第33章: 過去の残響
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過去の影は時に私たちの心に深く刻まれ、人生の指針を決めることがある。本章では、アルデンが幼き日に経験した悲劇と、その後の彼の歩みが描かれる。戦乱の中で失った家族の記憶、仲間たちとの絆、そして守るべきものへの想い——それらが彼の剣を導く理由となった。人は何のために戦うのか、そして悲しみを超えた先に何があるのか。その答えを探しながら、彼の物語は続いていく。
ダニエルの一行は、エルドリア南部に位置する都市、ヴァルグレードへと馬を走らせていた。馬の蹄の音が静寂の中に響き、時折、仲間たちの会話がそれを遮った。
アルデンはイザベルの隣で馬を進めながら、彼女の真剣な表情をじっと見つめていた。その眼差しの奥に、彼はかつての記憶を呼び起こされるような感覚を覚えた。彼はそっと目を閉じ、ため息をつく。
「この十一年間…俺の人生はどうなってしまったんだろう…」
アルデンは、あの日のことを鮮明に思い出していた。まだ九歳だった彼の村は、盗賊とならず者たちに襲われた。最初の悲鳴が外で上がった瞬間、村は恐怖に包まれた。
——「アルデン、こっちへ!」
母の声が響く。彼女の瞳は恐怖に見開かれていた。すでに父が彼の手を握りしめ、家の床下に隠された抜け穴へと引き込もうとしていた。
——「何が起こってるの?」
震える声で尋ねると、父は肩を強く掴み、涙をこらえながら低く言った。
——「いいか、何があっても静かにしていろ!」
その直後、重い足音が家に踏み込んできた。床の下で息をひそめるアルデンの耳に、両親が侵入者たちと必死に交渉しようとする声が届いた。しかし、盗賊たちは容赦しなかった。
何の躊躇もなく、彼らは二人を殺した——。
父が最期に神へと祈りを捧げる声が聞こえた。
「どうか、この子が幸せな未来を歩めますように… 女神フリッグよ…」
その願いの言葉は、アルデンの心に深く刻み込まれた。
だが、それから訪れた静寂は、さらに恐ろしいものだった。アルデンは飛び出したかった。叫びたかった。だが、恐怖に体が動かなかった。
夜になると、再び村が騒がしくなった。
——「王国軍だ!王国軍が来たぞ!」
盗賊たちの怒号が響き、剣と剣がぶつかる音が辺りに満ちた。爆発が夜を照らし、悲鳴が入り混じる。
アルデンは膝を抱えて震えながら、ただひとつの思いに囚われていた。
「許せない…あいつら…俺の両親を…奪ったんだ…!」
そして、夜が明けた。
あたりは静まり返っていた。
そのとき——
足音が近づき、家の中に響いた。
——「誰かいるのか?」
低く落ち着いた男の声がした。
やがて床下の扉が開かれる。
そこに立っていたのは、一人の長身の男だった。王国軍の鎧を身にまとい、鋭くも温かみのある瞳でアルデンを見下ろしていた。
——「お前の両親は…?」
その優しくも厳かな声に、アルデンは震える唇で答えた。
——「……殺された…」
押し寄せる悲しみの波に耐えきれず、彼は叫ぶ。
——「あいつらが…村のみんなを殺したんだ!俺の両親だって…何の抵抗もできなかった…!」
涙が頬を伝い、彼の怒りは絶望へと変わった。
男はそっと膝をつき、アルデンに手を差し伸べた。その目には、深い理解と同情が込められていた。
——「もう大丈夫だ…名前を教えてくれるか?」
——「……アルデン」
——「俺はセドリックだ」
セドリック卿はしばらく少年を見つめたあと、静かに問いかけた。
——「王都に来ないか?俺と一緒に暮らそう」
アルデンは迷った。
——「王都…? でも…俺は、ただ両親と一緒にいたかっただけなのに…」
——「……分かっている。でも、ここにはもう誰もいないんだ。お前が望むなら、俺が支えてやる」
選択肢はなかった。
アルデンは、差し出された手を取った——。
セドリック卿はアルデンをエルドリア王都の王国騎士団本部へと連れて行った。そこでアルデンは学び、鍛錬に励んだ。剣術と戦略を徹底的に叩き込まれ、セドリック卿の指導のもとで成長していった。
