03-閑話2_ゴトー
ん?見ない顔だな。
ああ、最近来たっていう子らか。
ギルドへようこそ、俺はゴトー、剣士だ。
…そうだな、このギルドでは古参の方だ。
…話といってもな…あぁ、なるほど。
昼間に来ていたあの子のことか?
あの子はクロー、ここの領主ホーンテップ男爵様の三男だ。
縁あって俺が剣を教えている。
…い〜や、別に俺が特別、何か功績があったとか、名声があるワケじゃないんだ。
ギルマスにも聞いたが、ある程度の腕前で、貴族様と揉め事起こさない奴、という条件に合ったのが俺だったんだと。
確かに、昔、貴族様相手の仕事もしたことあるし、このギルドではまだ落ち着いてる方だっていう自覚もあるしな。
ま、俺の話はいいか、クロー君のことが聞きたいんだろ?
…ああ、「君」呼びで良いって言われてるんだ。
俺だけじゃなく、誰でも気にせずそう呼んでくれて良い、ってあの子が言ってるのさ。
「自分は妾の子なので、男爵家を継承する資格なんて無い」から、だそうだ。
…あぁ、本人がそう言ったんだ。…2年前に。
確か今10歳のはずだが、あの子はその時から自分の立場が分かってたのさ。
2年前、初めて来たギルドで、クロー君からそれを聞いた時は胸糞悪くなったがな…
最初、茶々入れてたヤツラもそれ聞いて黙っちまってたっけ。
そんな中でも、当の本人はニコニコして、俺の話を聞いてくれてたよ。
貴族の子息様なんて、普通、地味な基礎練習はしたがらないって思っていたんだが、クロー君はうんうん頷いて、自主練まで欠かさす2年間続けてる。
…うん、良い子なんだよあの子は。
けどな、俺に出来ることなんて、剣を教えることしかないんだよな。
…また、俺の話になっちまったな。
ん?今日話してた人か?
あれは商業ギルドの職員だよ。
近くだからな。用事があるとこっちに来るんだよ。
え、違う?
なんでクロー君と話してたか?
そっか、そりゃそうだな。
1年くらい前、クロー君が興味を持って、孤児院に案内したことがあったんだ。
…流石に一人で行かせたりはしないさ。
んで、最初は院の子達も反発的だったんだが、何故かクロー君は乗り気でね、何度か通って喋るうちに、普通に挨拶されるようになっていた。
そしたらいつの間にか、院の子達に木工加工を依頼しててな…これだ。
…これは遊戯版だ。こっちが「リバーシ」で、こっちが「ルドー」、見た目シンプルだろ?
ルールも簡単なんだが、やってみると面白くてハマッちまうんだ。
この町じゃ、結構流行ってるんだが…そうか。
ま、あとでやろうや。
でな、これを商業ギルドで孤児院と共同で著作権登録してるらしくて、その手続をしてるらしい。
…なんで共同にしてるか?
それな。俺も同じ質問をしたんだよ。
例えば、クロー君個人で登録した場合、「ゲームが流行ったら、絶対、父上が権利を寄こせ、って言ってくるとおもうんですよね。」だそうだ。
逆に孤児院で登録した場合は、マフィアに目を付けられたら終わりだ。
その点、共同にしておけば、いくらがめつい領主様でも、「数少ない孤児院の稼ぎ口」を没収するような世間体の悪いことは出来ないだろ。
また、マフィアにしたって、貴族様に手を出すような馬鹿な真似は出来ないだろう、ってことらしい。
これを聞いた時は、すっげぇ納得しちまったよ。
…ん?ああ、孤児院で直接売ってるよ。
高価な物じゃないし、人気だからな…もしかしたら、売り切れてるかもしれないが、俺に声を掛けてくれればいつでも貸すからよ。
とりあえず…やってみるか?
「くっ、また負けた!」
「ありゃ。まぁた負けてんのかい、ゴトー?」
「うるさい!ほらっ、もう一回だ、もう一回!」
「ほどほどにしときなよ?ま〜た新人に嫌われるぞ?」
「くっ、…後生だ!せめて、もう一戦だけ…たのむ!」
「いっちばん早く買ってやってるくせに、な〜んで強くなんねぇかなぁ?」