表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

恋と星の交差点

正式な婚約から一月後。リュナは久しぶりに、星詠みの広間へと足を踏み入れていた。


 高い天蓋の天井。中央に浮かぶ巨大な星盤。

 星の運行が精密に記録されるその空間で、かつて彼女は何度も「縁なし」の烙印を押されてきた。


 けれど今、その星盤にはひとつの光が刻まれていた。


 《星の交点──二名一致、運命安定》


 最上級の相性。星々が交差し、未来を繋ぐ予兆。


「ほんとうに……書いてあるのね」


 リュナは苦笑しながら星盤を見上げた。

 でも、その光にすがる気持ちは、もうなかった。


「リュナ」


 背後から歩いてきたセイが、いつものように穏やかな声で呼びかけた。


「これから式の段取りがあるっていうのに、逃げ出したのかと思ったよ」


「確認したかっただけ。……“今度こそ、ちゃんと選ばれた”って」


 セイはそっと彼女の手を取り、指先に口づけた。


「違うよ。君は“選ばれた”んじゃない。“選んだ”んだ。自分の気持ちで、僕を」


 その言葉に、リュナの胸の奥にずっと残っていた不安が、ふわりとほどけて消えた。


 ——運命は、星が決めるものじゃない。


 ——わたしが、わたしで決めたもの。


 


 それから数ヶ月後。


 王都では“星詠みの自由化”に向けた改革の議論が始まった。

 セイはその提案者の一人として、制度の「絶対性」に疑問を投げかけていた。


 「星はあくまで“導き”であり、“支配”ではない」

 そう記された彼の文書には、かつての星詠み師たちさえ耳を傾けていた。


 ——きっかけは、小さな反抗だった。


 だけど、その小さな一歩が、未来を少しだけ変えていった。


 


 リュナは相変わらず薬草を摘みに森へ通っている。

 そして、セイはそれに付き合っては、虫に刺されて文句を言っている。


 ふたりの恋は、特別で、だけどとても自然だった。

 誰が決めたわけでもなく、自分たちが選び、歩んできた日々。


 夜空の星がどんな軌道を描こうとも。

 彼らはもう、迷わなかった。


 ——これは、星に導かれた恋ではない。


 ——星を超えて、たしかに結ばれた恋の物語である。


 


 * * *


 空には、今日も変わらず星が瞬いている。

 ただ、その下を歩く者の足取りは、以前よりもずっと軽やかだった。


 星が語らぬ恋を、彼らは信じていた。


 


 ──完──



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