始まりの音色の部屋割り
前回⇒部活動説明会は、雪のような白さの髪を持つ酉島蓮と出会った。そしてJAZZ部長が出てくると、その噂でもちきりに。だが、内容は今だ誉たちは知らない。その後、新入生たちは各自の寮へ行くこととなった。
"03 始まりの音色の部屋割り"
聖堂の入り口側に女子が集まり、奥側に男子が集まった。その男子の集団の中心に二人、背の高い生徒がいた。
一人は笑顔が張り付いたような好青年。もう一人はこの季節だというのにマフラーをした青年だ。
新入生の男子が全員集まると、笑顔の青年が口を開いた。
「僕が西男子寮の寮長。3のC、平安座さんだよ。こっちの無愛想なのは東男子寮の寮長兼相棒の冬木くん」
紹介されたマフラーの冬木さんは無言でぺこりと頭を下げた。それを確認すると平安座さんは内ポケットから紙を取り出しながら言った。
「これからランダムに君たちを東西に振り分けるよ。東と言われたら冬木の方に。西と言われたら僕の方に来てね」
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聖堂を出て廊下を通り抜け、階段一回を上がって一回下がった。その間、平安座さんの口から言葉が途切れることはなかった。校長と生徒会長の話や、さっきの冬木さんの話。次から次へと言葉が紡がれるので、聞いてることこっちが疲れた。
聖堂を出てから約5分。渡り廊下の突き当たりで急に彼が止まった。
目の前には決して丈夫そうには見えない木の扉が一枚。
「ここが男子寮の入り口だよ。今日から君たちはこの中で寝起きする事になるね」
俺は少し不安になりながらも、彼の後に続いて、中へ入る。
まず目に付くのは鍵付きの下駄箱。それから暖かさを感じるカーペットや照明、ローテーブルにソファーのセット。二階があるのか、奥に階段も見えた。
「おお! なかなかの広さだな!」
「確かに」
「気に入ってくれたみたいで良かったよ。ここは、ロビー。向こうには朝夕食のための食堂と共同風呂。トイレはここの階に4室、2から4階からは各階に2室あるよ」
外から見たときは気づかなかったが、この建物はそれなりの広さのようで、日本にいるはずなのに、ここにいると感覚が狂っていくような気がした。
今年度入学した一年生は男女合わせて238人。単純に計算すると男子は119人になる。
そしてこの寮にいるのが、そのまた半分の約60人。つまり、その3学年分がこの西寮で寝起きする事になるわけだ。俺は諦めにも似たため息を漏らした。
「うん、みんないるね。これから裏口からみんなの荷物を部屋に運んでもらうんだけど、その前に部屋割りを発表しまーす」
言ってから彼は藁半紙を配りはじめた。しかし、配られたものにはなにも書かれていない。透かしてみたが何かが浮き出てくる様子もない。
「すんませーん! オレの紙、真っ白っす!」
隣にいた酉島がプリントをひらひらとさせると、平安座さんは笑顔のまま少し嬉しそうに言った。
「うん! じゅあ、書き込まなくちゃね」
彼は全員の部屋割りが書かれている紙と、俺たちに配った藁半紙と同じものをテーブルに出してペンを持った。
そして、こう言った。
「自分たちの紙を見ててごらん」