなくなって、もうこれ以上ないくらいショックで、落ち込んで、悩んで、絶望したけれど……私はもう大丈夫。

 聞えない、話せない事で心を閉ざし、どこか自分はもうダメなんだと思っていたけど、そうじゃないって事を言いたかったんだよね。それは正しく伝わったよ。

 気が付くまでに三年もかかったけど、これからは前を向いて生きていける。死ぬなんてもう考えない。

 手話を覚えようと言ってくれてありがとう。

 手話を一緒に覚えてくれてありがとう。

 三年間、ずっと励ましてくれてありがとう。

 本当に色々あったのに、それでもそばにいてくれてありがとう。

 例え話す事が出来なくても、手話でだってこんなにあなたと会話が出来る。

 例え聞えなくたってあなたの言葉をこんなに見る事ができる。


 だから私はもう大丈夫。

 

 でも……でも、もしも、何かがあってまた私が挫けそうになった時には、そばにいて欲しいです。ずっといて欲しいです。それを言いに来たの。


 †◆†◆†


 あなたに、『近くにいて』と、言うのは、とても、怖いです。

 あなたを、困らせるかも、しれないですが、言わないと、ダメだと、思いました。

 ごめんなさい、わがままを、言って。

 

 


 大きく頷くしぐさをゆっくり二回。そして、右手の指4本をピンと伸ばし、人差し指の側面のあたりで顎に2回軽くあてる。その後、左肘を曲げ左手を胸のあたりで横に寝かせ、右手で左手の手首を軽くたたくようなしぐさをする。

 (ほんとうに、ほんとうにありがとう)

今回の作品を書くにあたり何人かの方に話をお伺いしました。その方がその時思った事や様々な意見を取り入れ、なるべく表現には考慮したつもりですが、もしも気になる部分があった場合はお手数ですがメッセージででもお送りくださいませ。

また、全く手話に関する知識の無い私に、手話に関する事でいろいろアドバイスをくださった くろすろーどさん。全体的にアドバイスをくださったミキさん、本当にありがとうございました。


さて、静寂はとても難しかったです。それに二人称になっているかもとても不安です(笑) どうも主人公独白っぽい一人称のような気がして……

ちょっと改行が多いですがお許しくださいませ。


それでは五枚会に参加されている他の方の作品を読んでまいります。

最後までお付き合いくださった方、本当にありがとうございました。

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