セドリック卿は彼を実の息子のように扱い、アルデンもまた彼の人生のすべてに寄り添った。結婚、息子の誕生、そして軍務の試練——すべての瞬間を共に過ごした。セドリック卿は彼を誇りに思い、常にそう伝えていた。
12歳のとき、アルデンは騎士学校へと入学し、すぐに頭角を現した。剣の腕は秀でており、戦略においても群を抜いていた。成績は常に完璧だった。しかし、過去の影は消えなかった。両親を失った記憶は彼の心に深く刻まれ、彼は己を鍛えることにすべてを捧げた。女神フリッグ (女神フリッグ) に願いをかけた父の言葉が、今でも耳の奥に響いていた。
「俺は父の願いを叶えなければならない——」
14歳のとき、エルドリア王から直々に王国騎士団への召集がかかった。そこで彼は、生涯の仲間となるエリック (エリック) とグレゴール (グレゴール) 兄弟と出会う。共に数々の盗賊討伐に挑み、彼らはまるで無敵の戦士たちのように戦場を駆け抜けた。
しかし、アルデンは決して恐怖を感じることはなかった。彼の感情はまるで封じ込められたかのように、ひたすら使命へと向かっていた。
そして、彼が17歳になったとき——
それは、世界が揺らぐ知らせだった。
魔王が復活し、悪魔と魔物の軍勢を率いて人類を滅ぼそうとしていたのだ。生き残った者は奴隷にされる——それが敵の目的だった。
アルデンの部隊はラヴェンガルド王国へと派遣された。その道中、エリックがぽつりと呟く。
「アルデン… 俺、怖いよ。悪魔軍は恐ろしく強いって聞いた…」
アルデンはわずかに微笑んだ。
「大丈夫だ。俺たちは、いつも一緒に強く戦ってきたじゃないか。」
だが、戦場は甘くなかった。
轟く爆音、剣戟の響き、魔法の閃光——。
アルデンは叫んだ。
「突撃しろ!敵の陣形を崩すんだ!」
そのとき、彼の視界に、戦場の一角で倒れているグレゴールの姿が映った。周囲では爆発が次々と起こり、炎の玉が宙を舞う。
アルデンは叫ぶ。
「グレゴール!大丈夫か!? 立ち上がれ!お前が必要だ!」
エリックが駆け寄り、必死に声をかけた。
「兄貴!戦うんだ!俺たちなら勝てる!」
その言葉に、グレゴールの目に再び闘志の炎が灯る。
彼は剣を握り直し、悪魔の群れへと飛び込んだ。
「陣形を崩すな!守るべきもののために戦え!」
エリックとグレゴールは再び悪魔たちを切り伏せ、戦場を駆ける。彼らの士気は戻っていた。
しかし——
突如、地獄の猟犬に騎乗した悪魔兵たちが、左翼から奇襲を仕掛けてきたのだった——!
「左側を守る準備をしろ!隊列を維持しろ!」 アルデン (アルデン) は叫んだ。
しかし、その時、奇妙なことが起こった。騎士たちは馬を降り、彼らを取り囲み始めた。アルデンは一瞬、戦略を考えることができなくなった。
グレゴール (グレゴール) は騎士の悪魔に襲われたが、エリック (エリック) が彼を守った。しかし、敵は剣をエリックの胸に突き刺すことに成功した。グレゴールは怒りに燃え、騎士に斬りかかったが、致命的な一撃を胸に受けた。
アルデンは叫んだ。
「ダメだ!!」
怒りに駆られた彼は突進し、騎士の首をはねた。
アルデンはエリックとグレゴールのもとへ駆け寄った。
グレゴールはすでに息をしていなかった。
アルデンは生きているエリックの側へ行った。
エリックはアルデンの手を握り、言った。
「兄さん、戦いの中で僕を守ってくれてありがとう。僕とグレゴールはきっと大丈夫だよ。」
血で咽せながら彼は続けた。
「お願いだ…母さんと妹に伝えてほしい。僕とグレゴールは彼女たちを愛しているって。彼女たちが幸せでありますように… そして、僕が立派な英雄だったと伝えてくれ、頼むよ、兄さん…」
涙を流しながら、アルデンは答えた。
「ああ、兄さんが必ず伝える。」
エリックは微笑んだ。
「僕の時間が来たみたいだ… アルデン、僕のためにも幸せになってくれ!」
そして、エリックは息を引き取った。
その瞬間、アルデンは絶望し、無力感に襲われた。
戦いは血まみれだったが、王国軍は敵を撤退させることができた。
その後、彼の部隊は故郷へと戻ったが、多くの犠牲を出していた。
セドリック卿 (セドリック卿) はアルデンに語った。
