ミイラ取りが
宮廷医生活という推理モノ(予定)のための
推理モノの練習用に書いたやつ。初書き。
推理になっているかは不明。
本編『薬術の魔女の結婚事情』(https://ncode.syosetu.com/n0055he/)(恋愛モノ、馴れ初めの話)
本編2『薬術の魔女の宮廷医生活』(https://ncode.syosetu.com/n2390jk/)(推理モノ、スピンオフ(?))
「……やば」
やってしまった。
薬術の魔女は周囲を見回し、失せ物を探す。
「ない!」
だが、見つかる気配がない。
ここは実験室で、機密性の高い構造をしていた。魔術の干渉は受けないよう、結界が張られている。
扉の鍵は閉まっているし、扉には紙一枚がようやく入るような隙間しかない。
「どこ行ったんだろ……」
「どうかなさいました?」
「あっ……」
顔を上げると、出入り口に夫の魔術師の男が立っていた。
「開けて頂いても、宜しいですか?」
拒むのは余計怪しまれるだろうと思い、薬術の魔女は扉を開ける。
「何をお探しで?」
「な、なんでもないよ」
「そうですか? 『ない』」という声が聞こえ、貴女は焦っており、周囲は散れている。此れで『なんでもない』と仰るのですね」
「う……」
至極当たり前のことを指摘され、薬術の魔女は俯いた。
「いいの! きみには関係ない話だから!」
「然様ですか。必要の際には御声掛け下さいまし」
それだけ告げ、彼は踵を返す。
「さっきまでは、確かにあったんだよね」
薬術の魔女が目を離した隙に、なくなってしまったのだ。
無くしたものは、『麻痺薬』だった。先日、魔術師の男と小さな喧嘩をし、その腹いせに使おうと思っていたものだ。
魔術師の男は四六時中薬術の魔女を監視しており、それについて少し文句を言った程度だった。
彼はその毒の耐性はすでに持っていたので、新たに成分を加えて有効化させようとして準備していたのだ。
「転がるようなものでもないし、あの人がこの部屋に入ったのはさっきの一度きりのはず」
魔力の痕跡は残っていなかったので、これは確かだ。そもそも魔術は発動できないようになっている。
「どこ行っちゃったんだろ」
周囲を見回すも、散れているのでよくわからない。
「散らかしちゃったから、とりあえず片付けなきゃ」
よいしょ、と床に落ちたものを回収し始める。
「片付けたら見つかるよね、多分」
魔術師の男の式神が居れば、この部屋だってすぐに綺麗に片付けられるのに、と思いながら。彼の式神は、魔術では動いていないため、この屋敷の中ならどこにでも活動できるのだ。
「見つかんなかった……」
綺麗になった実験室で、薬術の魔女は項垂れる。
「どこ行ったの?」
もやもやを抱えたまま、魔術師の男に『夕食ができた』と呼ばれ、仕方なく中断することにした。
「失せ物は見つかりました?」
「う……見つかってないよ」
喧嘩をしたままで気まずく、少しつっけんどんに言い返す。だが、魔術師の男は気を悪くする事なく、穏やかな様子だ。
そして、夕食を食べ終えた頃。
「(……あれ?)」
身体が動かなくなっていた。
食事中も薄々と気怠い気持ちがあったのだが、完全に動けなくなってしまった。
「(ど、どうして)」
口を動かすのも億劫だっだ。だが、気持ちは焦っている。
そこに魔術師の男が近付いた。
「貴女、此れを私に処方しようとしましたね?」
「な、」
彼が持っている小瓶は、薬術の魔女が探していたものだった。
「簡単な事です。扉の隙間より式神を侵入させ、瓶を隠す。そうして部屋へ私が入った瞬間が有ったでしょう? 其の時に式神ごと回収を致しました」
三日月のように目を細め、魔術師の男は笑う。
「『何故毒が効いているのか』不思議ですか」
頷くと、「貴女と同じ事をしたまでです。新たに成分を加えて『毒の有効化をした』」と彼は告げる。
「如何です? 逆に毒を盛られる気分は」
「……さい、あく」
「そうですか。では、貴女の寝る迄のお世話をしてあげねばなりませんので」
楽しそうな魔術師の男に、薬術の魔女は深いため息を吐いた。