第28章: 翌日
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戦いが終わったわけではない。ダニエルと仲間たちは次なる敵に向けて心を新たにし、訓練と準備を始める。彼らの旅路はまだ始まったばかりだが、王たちの期待と重圧が彼らを導いていく。仲間との絆を深めながら、ダニエルは自身の使命に向き合い、決意を固めていく。
ダニエルは不安な夢の中に囚われていた。広大で霧に包まれた原野を歩き続ける中、彼の前に女神フリッグが現れた。彼女の姿は柔らかで静かな光に包まれていた。
-ダニエル。-
フリッグの声はそよ風のように優しく、どこか安心感を与えるものだったが、その中には興味深げな響きも含まれていた。
-戦いの後、あなたが経験した全てを振り返って、本当のところ、今どんな気持ちですか?-
ダニエルは躊躇しながら地面を見つめ、少し震える手を握り締めた。
-…辛かったです。-彼はかすれた声で答えた。
-目の前でたくさんの人が倒れていくのを見て…戦場に散らばる遺体の数々…。こんなに恐ろしい現実を目の当たりにするなんて、思ってもみませんでした。-
フリッグは一歩近づき、その表情には深い理解が浮かんでいた。
-それでも、あなたは迷うことなく英雄としての道を選びましたね。その時、あなたの心には何が浮かんでいましたか?-
彼女の声は依然として優しかったが、より鋭い探求心が含まれていた。
ダニエルは顔を上げ、女神のまっすぐな視線に応えた。
-…逃げたかったんです。-彼は感情を押し殺せないように話し始めた。
-僕の世界では、ただの弱い存在でした。いじめられ、無力で、孤独でした。どれだけ心が痛くても、それを隠して笑顔を作り続けていました。でも、この世界では違いました。困難な状況でも、人々は僕を受け入れてくれました。ここで初めて、自分の居場所を見つけた気がしました。だから、この世界を救う使命を裏切るわけにはいきません。僕を信じてくれる人たちを失望させたくないんです。-
フリッグは小さく頷き、共感を込めた眼差しを向けた。
-過去の痛みから逃れるために新たな困難を選んだのですね。この世界の方がもっと簡単だと思っていたのですか?-
ダニエルは深呼吸し、感情を抑えようとした。
-はい。やり直せると思いました。もっと強くなって、何かを変えられると。でも、そんな簡単なことじゃありませんでした。仲間が目の前で命を落とすのを見て、自分の命を守るために戦うことは…最初は耐えられませんでした。剣を持つことさえ怖かった。でも、エリヤナやイザベル、リラ、そして他のみんなが僕を信じてくれました。それが僕に前に進む力をくれました。だから、もう諦めるわけにはいきません。-
フリッグの瞳には誇らしげな輝きが宿っていた。
-人々の信頼の中で力を見つけたのですね。それこそ英雄の証です。どんなに暗い時でも、そのことを忘れないでください。-
彼女は微笑みながら、少し首を傾けた。興味深そうな表情が再び浮かぶ。
-ところで、イザベルのことですが…彼女の告白には驚いたでしょう?-
ダニエルの顔は一瞬赤くなり、視線をそらした。
-…驚きました。イザベルは本当に強くて、決断力のある人です。彼女の告白には心を打たれました。でも…僕はこういうことには慣れていなくて…。-
フリッグは柔らかく笑いながら尋ねた。
-それで、彼女に何と答えたのですか?-
ダニエルは少しため息をつきながら、慎重に言葉を選んだ。
-すべてがあまりにも急で、まだどう向き合えばいいのか分からないと伝えました。彼女は僕にとって大切な人です。でも、今の状況では、自分の気持ちを整理する時間が必要です。-
フリッグは優しく微笑み、彼を見つめた。
