西の国の暴君
西の国には王が居た。
彼は元からその国に居た訳では無い。
ある日突然現れて、それまで平和だった西の国に乗り込みたった一人で西の国を乗っ取ってしまった。
彼は暴君だった。
彼は国を支配すると一日一人、戯れに人間を殺した。
彼が王となってから多くの人が死んでしまった。
そして、彼が生き続ける限り今まで以上の多くの人が死ぬ事になるだろう。
彼は暴君だからだ。
彼には恐ろしい力があった。
それは彼が殺した者は幽霊となって永遠にこの世を彷徨うという物だ。
天国に昇る事も反対に地獄に落ちる事も無い。
永遠に幽霊として生き続けるのだ。
西の国にはもう人間より幽霊の方が多い。
生きている人間より死んでいる人間の方が多いのだ。
彼らは今日も天国にも地獄にも行けず、日々を過ごしている。
うたた寝をしていた暴君を召使が呼んだ。
「王様」
暴君は何度かその呼び声を無視していたが召使に体を揺らされてはさすがに起きない訳にもいかない。
「何だ、騒々しい」
暴君が目を開けるとこの国で一番に幽霊になった召使が暴君の前に立っていた。
彼女は一日一人、戯れに人間を殺すことを諫めたために暴君に最初に殺された人間だった。
「処刑を待ち望む人間どもが、まだか、まだか、と騒いでおります」
暴君はため息をついた。
初めの内は『死んでも暴君から逃げられない』と恐怖の対象でしか無かった暴君の力も今ではすっかり効力が無い。
うんざり顔の暴君はベッドから体を起こして召使に尋ねた。
「不老不死と言うのはそんなに良い物か」
「ええ、お腹も空きませんし、病気にもなりませんから」
「天国も地獄にも行けないのにか?」
「そんなもの、誰も見た事ありませんよ。見た事無い物は存在していないのと同じです」
暴君は窓から外の様子を窺った。
今日も外には処刑を求め、幽霊になる事を望む者達が数えきれないほど集まっていた。
頭を抱えている暴君に召使は気の毒そうに告げた。
「王様、だから私は反対だったのです」
召使いの声を振り払うように暴君は両耳を塞ぐ。
この国が永遠に続く幽霊達の国となるのはこの光景から僅か十数年後のことだ。
そして、その国には王だけが居ないのだが、それはわざわざここで語ることでもない。