第24章:告白と葛藤
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第24章「告白と葛藤」は、読者を壮麗で感情的な緊張感に満ちた場面へと誘います。豪華な舞踏会の中で、登場人物たちの葛藤が絡み合い、それぞれの心の内に秘めた想いが浮き彫りになります。輝かしい宮殿の景色と、胸中に渦巻く感情の対比が、美しくも切ない物語を際立たせています。
王宮の大広間は眩いばかりの輝きを放っていた。天井から吊るされた豪華なシャンデリアが柔らかく黄金色の光を放ち、柱には鮮やかなタペストリーと新鮮な花々が飾られている。王国中から集まった貴族たちがすでに宴を楽しんでおり、煌めく宝石とざわめく会話が交錯していた。奥では優雅な音楽が流れ、夜の一大イベントへの期待感を高めていた。
ダニエルはエリアナ、リラ、そしてイザベルを伴って大広間に入った。それぞれが彼の隣に立ちながら、三人の間には明らかな緊張感が漂っていた。彼女たちの心の中には、一番近くに寄り添いたいという思いが渦巻いていた。
エリアナはその高貴な姿勢と自然な優雅さを保ちながらも、胸の鼓動が速くなるのを感じていた。
「私こそが彼の隣にいるべきよ。私は王女なんだから。でも、どうしてこんなにも難しいの?」
彼女は来客たちに礼儀正しく微笑みかけていたが、その視線は常にダニエルを追っていた。
「彼にとって、私はただの指導者なのかしら…それとも?」
リラは、治癒師としての穏やかな顔を保ちながらも、その心は複雑な感情に包まれていた。彼女はこれまで舞踏会にも、踊ることにも興味を持ったことがなかった。しかし、今夜は違った。
「ただ一度だけ…彼と踊れたら、それだけでいいのに。」
身分が王女のエリアナに及ばないことを自覚していたが、それでも抑えきれない想いが胸にあふれていた。
一方でイザベルは、自分なりの方法で感情と向き合っていた。その結果、彼女の顔にはいつものしかめっ面が浮かんでいた。
「なんで彼に近づくことすらこんなに難しいの?」
ダニエルを遠くから見つめる彼女の眼差しには、憧れと苛立ちが入り混じっていた。感情が大きくなるのを自覚しながらも、それをこの場で晒すことが恥ずかしく、壁際で身を隠したくなる衝動に駆られていた。
「このバカみたいな宴会も、ダニエルも…私をこんな気持ちにさせるなんて。」
ダニエルが王と短い会話を交わした後、正式に王国の騎士に任命された。大広間を埋め尽くした貴族たちが拍手喝采を送る中、次々と彼に祝辞を述べに近づいてきた。エリアナ、リラ、イザベルはそれぞれ距離を取りながら、彼が形式的な挨拶をこなす姿を見守っていた。その心の中では、それぞれがどうやって彼に近づくべきか悩み続けていた。
一方、広間の向こうでは、エリアナの母であるセラフィナ王妃が微笑みながら娘に近づいてきた。王妃は、娘がダニエルに視線を送るたびに見せる微妙な表情を見逃さなかった。
「エリアナ。」
王妃は優しい口調で話しかけた。
「彼に近づくのを恐れる必要はないのよ。あなたがどんな選択をしても、私はあなたを応援するわ。」
エリアナは頬が熱くなるのを感じながらも、母に笑顔を返した。
「そんなに分かりやすいの?」
セラフィナは軽くウインクして微笑んだ。
「母親には全てが見えるものよ。」
同じ頃、熟練騎士のセドリック卿がリラと穏やかな会話を交わしていた。彼は、リラが今夜見せている緊張を敏感に察し、父親のような気遣いで助言を与えることにした。
「ダニエルはここまで英雄としてよくやってきた。」
セドリックは意味深な視線を彼女に向けながら続けた。
