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令嬢達のお茶会

流行りの小説 〜ツンデレ幼馴染

作者: 睦月
掲載日:2026/07/22

今日は、友人とカフェに来ている。

当の本人はなんで男二人で……と言いたげな顔をしているが、大切な話があるんだ。

コイツは、婚約者にだけとても態度が悪い。憎んでいるのではないかと思うくらい酷い。

家同士の利益もない婚約だと聞いたから、さっさと解消すればいいのにしない。婚約を継続するならば態度を改めろと言っているのに、それもしない。

相手のご令嬢がかわいそうだ。

だから、友人同士でちょっと腹を割って話でも──と思って連れてきたのだが……。




「ねぇ、アナ。この本知ってる?」

「どれ? 『幼馴染の婚約者が私にだけ冷たいと思ったら、ただのツンデレでした!!』。

……もしかして、またあなたの叔父様から?」

「なんでわかったの?」

「こんな本をマルゴに送ってくるのは、あの方しかいないからよ……。

どんな内容だったの?」


美しい緑の蔦とパテーションで区切られた向こうの席から、かわいらしい女の子達の声が聞こえてきた。

周囲にあまり聞かれたくない話だったので、きちんと予約したはずなのに……。密室に男二人きりというのも嫌だったから半テラス席にしたが、失敗だったかもしれない。


「幼馴染の男の子と婚約している女の子の話でね、とっても男の子のことが好きなんだけど、いつも冷たくされて悩んでいるの」

「婚約破棄一択ね」

「結論が早すぎるわ、アナ」


やけに身近な話題だなと思って友人を見ると、ぽかんと口を開けていた。

なんで呆けているんだ? 誰だってそういう感想になるだろうが。

テラスから店内に席を移ろうと提案したが、友人は首を横に振ってそのままソファに座った。どうしたんだ、コイツ。


「なんで自分に冷たくする男と、婚約関係を続けなくちゃいけないのよ。政略結婚だからこそ、お互いに理解し合う努力は怠ってはいけないでしょう?」

「政略結婚じゃないのよ」

「ますますあり得ないわ。何故そんな男と婚約しているのよ」


なんだか顔色が悪いけど、大丈夫か?

さっきから一言も話さないので、とりあえず紅茶を二人分注文した。


「両家の親同士が仲がよくて、子供同士も昔は仲がよかったの。だから、婚約させましょうって」

「安直ね。でも、成長して仲が悪くなったのなら、簡単に解消できるんじゃないの?」

「それがね、男の子の態度は、好きの裏返しだったの」

「……そんな人、存在するの?」

「物語だからね」


ちらりと友人に目を向けると、真っ赤になっていた。

え、いや、お前……。

まさか、婚約者のことが好きであんな態度を取っていたのか? 嘘だろう?!


「冷たい態度って、例えばどんなふうに?」

「えーっと、男の子にかわいく思われたくてお化粧したら、『色気づいて誰に媚びを売るつもりだ!』って怒られたり」

「女性を褒めるのは、紳士の基本よ?」

「思い切って大人っぽいドレスを着てみたら、『娼婦みたいな格好をするな!』って言われたり」

「婚約者に娼婦って……。やっぱりさっさと別れた方がいいわ」

「でも、内心では婚約者がかわいすぎて、誰かに取られないか心配しているし、大人っぽいドレスを着ていたときは、少しの露出が心配で上着を掛けて早く帰らせようとしているの」

「心の中でいくら思っていても、言葉にしなきゃ伝わらないわよ」


俯いちゃったんだけど……。え、本当に照れ隠しだったわけ?

