表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/26

渡さないっ!-candy store

candy store 第二回お題:キャンディ



 真一文字に振り抜かれた一撃。だが敵を打つという目的を果たす事は叶わず、空を切り裂く音だけが勇ましく響く。確実に捉えたと思われた一撃は紙一重でかわされていた。

 次はこちらの番だ、とばかりに両手にそれぞれ持つ短めの得物を力強く握り込む。男は先の一撃への回避動作からそのまま攻撃動作へと流れるように繋げていた。だん、と大きな音を立て踏み込む左足。腰からの回転を左手に乗せ、まさに渾身の一撃を振るおうとしたその時だった。

 二人の男の視界の端に飛び込んできたのは唸りをあげる白い影。少し離れた所にいた者なら、それは紐で繋がれ、遠心力を利用して凄まじい勢いで二人の頭部へと迫っていたのが見えただろう。

 長い得物を持つ男は気付いていたのか、反射的になのか、焦りを微塵も見せる事なく半歩退いて避けた。二本の短い得物を持つ男は避けられないと判断したか、両手に持った得物を交差させ、その一撃を受け止める。やはり焦りは一粒も見られない。

 ふん、と鼻を鳴らしたのは白い物体を振るった男だ。だが男にとって避けられ、防がれた事はどうやら予想外ではなかったようだ。むしろ張りあいのある相手とでも思っているのだろうか。楽しそうにすら見えた。

 周りで見ていた者たちは皆、一様に息を吐いた。


「いい加減諦めろ。あれだけは絶対渡せねぇ!」


 三尺一寸の得物を持つ、大きく黒い瞳に凛とした意志の強さが宿る短髪の少年は言った。


「僕にだって譲れない物があるんだ……」


 そう言ったのは左右の手にそれぞれ一尺の得物を携えた、どこか憂いを秘めた瞳の中性的な少年だ。


「あれは俺のモンだよぉおぉおぉ!」


 くるくるくると白い袋を回している乱暴な少年は、ギラギラ血走る瞳を輝かせ、吐き捨てるように言った。


「俺は退かない。逃げない。負けない」


 短髪の少年は力強く言うと、左手一本で三尺一寸の得物を空に振るう。ひゅん、という風切音が一撃。それは二人の少年を身構えさせるには十分過ぎる一撃だった。

 深呼吸を一回。少年は続けて二人の少年に、いや、周りにいる全ての命ある物に向かって言い放った。


「誰であろうとも……みゆきちゃんの食べてたキャンディは絶対渡さないっ!」


 周りで見ていた者たちは皆、一様に溜息をついた。




 肩にとんとんと、三尺一寸の得物――お掃除用ほうきを当てながら言い放った少年。実に良い顔をしている。

 不思議と静まり返っていた教室に、不意にピシっという小さな音が響く。女の子が右手に持つシャーペンの芯が折れた音だ。

 溜息混じりに女の子は立ち上がる。怒り半分憐れみ半分で短髪の少年を見て、もう一度溜息をつきながら言った。


「バカ?」

「おいおい」


 短髪の少年は何を言ってるんだ? とばかりに話す。


「あのみゆきちゃんの食べかけだぜ? そんなの未来えーごー二度と手に入らないかもだぜ? まったく何のためにお前はポニーテールしてるんだ? 考えろ。良く考えろ。この奇跡についてよくよく考えろ。いいか? 午前中にキャンディを作る工場を見学に行った。帰り際にいちごキャンディを一人一個ずつもらったよな。で、給食が終わってみゆきちゃんがその飴を食べた。だが職員室に来るようにとせんせーに呼び出された。ここだ。ここが奇跡と運命の分岐点だ。普通なら一気に噛んじゃうとこだ。だがこのキャンディは違う。そこらに売ってるキャンディだけど由来が違う。意味が違う。ちょっと包装が違う。学校一かわいい女子は悩んだ末、せっかくのキャンディがもったいないって事で、食べかけを包み紙に入れ直した。どうだ? こんな奇跡が二度と起こると思うか? いいや起こらないね。起こるわけがない。起こるもんか。だから俺はこのチャンスを逃がさない」


「だから、譲らないっていってるでしょ」


 小太刀二刀流よろしく、二本の得物のうち一本を短髪の少年に向け、中世的な少年は静かに言う。その隣にいる男の子がしきりに「お願いだから返してよぅ」と言っている。どうやら彼が短髪の少年に向けている一尺の得物――は、たけしくんのリコーダーのようだ。


「だから、あれは俺のだっつの!」


 給食着の入った白い、袋をぶんぶん振り回しながら凄む少年。彼の隣の席に座るさくらちゃんはすごく迷惑そうな顔をしていた。

 メキメキと乾いた小さな音。女の子が右手に持つシャーペンが軋む音。本来聞えないような音が聞こえてくる程、シャーペンはその細身な本体に力が加えられていた。が、シャーペンが絶命する前に女の子はスクッと立ち上がる。つかつかと例のみゆきちゃんの机へと向かうと、無言で食べかけのキャンディが入った包み紙を握った。


「何すんだっ!」


 キッと睨む少年をギラッと睨んだ女の子。


「あ、あの……何するんですか?」


 内容はそのままに、口調と言葉をマイルドに仕立て直してもう一度同じ質問を短髪の少年はしてみた。


「変態」


 返って来たのは一言。

 ポニーテールの女の子は持っていたキャンディをごみ箱に捨て、『バカ』と小さく呟いた。

こんな作品で大丈夫か?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