「そして君も、仲間を支える素晴らしい役割を果たしているよ。ただ、人生は短いものだ。時には、リスクや愚かに思える選択も必要だ。若いうちは多少の失敗をしてもいい。でも、唯一許されないのは後悔することだ。」
リラは唇を噛みながら、その言葉を心に刻んだ。彼が言う通りだと理解しつつも、行動に移すのは容易ではなかった。
「…思い切って彼にダンスを申し込むべきなの?」
一方、イザベルは大広間の隅で壁に寄りかかり、腕を組んで宴会から距離を取るようにしていた。彼女の視線は遠くのダニエルに向けられ、その瞳には羞恥心と恐怖が入り混じっていた。
「彼に話しかけるべきか…でも、もし失敗したらどうする?」
そう考えながら首を振って不安を振り払おうとしたが、効果はなかった。
その時、ダニエルの仲間であるアルデンがにこやかに近づいてきて、イザベルの険しい表情に気付いた。
「おい、イザベル。こんな隅っこで何してるんだ?」
アルデンは笑みを浮かべながら尋ねた。
「パーティーを楽しんでるんじゃないのか?」
「楽しんでるわよ。あんたには関係ないでしょ。」
イザベルは明らかに苛立ちながら答えたが、その態度にアルデンは動じなかった。
彼はさらに一歩近づいて、からかうような口調で言った。
「本当にそうか?君の様子を見てると分かるよ。君、ダニエルに恋してるだろう?」
イザベルは一瞬言葉を失い、顔が真っ赤になった。
「…そんなに分かりやすい?」
彼女は困惑しながら尋ねた。
アルデンは軽く笑いながら頷いた。
「まあな。それに、庭でリラが一人で何かブツブツ言ってるのを聞いたけど、彼女も同じようにダニエルが好きみたいだぞ。」
その言葉にイザベルはさらに顔を赤くし、完全に動揺していた。
「バカみたい…どう接すればいいか分からない。」
アルデンは彼女の肩に軽く手を置いて、優しく言った。
「俺たちはみんな若いんだ、イザベル。もし好きなら、後悔しないようにするんだ。気持ちを伝えることで楽になることもある。なあ、彼を誘って踊ってみたらどうだ?」
イザベルは反論しようと口を開いたが、言葉が喉につかえてしまった。遠くで貴族たちに囲まれているダニエルを見つめながら、心の中で葛藤していた。
「もしかして…彼の言う通りかもしれない。」
その頃、エリアナ、リラ、イザベルは大広間を挟んで互いの視線が交わり、同じ思いを抱いていることを悟った。鼓動が高鳴る中、三人は同時に決意を固めた。ダニエルを踊りに誘うのだ、と。
それぞれが彼に向かって歩き出した。足取りは不安定だったが、心は揺るぎなかった。しかし、三人の誰よりも先に、幼い声が響いた。
「ダニエルおじさま、私と踊ってくれる?」
声の主はエリアナの妹、8歳のヘレンだった。大きな瞳をキラキラさせながら、期待に満ちた表情でダニエルを見上げていた。
ダニエルは彼女に優しく微笑み、言った。
「もちろんだよ、ヘレン。君と踊れるなんて光栄だ。」
彼は彼女の小さな手を取り、二人は広間の中央でユーモラスなダンスを踊り始めた。その光景に大広間の全員が笑顔になり、笑い声が響いた。
エリアナ、リラ、イザベルはその場で足を止め、微笑みながらも複雑な思いでその光景を見つめていた。彼女たちのダンスの番は、もう少しだけ先延ばしになりそうだった。
「告白と葛藤」は、登場人物たちが自分自身の恐れに向き合いながら、感情と行動の間で揺れる様子を描いています。運命の瞬間は、偶然ではなく、勇気によって切り開かれるべきだと示唆する展開に、読者は心を揺さぶられることでしょう。この章は、理性と感情の交錯が生む余韻を残し、次の展開への期待を膨らませます。