あ、紅茶きた。


「恥ずかしがり屋だから、好きなのに愛の言葉が言えないの」

「……その男、人として大丈夫なの? 結婚したって、絶対うまくいかないわよ」


うわ、今度は真っ青になってる。


「でも、物語だから。最後は男の子が『本当はずっと好きだった。素直になれなくてごめん』って謝ってきて、仲直りするの」

「それでハッピーエンド?」

「そうそう」

「あり得ないわ」


そうだよなぁ……。俺もあり得ないと思う。

だいたい、今までの態度が好きの裏返しだなんて、信じられない。きっと、婚約者のご令嬢だってそうだと思う。


「アナだったらどうする?」

「こんな男と婚約して、結婚しなければいけないとしたら、っていうこと?」

「仮にね。アナのご両親がそんな婚約を結ぶとは思えないけど。

家の利益にもならなくて、会う度に照れ隠しで『べ、別にお前のことなんか好きじゃねーし!!』って言ってくる人と結婚しなければいけなくなったら、どうする?」

「物理的に排除するわ」

「即答すぎるわよ。ハッピーエンドじゃなくて、死亡エンドじゃない」


やっと紅茶飲んだと思ったら、咽せやがった。

そうか……。このままだとコイツ、死亡エンドか……。ありそうで怖いな。

だから婚約解消した方がいいって言ってたのに。


「狙うなら、初夜かしら」

「ちょっと ! なんてこと言い出すの?!」

「真剣に考えているのよ? 油断しきっていると思うし、多分、一番無防備な状態でしょう?」

「それはそうだろうけど……」

「武器や暗器を持ち込めなかった場合のことも想定して、何か毒でも用意した方がいいかしら? あと、普段から体術で鍛えておくとか」

「アナに聞いたのは、間違いだったかもしれないわ……」

「だって何年婚約していたのかわからないけど、ずっと冷たい態度だった人が反省しても信じられないし、またいつ同じことをしでかすかわからないじゃない」

「うーん、確かにそうねぇ。

でも、物語の中では、謝った後に溺愛されるのよ? ツンツンした性格は変わらないけど、女の子だけには甘い態度になるの。それを『ツンデレ』っていうのですって」


俺も、コイツの態度が改まるとは思えない。

『ツンデレ』って言われてもなぁ……。そもそもそんな言葉聞いたことないし、どっか外国の本なのか?


「普段からそんな態度の人に、社交は無理ね」

「まあ、そうよねぇ」

「だから婚約者に排除される前に、婚約破棄すればいいのよ。

待って、女性は悪くないんだったら、白紙がいいのかしら? 婚約をなかったことにして、一切の関わりなくした方がよさそうね」

「存在しなかったエンド?」

「それが一番いいわ。その後、社交界から排除すれば完璧ね」


顔色が、真っ青を通り越して、真っ白になってるけど……。


「暗器で思い出したけど、叔父様がこの本と一緒に変わった物を送ってきてくれたから、今度見に来ない?」

「マルゴの叔父様って……。まあいいわ。次の予定を立てましょうか」


叔父さん、何者だよ?! コイツの今後よりも、叔父さんの方が気になるよ!!


あー、でも今日は送ってやるか。もう屍みたいになってるけど、自業自得だろ。

そういや、この店に来てから一言も話してないけど、解決したな。……解決って言っていいのかわからないけど。



     ◇



数日後、友人の婚約は白紙になった。婚約者の家から申し出があったらしい。

「今までの態度を思えば当然だ。むしろ遅すぎた」と、両家の誰も反対しなかったそうだ。


俺は目の前で項垂れる友人を見た。

「好きだったのに……」

声ちっさいな。

「それ、相手に言ったことあるか?」

「……ない」

「なら当然だって。だから態度を改めろって、ずっと言ってただろ?」

「……」


泣きそうな顔をしているけど、残念ながら同情の余地はない。

廃嫡されなかっただけよかったんじゃないか?

『幼馴染の婚約者が私にだけ冷たいと思ったら、ただのツンデレでした!!』は、架空の小説です。

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― 新着の感想 ―
せっかく見ず知らずのご令嬢達のおかげでボコボコに凹まされて自分を省みる事ができたのに、当日中に婚約者に土下座で謝る等の行動を(遅すぎたとしても)おらく取らずに、数日後にまんまと婚約白紙化されている時点…
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