第26章: 夜の光の下で
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第26章「夜の光の下で」は、パーティーの喧騒から離れたダニエルとイザベルの静かな瞬間に焦点を当てています。星空と街の灯りに包まれた二人の場面は、言葉にできない感情や繊細なジェスチャーの美しさを際立たせています。宴会の活気と対照的なこの親密な時間は、登場人物たちの内面世界や、これまでの出来事が彼らの人生に与えた影響を深く理解する機会を提供します。
ダニエルは静かに宴会場を抜け出した。その足取りは穏やかだが、どこか決意が感じられるものだった。パーティーは最高潮に達しており、彼の不在に気付く者はいなかった。彼はバルコニーにたどり着くと、手すりにもたれかかり、下に広がる王国の景色を見下ろした。街の灯りに照らされた風景は穏やかで、パーティーの喧騒や心の中の渦巻く思いから一息つける安らぎを与えてくれた。
しばらくして、イザベルが静かに、そして少し控えめな様子で現れた。まるで近づくことにためらいを感じているかのようだった。いつも観察眼の鋭いアルデンは、彼女とダニエルがそれぞれ出て行くのを見て、ほのかな笑みを浮かべていた。リラとエリアナがダニエルの居場所を尋ねに来ると、アルデンは軽く肩をすくめてこう答えた。
「たぶん…トイレにでも行ったんじゃないかな。」
そう言って、知っていることを巧みに隠した。
バルコニーでは、夜風がイザベルの髪をそっと揺らしていた。彼女がダニエルに近づくと、ホールよりも明るく見える夜景が広がり、街の灯りが窓に映り、空には星が顔を出し始めていた。
イザベルの接近に気づいたダニエルは、彼女の方へ振り向き、どこか心配そうな表情を浮かべた。
「イザベル、そんなに真剣な話って一体何だい?」
その声は落ち着いていたが、わずかな不安が感じられた。彼はこんなに控えめなイザベルを見たことがなかった。
イザベルは一瞬目をそらし、恥ずかしそうにしながらも、必死で言葉をまとめようとしていた。しかし、いつものように不安を隠すために攻撃的な口調になってしまった。それでも、その声にはかすかな震えと脆さが混じっていた。
「どうしてあんなに私を心配させたの?」
彼女は震える声で話し始めた。
「あなた、あの戦いで命をかけすぎたわ、ダニエル…。あなたが倒れたとき、私は…あなたを失ったと思った。本当に怖かったんだから。」
ダニエルの目が驚きに見開かれた。彼は確かに、最後の戦いで将軍ザーナックと戦う中で限界を超えた力を振り絞り、身体が耐えきれないほどの重圧を受けていた。そして意識を失った瞬間の記憶は今でも鮮明だった。
イザベルは続けた。その声は先ほどよりも小さく、彼女の強い仮面が崩れ始めていた。
「あの時、地面に横たわるあなたを見たとき…私は自分の中の何かが壊れていくのを感じた。…本当に死んじゃうんじゃないかって。」
彼女の目には涙が浮かび、今にも零れ落ちそうだった。
「でも、あなたが目を開けてくれたとき、私は信じられないくらい安心したの。まるで心の重荷が一気に消えたみたいだった。そして、今日あなたと踊っているとき、あなたの温もりを感じて…私は、本当に幸せだって思えた。」
ダニエルは沈黙し、その言葉の重みに心を打たれていた。彼女がこんなに率直に気持ちを伝えるなんて予想していなかったが、彼女がどれだけ深く考えているかが伝わってきた。
イザベルは顔を赤らめながら、最後の一歩を踏み出した。
「ダニエル…私、あなたのことが好きなの。」
その告白は力強く、それでいて柔らかく彼女の口からこぼれた。
ダニエルがそれを完全に受け止める前に、夜空に花火が打ち上げられた。鮮やかな色彩が闇を照らし、夜空に瞬きながら広がっていく光景が、まるで二人の静かで感情的な瞬間と対照的に映った。
ダニエルの目がイザベルの目と交わり、その瞬間、時間が止まったかのように感じた。周囲のすべてが消え去り、二人だけの世界が広がった。その世界には、言葉にならない感情と明かされた想いが満ちていた。
この章は、イザベルがついに自分の気持ちをダニエルに告白するという、感情的なクライマックスで幕を閉じますが、彼の返事は次の章へと持ち越されます。この物語展開は、読者にさらなる期待感を抱かせる絶妙な緊張感を生み出します。夜空に打ち上げられる花火の描写は、この場面の持つ激しさと不確かさを象徴し、告白の重みを鮮やかに表現しています。読者は、この告白がダニエルにどのような影響を与え、二人の関係がどのように変化していくのかを見届けることを心待ちにするでしょう。