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第31章: 南への道 – 戦略と思索

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この物語は毎週、公式YouTubeチャンネル Hirono Monogatari で公開されています。ぜひご覧ください!www.youtube.com/@hironomonogatari.


南方の灼熱の大地は、避けられぬ戦いの訪れを告げていた。ダニエルと仲間たちはヴァルガルド砦へ向かい、敵兵だけでなく、バルサスの闇に侵された大地そのものと対峙することになる。地面は不吉に揺れ、乾いた風が破滅の予兆をささやく。戦略と覚悟を胸に、彼らは未知の戦場へと足を踏み入れる。そこでは、勇気が試され、生き残ることさえ容易ではなかった

太陽がすでに高く昇った頃、ダニエルとその仲間たちは南へ向けて旅を始めた。彼らの目的地はヴァルガルド砦。そこでは増援を待つ兵たちがいた。道が進むにつれ、土地はますます荒れ果て、火山地帯の影響が色濃くなっていく。その地こそ、バルサス将軍が潜伏し、襲撃を繰り返している拠点であった。セドリック卿は100人の兵をダニエルたちに託した。魔術師、槍兵、剣士、騎士──様々な兵科からなる部隊である。


緊張感が漂っていた。気温は上昇し、乾燥した空気が馬の疾走に巻き上げられる砂塵と共に広がっていく。時折、地面が揺れる。火山活動の前触れのようだった。


道中、ダニエルは額の汗を拭いながら、灼熱の空気に違和感を覚えた。


「この暑さ……」


呟く彼に、エリアナが真剣な眼差しを向ける。


「気候のせいだけではないわ。バルサスの影響が、この土地全体を蝕んでいるのよ」


ダニエルは眉をひそめた。


「どういうことだ?」


「強大な魔将は、その力によって支配する土地に影響を及ぼすの。バルサスの場合、この火山地帯の魔力を増幅させて環境そのものを敵に変えているわ。灼熱の空気、頻発する地震……すべて彼の影響よ」


エリアナは荒涼とした景色を眺めながら溜息をついた。


「本来のヴァルガルドは、こんな土地ではなかったのに……。火山の噴火が始まったのは、魔族が攻め入ってきてからよ」


ダニエルは拳を強く握った。彼らが戦っているのは敵軍だけではない。この大地そのものが、魔族の手によって汚染されていたのだ。


彼らが戦場へ向かう中、ダニエルとアルデンはヴァルガルド砦を強化するための作戦について話し合った。


「部隊を二つに分けるのが得策だ」


アルデンは馬を駆りながら提案する。


「お前とイザベルが45人を率い、俺とエリアナ姫が55人を指揮する」


ダニエルは頷いた。その布陣には合理性があった。イザベルの指揮能力には信頼を置いているし、アルデンが前線を率い、エリアナが弓兵として後方支援に回るのは理に適っている。


「奇襲には警戒が必要だ」


アルデンは遠くの地平線を見つめながら続けた。


「バルサスは狡猾な戦略家だ。この火山地帯を熟知しているし、灼熱の大地や噴火すらも利用するだろう」


ダニエルは黙って考え込んだ。100人の増援がいるとはいえ、相手は恐るべき魔将である。一つの判断ミスが命取りになりかねない。


彼の表情を見て、イザベルが馬の手綱を引き寄せ、隣へと並んだ。


「そんなに深刻な顔をしないで」


彼女は微笑む。


「危険な任務なのは分かってるけど、私たちは必ず生きて帰るわ」


ダニエルは彼女を見つめ、小さく微笑んだ。しかし、すぐには返事をしなかった。


旅を続けるうちに、豊かなエルドリアの風景は後方へ消え、岩だらけの荒野と焼けつくような熱気が支配する世界へと変わっていった。彼は辺りを見回しながらも、心は別の場所にあった。かつての世界──喧騒に満ちた街並み、暴力、日々の生存競争。その記憶と、今直面している戦いを重ね合わせていた。


「故郷のことを思い出しているの?」


イザベルが問いかける。


ダニエルは静かに息を吐いた。


「いや……俺がなぜここにいるのかを考えていたんだ。気づけば軍を率いて戦いに向かっている……それが何だか現実離れしている気がしてな」


「分かるわ」


イザベルは視線を前方に向けたまま言った。


「でも、一人で抱え込まないで。私たちは仲間よ」


彼は小さく頷き、心が少しだけ軽くなった気がした。


少し前方では、エリアナとライラが馬を並べながら会話を交わしていた。


「この暑さ、本当に耐えられないわ……」


ライラはフードを引き上げながらぼやく。


「私もよ」


エリアナは同意しながら、険しい表情を浮かべる。


「でも、問題は気温じゃない。バルサスと共にいる“あの存在”よ」


「セドリック卿が言っていた、特別な魔族?」


ライラが尋ねる。


「ええ。バルサスと深い繋がりを持つ存在。二人を分断するのが作戦だけど……その方法が分かっていないのが不安ね」


その時、ニクスがダニエルの肩に飛び乗り、小さく唸った。


「どうした?」


ダニエルは小さな魔獣を見つめる。


「前方に強い魔力の波動を感じる」


ニクスの目が淡く光る。


「誰か、もしくは何かが、こちらの動きを監視している」


ダニエルはアルデンとエリアナに素早く視線を送った。


「バルサスの斥候かもしれんな……」


アルデンは腰の剣に手をかける。


「もしそうなら、すでに我々の接近を察知している」


エリアナも弓を手に取る。


「ならば、急ぐしかない」


ダニエルは馬を走らせ、部隊に号令をかける。


「敵に包囲網を敷かれる前に、一気に進むぞ!」


彼らは速度を上げた。


焼けつく熱気の中、息もつけぬ緊張感が張り詰める。


決戦の時は、すぐそこに迫っていた。


この章では、戦いが迫る中で主人公たちが抱える心理的な重圧にも焦点を当てている。敵の脅威は単なる兵力ではなく、バルサスの支配する大地そのものにも表れているのだ。軍事戦略を練る一方で、ダニエルは自身の恐れや疑問と向き合い、この戦争における自らの役割を問い直す。彼らが決戦の地へと近づくにつれ、これは単なる力の戦いではなく、精神力と覚悟を試される戦いであることが明らかになっていく。

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