始まりの音色の噂
前回⇒無事に聖堂へたどり着き入学式を迎えた誉。色持ちに興味があるらしい春風晃と出会った。
"02 始まりの音色の噂"
見かけ大人しそうなその子は、その装いに反してよく通った声だった。
「高校生活をよりもりあげる部活動を、この時間でゆっくりみていってください。最初は吹奏楽部です」
紹介が終わるのと同時に垂れ幕が上がり、ステージ上でそわそわしていた吹奏楽部が演奏をはじめた。
落ち着く音色が聖堂いっぱいに響く。
「…ここの生徒会長って女子なんだな」
「そうだよ。…って3月の学校説明会で見なかった?」
「寝てた」
「はは、そっか」
3月…そういえば、合格者説明会があったのを思い出した。その日は制服だの靴だのなんだのと色々買わされた記憶がある。
くだらない思い出に耽っていると、後ろがやけに五月蝿いことに気づいた。半ばガンを飛ばしてやろうと振り返る。
「…えってば! やっとこっちむいた! さっきの演奏さ、やっぱり高校はレベルが違うよな!」
そこには目がやたらキラキラした変な髪型の男がいた。しかも上半身を前に倒しているのか、やけに顔が近い。
「あなたは?」
俺の眉間にシワができたのを知ってか知らずか、春風さんが問うた。
「はじめまして! オレ、酉島蓮!! きみが春風晃ちゃんで、お前が音羽誉くんだよね?」
「ああ」
「初めまして。…あ。それっ、あなたも色持ちなんだね」
春風さんが酉島の髪を羨ましそうに見つめる。
酉島の髪型は少し個性的だが、色的にはでまるで雪のような白だった。
「ああ、そうだぜ! オレの家族は変な家系だからな!」
"色持ち"の人口は時代にもよるが、"色"を持っていない人、通称"色無し"とそんなに変わらない。
ただ、いくら"色"を持っているとしても、その強弱は個人差が激しく、半端な"色持ち"よりか努力して力を手に入れた"色無し"の方が優秀だったりする事もよくある。
「あ、あそこ! あの人女みたいな顔してんな!」
酉島の指がさしてる方向を見ると、顔は遠くてしっかり見えないが茶髪の男子生徒が立っていた。その男子生徒はマイクに電源が入っていることを確認すると、少し緊張した様子で話し始めた。
「こ、こんにちは、ジャズ部の部長の双野です。去年結成して今年から部活になりました。是非見学にいらしてください」
ジャズ部長の双野は照れ臭そうにしながら戻っていくと、今まで静かにしていた新入生たちがざわめきだした。
新入生「ジャズってなんかいいよね」
新入生「おいバカ! あの噂をしらねぇのかよ」
新入生「そういえば生徒会長と同じ名字だねー」
頭の片隅で噂好きな奴らだと思っていると、こっちにも同じような奴らがいた。
「噂ってなんだろうな!」
「気になるね」
ため息が漏れる。
♯
「以上で部活動説明会を終わりです。この後、新入生は各自の寮に向かうので指定された場所に移動してください。また、男女それぞれの寮長は打ち合わせ通りに動いてください。最後に役員はステージに集合してください。」
どうやら、騒いでいる間に紹介は終わったらしく、部活動説明会はこれでお開きとなった。
「じゃあ、またあとでね」
「おう! 行こうぜ誉!」
俺は酉島に引っ張られるように集合場所へ向かった。
寮に入ったら、こいつとだけは相部屋になりませんように。と心の隅で神に祈りながら。