-あなたがここで築いている関係は深いものです。共に歩む仲間たちは、これからの困難を乗り越えるための大切な存在になるでしょう。その支えを決して軽視してはいけませんよ。-
夢の中の光景が薄れていく中で、フリッグの最後の言葉が優しく響いた。
-勇気を持ちなさい、若き英雄よ。あなたの運命はこれからが始まりです。-
夢が次第に薄れ始める中、ダニエルの胸には新たな決意が芽生えていた。
太陽はすでに高く昇っていたが、そのとき、ダニエルは急に強い揺さぶりを感じて目を覚ました。目を開けると、そこにはいつもの攻撃的な表情を浮かべたイザベルが立っていた。
-おはよう!-と、まだ眠そうにしながらも、昨晩のあの繊細な瞬間を思い出して微笑んで言った。
イザベルは目を細め、いつものように腕を組みながら言った。
-おはようじゃない!もう昼過ぎだよ!寝坊したんだね!セドリック卿、アルドリック王、そしてセラフィナ女王が後で話があるから、早く準備しなさい!-
ダニエルは小さく笑いながら、彼女がほんの数時間前に告白したことを思い出して驚きを隠せなかった。
-わかった、わかった。すぐに準備するよ。-
昨夜の出来事を思い出しながら、大きなため息をついてベッドから立ち上がった。
その間、城の別の場所では、リラとエリアナがそれぞれの思いにふけっていた。
エリアナは自室の窓から外を見つめながら、唇をかみしめて昨晩の宴を思い返していた。
-やっぱり、あの時に勇気を出して踊りに誘うべきだった…-
彼女は自分に対して苛立ちながら、心の中でつぶやいた。
-イザベルに気後れしていた場合じゃない。次こそ、必ずチャンスを掴んでみせる。-
一方、リラは城の庭の小さなベンチに腰を掛け、ぼんやりと花を眺めていた。
-私も一緒に踊りたかったのに…でも、自分の気持ちに縛られて動けなかった。-
そう呟きながら大きな息をついた彼女は、次は絶対にチャンスを逃さないと心に誓った。
二人の思いは同じだった。戦いはまだ終わっていない。ダニエルに近づくための機会はきっとまた訪れると信じていた。
その日の午後、ダニエル、アルデン、イザベル、エリアナ、リラは謁見の間に呼ばれた。そこにはアルドリック王、セドリック卿、セラフィナ女王が待っていた。
王は威厳のある姿勢で静かに口を開いた。
-最近の戦いでは、皆、見事な勇気と能力を発揮した。その成長は目覚ましいものだ。決して見過ごすことはできない。-
セドリック卿は一歩前に出て、誇らしげに微笑みながら言った。
-だが、まだ道のりは長い。残る魔将軍は6人。彼らは前回の敵よりもさらに強力だ。お前たちにはさらなる訓練と成長が求められる。強さと戦略が揃って初めて勝利が得られるのだ。-
セラフィナ女王は穏やかな笑顔を浮かべながら静かに語った。
-一瞬一瞬の訓練と準備がこの戦争の勝敗を分ける。お前たちにはその力があると信じているが、心の準備も忘れないように。-
ダニエルとその仲間たちは真剣な表情で王と女王の言葉を聞き、彼らが背負う使命の重さを実感した。戦いは始まったばかりだ。だが王たちからの評価を受けたことで、全員が新たな意欲を燃やしていた。それぞれが強くなることを心に誓った。
それは自分のためだけでなく、仲間との絆を守るためでもあった。
謁見を終えた彼らは、決意を新たにその場を後にした。次なる魔将軍との戦いに備え、さらなる鍛錬を積む必要があった。未来はまだ不確かだが、ダニエル、エリアナ、リラ、そしてイザベルはどんな困難が待ち受けていても共に乗り越える覚悟だった。
道は険しいが、彼らにはそれを乗り越える力があると信じていた。
戦いの中で成長したダニエルたち。しかし、その先にはもっと強大な敵が待ち構えている。新たな力を手に入れるためには、彼らはさらに厳しい訓練に挑まなければならない。王たちの言葉を胸に、彼らは次なる試練に立ち向かう覚悟を決めている。