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彼岸の郵便局ー赤い手紙ー

作者: 紗希
掲載日:2026/03/14




時刻は真夜中の午前2時。誰しもが寝ている時間帯である。出歩く一人の若い女がいた。


女の手には白い手紙。女は街灯のみが照らす住宅街を、何かを探す様子で彷徨っていた。

ある噂を頼りに。本当に存在するかも分からないものを探して。


「……あった」


とある街灯の下に、それは唐突に現れる。

“彼岸のポスト”

ある条件を満たした場合にのみ、限られた時間に朱色の郵便ポストが姿を見せるのだ。


女はそのある条件を満たした。なので、“彼岸のポスト”が現れた。


「………“あとは、ポストに手紙を入れるだけ”……これで、よし」


噂の通りに手紙を投函する。“コン”と音が聴こえ、ポストの底に手紙がしっかりと入ったのが分かった。


そして、女は足早にその場から離れる。

離れなければ、手紙が回収されないのだ。


⸻女が離れてわずか数分。一台のバイクがポストへ接近する。風貌こそ郵便局のバイクであるが、その運転手は異様であった。


明らかに、幼いのだ。

小柄の少年とも言うべき外見で、しかし彼は慣れた手付きでポストを開函する。

中から先ほど女が投函した手紙を手に取ると、淡々と自身の回収袋へそれを突っ込んだ。


バイクに乗り、少年はその場をさっさと立ち去る。

…少年が見えなくなると、用が終わったとばかりにそのポストはふと消えた。









少年が運転するバイクは道なき道を走っていた。厳密には、この世とあの世の境、彼岸の道を走行していた。これが彼の向かう場所に通じているのだ。


そうしてしばらく走っていると、ボンヤリと建物が見えてくる。周囲に彼岸花が咲き、三途の川と橋が掛かっている。建物には“彼岸の郵便局”と看板が表記されていた。


バイクに乗ったまま少年は建物の裏側へ回った。そこには暗がりに一つ提灯が浮かんでおり、少年の帰還を喜ぶように近寄ってくる。


ちりん、と何もない空間に鈴の音。

ふよふよ揺れ動く提灯とともに、少年は裏口にバイクを停め、回収袋を持って建物の中へ入った。

中では黒いモノが複数動いていた。“影”と呼ばれるモノ達だ。彼らはヒトでもなければ亡霊や妖怪でもない。ただ、少年と同じように郵便局で働いている“局員”である。


影の間を一直線に進み、少年は“検品場”に設置されているケースに回収袋の中身をバサバサと一気に放り込んだ。全て、“彼岸のポスト”から回収してきた手紙だ。

全部出し終えるとケースから離れる。すると、“影”がわらわらと集まってきて、手紙の検品を始めた。


“影”による検品が終わると、今度はどこからともなく鳥がやってくる。時鳥ホトトギスだ。それぞれ一通ずつ手紙を口に咥え、また羽ばたき飛び立っていく。


冒頭で女が投函した手紙もその内の一羽が咥えていた。

その一羽は、建物を出て、川も橋も一瞬で通り過ぎ遥か先を歩く一人の人影をその視界に捉えた。


その人物も、鳥に気付き見上げる。

時鳥はゆっくりと降りていき、咥えた手紙を差し出した。歩いていた人物は、手紙の受取人だったのだ。


受取人に手紙が渡ると鳥は役目が終わったとばかりに来た方向へまた飛んでいく。手紙を開封して、受取人は中身を読んだ。


おばあちゃんへ

突然亡くなってしまってから数日が経ちました。

昔おばあちゃんが私に見せてくれた髪飾り。おじいちゃんからの贈り物だったって聞きました。知らずに欲しいって言ってごめんなさい。おばあちゃんと一緒に天国にいけるよう、棺に入れてもらいました。大切な忘形見、お返しします。

どうか、あの世でおじいちゃんと幸せに。

         孫の綾子より



手紙を読み終えた老婆は、優しげな微笑みを浮かべる。

その傍らには、かつての伴侶である老婆の夫が付き添っていた。


そして、手紙に書いてあったように老婆の手にはいつの間にか髪飾りが握られており、それを見て決意した表情で老婆は夫を見上げる。

夫も察して頷いた。









「…お手紙ですね。お預かりします」


老夫婦はあの“彼岸の郵便局”を訪ねていた。窓口の担当者は非常に幼い外見の少女で、けれども局員としてとても慣れた対応だ。


「同封のものを確認いたします。…はい、確かに、承りました」


切手も送料もなし。しかし、少女はその手紙を“郵便物”としてしっかりと引き受けた。

老夫婦は満足して郵便局を去る。


預かった手紙を、少女は“影”へ引き渡す。

手紙の検品である。

そして検品が終わると、手紙は瞬く間に赤色へと変わった。さらに不可解なことに、赤色になった手紙はその場でゆっくりと消滅したのだ。


………手紙はどこへ?










“彼岸のポスト”へ投函した晩から数日。

朝目が覚めると、女の枕元には一通の手紙が置かれていた。

あの“赤い手紙”だ。


噂の通りだ、と思いながら女は急いで手紙を開封する。中にはひとこと、


“大切にしてね”


それともう一つ。

祖母の葬儀の日、棺に入れたはずの髪飾りが同封されていた。


「…おばあちゃん、ありがとう」


その手紙と髪飾りを、女は大事に大事に、抱きしめた。




企画「春のチャレンジ2026(仕事)」参加作品です。

彼岸にある郵便局の業務記録。

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