「戦場では仲間の死は避けられない。だからこそ、生きている者は亡くなった者たちを讃え続けるべきなのだ。」
アルデンは涙を流した。
翌日、故郷へ戻ったアルデンは花を買った。花の優しい香りは、まだ彼の肌に染み付いている血の鉄臭さとは対照的だった。それは戦いの残酷な記憶を思い出させた。
彼はゆっくりとグレゴールとエリックの家へと歩いた。まるで過去へ引き戻されるかのように、一歩一歩が重く感じられた。
扉を叩くと、無表情だが好奇心を帯びた声で少女が迎えた。
彼女の暗い瞳には、何かが宿っていた――隠された痛みか、あるいは揺らぐ希望か。
「あなたは誰?」 彼女は感情を押し殺した声で尋ねた。
アルデンは花を握りしめ、喉を鳴らした。
「アルデンです… あなたのお母さんとお話ししたい。」
少女は一瞬ためらったが、それでも母親を呼んだ。
女性が扉の前に現れた瞬間、アルデンの胸が締めつけられた。彼女の疲れた顔には深い悲しみが刻まれていた。その痛みを、アルデンはよく知っていた。
「こんにちは。僕はアルデンです。あなたの息子さんたちと一緒に戦場にいました。」
彼女はアルデンを家の中へ招いた。
家の中は、ほんのりと淹れたての茶と古い木の香りが漂っていた。アルデンは硬い木の椅子に腰掛け、これから交わすべき言葉の重みを感じた。少女も彼の向かいに座り、その瞳はすべてを見抜こうとするかのように真っ直ぐだった。
女性は彼にお茶を差し出した。湯気がゆっくりと上がり、アルデンの顔を温めたが、彼の心の中の空虚さを埋めることはできなかった。
「僕は… 14歳の頃にグレゴールとエリックに出会いました。」
「彼らは、とても明るくて元気な人たちでした。」
その瞬間、彼らと過ごした日々の記憶が頭に浮かび、アルデンは涙をこぼした。
「僕は最後の戦いで彼らと一緒にいました。あの日、グレゴールは僕の命を救ってくれました。僕は… 彼らの最期の瞬間もそばにいました。」
「ごめんなさい… でも、エリックはあなたたちに伝えてほしいと言いました。『僕たちは母さんと妹を心から愛している。だから、どうか幸せでいてほしい』と。」
沈黙が満ちた。女性の震える息遣いが部屋を満たし、やがて、涙が彼女の頬を伝った。少女もまた、静かに泣いていた。二人はそっと抱き合い、言葉では埋められない痛みを分かち合った。
アルデンの喉が詰まるのを感じた。すると、女性は震える手で彼の手をそっと握った。
「後悔しないで、アルデン。私の息子たちは、あなたにそう願っていないはず。あなたが伝えてくれたこと、それだけで私は幸せです。」
そう言うと、彼女はアルデンを優しく抱きしめた。
その瞬間、アルデンの心の奥底で何かが変わった。胸に燃え上がっていた怒りと痛みは、深く封じ込められた。
彼は別れを告げた。その時、彼はもう二度とこの家を訪れることはないだろうと感じた。
しかし、3年後。
かつて彼の前に座っていた少女が、城で再び姿を現した。
その眼差しは、かつてのものとは違っていた。真剣で、決意に満ちていた。
彼女はダニエル (ダニエル) に同行し、戦場へ向かうことを望んでいた。
アルデンは彼女を止めようとした。必死に戦った。しかし、彼は敗れた。
敗北の衝撃よりも大きかったのは、彼女を戦場へ送らねばならないことへの絶望感だった。彼女を守りたかった。彼女が兄たちと同じ運命を辿ることを阻止したかった。しかし、それは叶わなかった。
その日、アルデンは心の中で誓った。
「僕がイザベル (イザベル) を守る。」
そして今、彼女の隣を馬で駆けながら、アルデンの胸は締めつけられるようだった。
彼は世界のことなどどうでもよかった。ただ、彼女のそばにいたかった。
「…僕は彼女に恋をしたのかもしれない。」
本章では、アルデンの過去と彼の決意、そして新たな感情が交錯する様子が描かれた。彼が抱える痛みと向き合いながらも、仲間や愛する者とのつながりによって前へ進もうとする姿は、読者にも共感を呼ぶことだろう。過去の亡霊に囚われながらも、それを乗り越えようとする彼の旅路は、まだ終わりを迎えない。次なる戦いの中で、彼が見出すものとは何なのか——その答えを共に見届けてほしい。