第23話:静かな想い (しずかな おもい)
この物語は毎週、公式YouTubeチャンネル Hirono Monogatari で公開されています。ぜひご覧ください!www.youtube.com/@hironomonogatari.
この章では、静かに燃え上がる少女たちの想いが描かれる。それぞれの心の中で揺れ動く感情と葛藤。そして、その先に待ち受ける運命の夜。その瞬間が、彼女たちにどんな答えをもたらすのか――物語が静かな熱を帯びて進んでいく。
夕暮れが空をオレンジと黄金色に染める頃、城内は今夜の盛大な宴の準備で慌ただしく動き回っていた。着飾った人々、音を立てる食器、走る召使い――だが、その喧騒とは裏腹に、ある三人の少女たちは静かな戦いを心の中で繰り広げていた。
ダニエルは別室で既に準備を終えていたが、今、焦点が当てられるのは彼ではなかった。
エリアナ
王女エリアナは自室の鏡の前に立ち、長い金髪の上にそっとティアラを乗せた。その姿は優雅で気高く、まさに王女そのもの。しかし、彼女の心は遠く、はるか彼方へと飛んでいた。
――「どうしてこんなに難しいの?」
胸の内で呟く言葉は、彼女自身への問いかけ。英雄ダニエルが王国へ来て以来、何かが変わった。いつもの強さや決断力が、彼の前では霧のように薄れてしまう。
「私は王女なのよ。感情に流されるわけにはいかない…」
鏡越しに見つめる自分にそう言い聞かせる。しかし、ダニエルの瞳と目が合った瞬間、胸が高鳴り、頬が熱くなるのを止められない。
――「彼は私をどう思っているの?」
その答えが欲しい。だが、もし彼がただの「王女」としてしか見ていなかったら――。
リラ
一方、庭ではリラがカモミールを摘んでいた。彼女の指先は慣れた様子で動いていたが、その心は静かではなかった。
――「どうして、彼のことばかり考えてしまうんだろう?」
リラは、ただの治癒士だ。王女でもなければ、戦士でもない。彼女にとってダニエルは眩しすぎる存在だった。
「勇敢で優しくて… いつだって他人を助けようとする。そんな彼を好きになるのは、仕方ないよね…」
だけど、同時に分かっていた。エリアナ王女も、イザベルも――彼女たちもダニエルを想っている。
――「私なんかじゃ敵わない…」
そう思いながらも、胸の奥に広がる想いは静かに強くなっていく。自分の気持ちを伝えることは許されるのだろうか。それとも、このまま黙っているべきなのか――リラの心は揺れていた。
イザベル
イザベルは部屋でドレスの袖を乱暴に引っ張りながら、小さく舌打ちした。彼女らしい苛立った仕草だが、その瞳の奥にはいつもと違う感情が隠れていた。
――「なんでよ… なんであいつなの?」
自分自身が一番分からない。ダニエルのことを考えるたびに、心が揺れる。それが嫌で、つい彼に辛く当たってしまう。
――「優しくしてくるから、こんな気持ちになるんじゃない…!」
彼女の頬が赤くなり、枕に向かって拳を打ち付ける。
「大っ嫌い… でも…」
その先の言葉は、声にはならなかった。
その時、部屋のドアが開き、ダニエルの仲間であるアルデンが入ってきた。
「おい、イザベル。何か考え込んでんのか?」
突然の問いに、イザベルは顔を真っ赤にして振り返る。
「な、何も考えてないわよ! あんたには関係ない!」
強がる彼女を見て、アルデンは苦笑し、両手を挙げて降参のポーズをとる。
「はいはい、分かったよ。でもさ、素直になったら楽になるんじゃねぇの?」
軽く言い捨てて部屋を出るアルデンを見送り、イザベルは一人、深いため息をついた。
三人の静かな戦い
エリアナ、リラ、イザベル――彼女たちは、それぞれの形でダニエルへの想いと向き合っていた。
「この気持ちを伝えるべきか。それとも…?」
心に秘めた答えは、まだ出せない。だが、一つだけ確かなのは、今夜の宴が彼女たちにとって特別な夜になるということだった。
そして、窓の外には夕日が沈み、夜の帳が静かに降りていく。
運命の夜は、もうすぐそこまで来ていた――。
三人の少女たちが胸に秘める想いと向き合うこの物語は、静かなようでいて、内心では激しい嵐のようだ。彼女たちの葛藤は、ただの恋心にとどまらず、成長や選択の物語でもある。彼女たちの未来に何が待っているのか、物語の行方に期待が高まるばかりだ。