その先へ
2025年1月17日。正月休みも明け穏やかな日常生活を送る沙知が思い出すあの日のお話。
正月休み9連休も明けて瞬く間に小正月も過ぎ、日常生活が戻ってきた。年明けから穏やかな晴天が続いており、今日もまたうららかな小春日和で、昼前の疏水辺りをゆるゆると歩く沙知は川面に反射する光の線に思わず目を細めた。
年末から腰を痛めて日課のジョギングは医者に止められている。正月休みはきつい痛みでほとんど家に居たが、ようやっと痛みが治まってきて、せっかちな沙知は腰にコルセットを装着して足慣らしに散歩に出たのだった。
もうかれこれ家を出てから30分。腰の痛みがじわりと沸いてきて、顔を歪める。五十路になり昔ほど無理が効かなくなってきた。
「遠出はまだ早かったな」
仕方なしに疏水が切れた堤防の下で踵を返した。
とその時、沙知は視線の先に白いものを捉えた。「あぁ、ダイサギ」
毎年この時期になると疏水で見かける真っ白な鳥。
この鳥を見る度に何故かあの日を思い出す。
ダイサギの無垢な白と凛とした立ち姿にあの日一瞬にして散った優しく微笑む叔母の白い顔が重なるようで。
「沙知ちゃん、幸せになりや」
30年前親戚一同集まって正月の宴の席で、ワイン一杯で頬を赤く染めた叔母は大学生の私に微笑みながらそう言った。それが最期の言葉になるなんて誰もが思いもよらなかった。
1995年1月17日午前5時46分。
叔母の命は一瞬にして散った。
深い悲しみに打ちひしがれ、それでも生きていかねばならなかった人達の祈りが今ここまで続いている。
「叔母ちゃん…」
潤んだ目を上げるとダイサギが大きく翼を広げて光溢れる青空へと飛び立っていった。
1月17日。毎年この日になると書かずにはいられなくて筆を取っていました。30年前に散ってしまった命と深い悲しみの中それでも生きていかねばならなかった人達に祈りを込めて。合掌。石田 幸